経済成長が生み出した貧富の格差や、気候変動の加速、紛争の多発による難民の増加……。SDGsとは、こういった課題を誰ひとり取り残さず解決し、美しい地球を、後世へつないでいくための「世界レベルの約束ごと」。私たちが日々どう暮らしていくかが、その達成に関わっています。
SDGsを意識し、暮らすことで、持続可能な未来に向かって、世界の人と目標が共有できます。
人を大切にする新たな目標。
「誰ひとり取り残さない(No one will be left behind)」という理念のもと、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標、「SDGs=Sustainable Development Goals」。
「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」など17のゴールと、具体的な目標である169の項目を掲げ、2030年までに達成することを目指している。SDGsの特徴は、開発途上国だけでなく先進国も取り組むべき普遍的な内容であり、さらには私たち一人ひとりが意識して行動することでゴールに近づけることだ。
『国連広報センター』では、SDGsの認知度の向上を図り、多くの人に自分ごととして捉えてもらうための取り組みを行っている。同センター所長の根本かおるさんは、SDGs成立の背景やその意図についてこう説明してくれた。
「SDGsの前身は2001年から2015年を実施期間とした、主に開発途上国の貧困問題解決に向けたMDGs(ミレニアム開発目標)です。
MDGsは大きな成果を収めた半面、目標の多くが削減率などで掲げられたため、『個人』が取り残される面もありました。2000年以降も紛争の数は増え続け、2017年末の調査結果では難民が計約685万人という、第二次世界大戦後、最悪の数になってもいます。さらに経済の発展に伴い、世界中でこれまでになかった格差が生まれました。こうしたなかで、忘れさられがちな人のことを最初から念頭に置き、『誰ひとり取り残さない』を理念に、ゴールを設定する必要がありました。この理念は、人が人として等しく亨受する人権の思想を、別の表現で言い表したものでもあります」
認知度を高めるための取り組み。
SDGsの採択から今年で4年目だが、女子の教育機会の不平等や、気候変動などに由来するとみられる飢餓人口の増加、ODAからの分配だけでは追いつかない資金不足の問題など、目標達成に向けて厳しさを感じることも多いと根本さんは言う。
「そのためにはまず知ってもらうことが大切です。ある全国紙が東京都、神奈川県在住の約3000人を対象にした2018年のアンケートで、『SDGsという言葉を知っている』人は14パーセントでした。SDGsではESG投資(社会や環境に配慮し、持続可能な経営を行う企業への投資)に関係する要素が多いためか、知っている方を職業別にみると管理職が多いようです。SDGsの達成には、一人ひとりが自分ごととして普段のライフスタイルに取り入れていくことが不可欠です。ビジネス層を超えた広がりにしていくことが現状の課題です」
現在、日本政府は「SDGs未来都市」としてSDGsに取り組む自治体を募集したり、2020年度から小学校、21年度から中学校の学習指導要領にSDGsに関する教育を取り入れたりするなど、認知度向上と実践につなげようとしている。
そして、国連広報センターは企業とも連携し、より柔らかく、より敷居を低く伝えることにも努めている。代表的なものが吉本興業とのコラボレーションで、「SDGsの概念を盛り込んだ漫才や、17の項目がわかるスタンプラリーを開催してもらうなどしました」。
芸人にとってもSDGsが「財産」や「引き出し」となり、彼らがそれを発信することで多くの人を巻き込める可能性を感じると、根本さんは話す。
「例えば『次長課長』の河本準一さんは今、SDGsについての講演や、いろんなイベントの司会をなさっています」
また、国連は世界的に人気のアニメ『きかんしゃトーマス』とタッグを組み、未就学児向けの番組にジェンダー平等や多様性などのメッセージを盛り込むことができた。
SDGsの17項目はお互いに結びついています。意識して暮らせば、自分の心も豊かになります。
17項目は互いに結びついている。
今後は、これまでは「点」だったそれぞれの事例を「線」として結び、より多くの人を巻き込める「面」にすることで、さらなるスケールアップを図っていきたいという。
同時に、国連広報センターから一人ひとりに直接、「あなたには何ができるか」を訴えていくことにも力を入れている。ホームページからダウンロードできる、家や職場など身近な場所で負担なくできる『ナマケモノにもできるアクション・ガイド』には、「省エネ型の電気機器を使おう」「職場で差別があったら声を上げよう」などの、誰でも今日からできるアクションが紹介されている。
根本さん自身は「マイボトルを持ち歩く」「アフリカの女性の雇用から生まれた、手作りのマイバッグを持ち歩く」などを実践しているそうだ。
「SDGsの17項目はお互いに結びついていて、知れば知るほど自分の中に『引き出し』ができます。たとえば『8/働きがいも経済成長も』や『11/住み続けられるまちづくりを』を知っていれば、地元に雇用を生み出し、よりよりまちづくりにもつながる『地元で買い物をする』という選択肢を選べます。SDGsを意識すると、物を買ったり、食べたりする普段の何げない行為が、楽しくて意味のある行為に思えてきます。SDGsは遠くにいる誰かを助けるものであると同時に、私たちの心や暮らしを豊かにしてくれるものでもあるのです」
今日から一人ひとりができるアクションについて、根本さんはそう教えてくれた。
\今日からできます。/
ナマケモノにもできるアクション・ガイド!
action1 ソファで寝たままできること。
寝転んだままでも快適に過ごすことができ、インターネットで世界とつながれる現代だからこそできることもある。女性の権利や気候変動について興味深い話題を見つけたら「いいね!」だけではなく、シェアしたり、使っていない電気機器は完全に電源を切るなどしよう。
action2 家にいてもできること。
家の中での行動にアクションを一つ加えたり、行動をほんの少し変えるだけでもOK。紙やプラスチックなどをリサイクルする、窓やドアの隙間をふさいでエネルギー効率を高める、電気機器を省エネ型の効率のいいものに換える、食べきれないものは冷凍して無駄にしないなど。
action3 家の外でできること。
家を出ればさらにできることは広がる。マイバッグを持ち歩いてレジ袋を無駄に使わない、大きさや規格にこだわらない「訳あり品」を買う、食事のときにナプキンを取りすぎないなど。「国や地方自治体のリーダーを選ぶ権利を上手に使うこと」も家の外でできることだ。
action4 職場でできること。
職場なら個人で行動する以上の影響力を生み出せる。労働者の権利を知り、職場に差別があれば声を上げる、持続可能な暮らし方をみんなで考え、人間や地球に害を及ぼさない取り組みに参加することを会社や政府に求める、自転車や公共交通機関で通勤するなどしよう。
上記4項目は、国連広報センター作製の小冊子『持続可能な社会のために ナマケモノにもできるアクション・ガイド』から。一人ひとりが生活の中で、少し意識するだけでSDGsの達成に近づける行動をまとめている。個人や企業向けに配布しているが、ウェブサイトからダウンロードもできる。 www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/24082