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多様性

連載 | ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ

かわいそうなこと。

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無断欠勤をしたことがあるのは約13パーセントと知って、なんだ結構いるんじゃんと安心した(LGBTより多い)。無断欠勤をしたときは翌朝がつらいもので、どんな顔をしてオフィスに入ればいいのかが分からない。僕の場合、最後まで何もいいアイデアが思いつかないままオフィスのフロアに着いてしまい、引きつった顔と固まった体でなんとかドアを開けた。自分のデスクに向かう時間が永遠のように思えた。みんながこちらを一瞥して、目を合わさないようにすぐにそらす度、まるで気温がグングンと下がっていくようだった。デスクにたどり着いたときには頭が真っ白で、上司が話しかけてくるまで意識がほとんどなかった。「尚樹大丈夫? よかったよ無事で!」。不穏な空気を蹴散らすように上司が明るく言ってくれて、この人が上司でよかったと思った。

数年後、別のチームの後輩が無断欠勤をしたときも僕とほとんど同じだった。髪色だけは少し明るくなったものの、まだ就活生のようにも見えるその新人の女子社員は、静かにドアを開けた後、まるで横移動するみたいに無音でデスクに向かった。僕は、目が合わないようにしなきゃと気をつけている自分に動揺した。かわいそうだ。見ていられない。頑張ってほしい。いや、頑張らないでほしい。みんなもこんな気持ちだったのだろうか。平静を装いながら、自分のPCに向き直った。彼女はそれから数か月経って、会社を辞めていった。

まだ学生だったある日、やっとできたゲイの友人とお茶をしていた。その人は僕より5つ歳上で、自分と同じようにセクシュアリティのことで長らく悩んできた人だった。今は恋人ができて、仕事も充実していると語る彼は、本当に輝いて見えた。「ゲイだからこそ、今の生き方ができているんだと思うようになった」と彼は言った。まだ社会人になっていなかった僕にとって、丸くて柔らかい希望を手渡してくれる人だった。彼は、恋人と同棲を始めるんだとうれしそうに言って、その家の契約にこれから行くんだけど、一緒に行かない? と誘ってくれた。恋人と二人でたくさん内覧に行き、ここしかないと決めた家だと言うから、それは見てみたいと、付いていくことにした。

隣町にあった不動産屋まで歩きながら、どんな間取りなのか、窓からどんな景色が見えるのかを教えてくれた。店に着くと、担当者の若い女性が、僕らを迎え入れて「一緒にご入居を希望されている方ですか?」と聞いた。僕がいいえと言って、なんとなく照れていると、「実は……」と切り出された。「お二人がご友人関係には見えないとおっしゃっていて……」。そう言って彼女は、オーナーの意向で貸せなくなったことを申し訳なさそうに説明した。僕は頼りない声を漏らすだけで、彼は一言「そうなんですね」と言った。何かを言い返すこともなく、僕らは店を出て、彼は僕に「なんかごめんね!」と謝った。「いやいや」という曖昧な返事しか僕は返せなかった。

つい先日、売れっ子TikTokerの方とトークイベントをした。その方は車椅子ユーザーで、お店選びってやっぱり苦戦するものですか? と聞いた僕に、「うーん」と言って楽しそうに笑った後、「たとえば階段が5段のお店だったら、女の子と二人でも行けるなって思うし、10段以上あれば男の人もいないとなと思います! 心のバリアフリーは大切ですよね」と言った。僕は、正直にいって恥ずかしかった。バリアフリー化が遅々として進まない駅を歩く度、憤りを感じていたけど、なぜお前の中に「自分が手伝う」という発想はないのか、と反省した。

きっと僕は、何もなかったかのように後輩に声をかければよかったのだし、もしかしたら「おかえり~!」と書いた付箋をつけて、チョコでも渡せばよかったのかもしれない。不動産屋を出たときは、すぐに「ヤバいオーナーの家にならなくてよかったね~!」と言えばよかったのだ。かわいそうな思いをしている人はたくさんいるけど、だからと言ってその人は「かわいそうな人」なのだろうか、と思う。誰かを「かわいそうな人」にするかどうかは、いつも自分にかかっている。

文・太田尚樹 イラスト・井上 涼

おおた・なおき●1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。

記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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