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多様性

今も生き続ける、 夭逝した写真家。

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『渋谷PARCO』にあるイベントスペース「ほぼ日曜日」で10月7日から11月13日まで、写真展『はじめての、牛腸茂雄。』が開催される。牛腸茂雄は幼少期に脊椎カリエスを患い、身体にハンディキャップを背負いながら、1983年に36歳で亡くなるまで活動を続けた写真家だ。生前、刊行された写真集『日々』『SELF AND OTHERS』『見慣れた街の中で』『幼年の時間』の中からセレクトされた作品が展示される。時を経ても展覧会が開催され、愛される牛腸の魅力はなんなのだろうか。代表作と言われる写真集『SELF AND OTHERS』を開いてみた。

写っているのは、牛腸の友人や家族、近所で出会った子どもたちなど、身近な人物の記念写真のようなポートレートだ。1人の場合もあれば、2人や4人、20人を超える集合写真も。被写体が部屋の中や家の前、近所の公園など、何げない場所で撮られているから、一見、そのままの自然な瞬間をとらえたようにも見えるが、背景の選び方や光の入り方、人物の配置などをよく見ると、優れた造形感覚を活かして、吟味して画面をつくっていたことが伝わってくる。

そしてページをめくる度に気になってくるのが、被写体のまなざしだ。写真集に掲載されている60枚のほとんどすべての被写体は、画面の中心に据えられて、まっすぐこちらを見ている。淡々とした表情の中には、被写体との関係性によって、警戒のような、親しみのような、好奇心のような、さまざまな感情がうっすらと浮び上がる。そのまなざしのなかに、「自己と他者」を考え続けた日々だったであろう、牛腸の存在を強く感じるのだ。

細やかに写し取られた写真には何度見ても新しい発見がある。作者がいなくても写真を通して出合い直し、対話を続けることができる。そんな稀有な写真家なのかもしれない。

「はじめての、牛腸茂雄。」

10月7日(金)~11月13日(日)
 (140908)

[SELF & OTHERS] 1976-77年
text by Nahoko Ando

記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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