にょき、にょきにょき。今年の夏は畑がうまくいってうれしい。初心にかえって、ていねいに、観察と直感に従って働いてみた。僕たちらしい畑になったと感じるのは、畑を山とつなげられたからだと思う。何度も山に入って、きのこを見つけては周囲の落ち葉や腐葉土を分けてもらった。ほくほくした、これこそこの星の愛のような腐葉土の香りに包まれて、畑も安心しているようだった。やっぱり手をかけただけ、心をかけただけ素晴らしくよくなるものだ。上うま手くいかなかった年のことを振り返ると、よっぽどほかのことに心を奪われていたのだと気づく。草刈りひとつ、水やりひとつ、土づくりひとつ。どの作業も地味であっという間に一日が終わってしまうけれど、一つひとつの時間の積み重ねが、ぎゅっと野菜という美しい形に変わる。つやつやの茄なす子のかがやきには、ちいさな種から芽が出た時の喜びや、ようやく育ってきた苗を寒さから守り続けてきた忍耐や、ぎらぎらの太陽を一緒に浴びた笑顔が詰まっている。野菜が我が子のようでもあるし、自分たちを育んでくれた母のようでもある。
夏のさなか、家のいっせい大掃除がはじまる。家中の埃を外に追い出して、あらゆる箇所を雑巾掛けしていくと、家が数倍広くなったような気がする。「掃除っていいね。掃除する前は自分だけの家っていうか、誰にも見せられない、来てほしくないって思っていたけれど、掃除が終わると家が自分のものじゃないような、家から自分が消えていったような。だから誰でも来ていいよ、誰でも使っていいよって思えるね」と、妻が息子にご飯を食べさせながら、ほくほくしている。
絵・Mika Takagi
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記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。