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サスティナビリティ

特集 | 人が集まるプレイスメイキング術

自然とともに暮らし、つながりをつくる 『NATURE STUDIO』!

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閉校となった小学校の跡地を、地域の方にも、遠方の方にも喜んでもらえるよう、水族館やハーブショップのある複合施設にリノベーションした『NATURE STUDIO』。「自然と暮らしをつくる」というビジョンを目指すなかで、人と人とのつながりも生まれ育っています。

目次

旧・小学校の卒業生が、 プレイスメイキングを実施。

兵庫県の県庁所在地、神戸市。その中心市街地の三宮に近い便利なエリア・兵庫区に、2022年7月、『NATURE STUDIO』が誕生した。水族館やハーブショップ、ブルワリーやフードホールなどが入る複合施設で、オープン早々、人気を呼んでいる。

施設は、児童数減少のために2015年に閉校した旧・湊山小学校の跡地にある。跡地の活用を募る神戸市のコンペティションに、卒業生でもある村上豪英さんが手を挙げた。『村上工務店』の3代目で、『リバーワークス』というプレイスメイキングの企画や運営を行う会社の代表も務め、これまでにも神戸の中心地でプレイスメイキングを実施してきた。その経験も買われて選ばれ、今、『NATURE STUDIO』の運営を行っている。

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開校以来141年間、地域の子どもたちの成長を育んできた旧・湊山小学校の跡地をリノベーションして開設。(※写真はリノベーション前のもの)
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『NATURE STUDIO』を運営する村上豪英さん(中)と、管理やイベント企画などの運営を担当する上戸了子さん(右)と稲葉滉星さん(左)。

施設に水族館を設けた、 2つの理由。

施設で人気が高いのは、理科室や図書館などがあった場所につくられた『みなとやま水族館』だ。水族館をつくった理由の一つは、「ここが”学びの場“だったので、学べる施設がふさわしいと」と村上さん。「また、『NATURE STUDIO』のビジョンは、『自然と暮らしをつくる』です。人と自然との距離を近づけることを目指しているので、生き物を身近に感じられる水族館をつくりました」。

その思いは、水槽にも表現されている。水槽は低く設置され、床にはクッションも置かれている。「クッションに腰を下ろし、近くでじっくりと観察してほしいので」と村上さん。「海辺の教室」というコーナーは靴を脱いで上がり、敷かれたカーペットにあぐらをかいたり、寝転がったりしてくつろぎながら見られるようになっている。「静寂の教室」という、水琴窟の音を聞きながらエビの水槽を眺めるユニークなコーナーもある。

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『みなとやま水族館』の展示室。ガジュマルの根が吊り下げられた「根っこの廊下」。床板や、水槽を眺める来場者が座る椅子は小学校時代のものを再利用。
展示されている生き物は、「色が美しいとか、形が奇妙だとか、動きがおもしろいとか、そういった目線で選んでいます」とのこと。近頃は、水族館がある地域に生息する生き物を「地域の魚」として展示することも多く、ここでも西日本の川魚が展示されている。ただ、村上さんが笑顔で言うには、「僕は釣りをするからわかるのですが、地域の魚って色や形が地味ですよね」。そこで、見ているだけで楽しくなったり、観察に没頭したりしてしまいそうな魚や生き物も多く集めたそうだ。

それは、もう一つの理由でもある集客にもつながる。「建物と敷地全体を神戸市から借りて運営しているので、なるべく有効利用し、それなりの収益を上げる必要があるのです」とリアルな話もちらり。さらに、「施設経営をシビアに見ますと、この地域は少子化や人口減少によって活気が失われ、小学校も閉校してしまったわけですから、地域のニーズを拾うだけでは、この先、地域とともに衰退してしまう恐れがあると考えたのです。

市外や県外からも多くの来場者が集まり、リピーターとなってもらえるような強い集客要素が必要だと考え、水族館をはじめ、飲食店も充実した複合施設をつくったのです」と村上さんは話した。

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青、白、赤茶のカラフルなクラゲ、カラージェリーフィッシュ。
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元気に走り回って子どもたちに人気のコツメカワウソ。
かつての校庭には、ニジマス釣りを楽しめる「FISH POND」も設けた。きれいな地下水で泳ぐニジマスは、釣った後は『GARDEN KITCHEN』でフライにしてもらって食べることができる。命を頂く食事も、人と生き物との距離を近づける行為に違いない。
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エディブルプランツで構成された校庭だった庭には、子どもたちが駆け回る姿が見られた。木が育てば小さな森のように緑豊かになる。
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地下水で育てられているニジマス。
魚だけでなく植物も、人との心地よい距離を生んでくれる。ガーデンには食べられる植物や、ハーブなどの有用植物が植えられ、育っている。「たとえば、地域のお年寄りと子どもたちが一緒に苗木を植えたり、果実を収穫したりすることで、植物との距離だけでなく、人と人との距離も近づけることができます」と村上さん。「さらに、収穫体験で採った果実やハーブを使った料理が食べられるようになったら、植物との距離はもっと近づくでしょうね」と、ますます発展していくだろう『NATURE STUDIO』を思い描いた。
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植物を身近に感じてもらおうと、ハーブやエディブルプランツを販売する『HERB SHOP』。
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『HERB SHOP』の店内。

自然と人の生態系を育む、 「ソーシャルビオトープ」。

村上さんは子どもの頃から自然が好きで、大学院では生態学を学んだことからも、現在は、都市建築と自然との融合を念頭に置いた仕事をするよう努めている。「私が小学生まで育ったこのエリアも、今は空き家や空き地が増えました。人口は減っていますが、空き家や空き地を活用して田園都市のように生まれ変わるのがこの地域にふさわしい将来の姿だと思います。『NATURE STUDIO』には、その呼び水になってほしいのです」。

具体的に、どんな呼び水になることが望ましいのか尋ねると、「自然への入り口として機能させたいです」と村上さん。「ニジマスを釣っておもしろかったら、今度は自分で釣り竿を買って川へ釣りに行くとか、エディブルプランツを買って育てるだけでなく、近くの山を散策して植物に親しむとか、『NATURE STUDIO』を拠点にして、本物の自然への関心が広がっていったらうれしいです」。

そんな、『NATURE STUDIO』を含めた地域の将来の姿を、村上さんは「ソーシャルビオトープ」という自らつくった言葉で表す。ビオトープとは、湿地や草地、河川や湖沼など、生き物が生息する空間のことで、環境保全を目的に人工的につくることもある。「『NATURE STUDIO』の庭も、鳥や昆虫が集まるビオトープとして機能し、生き物の生態系の回復に役立ってほしいですし、さらには、人と人との関係やつながりが生まれる空間、言わば、『ソーシャルビオトープ』として機能することも願っています。そのために、イベントやワークショップも開催しています。『NATURE STUDIO』を拠点にしながら地域に『ソーシャルビオトープ』を増やし、また、自ずと増えていき、人が集まる魅力のある地域になっていくよう活動を展開していきたいです」と村上さんは語る。そんな自然を感じる緑豊かな住宅地になることが、この地域に生まれ育った村上さんの希望であり、『NATURE STUDO』の目指す姿でもあるのだ。
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体育館を利用した『FOOD HALL』には3軒の飲食店が。広々とした空間でランチやお茶の時間を楽しめる。
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『カレー&カフェ マンドリル』のプレート。9種類のカレーから2種類を選べる。写真は牛すじカレーと、根菜と豚肉の白カレー。サイドメニューも組み合わせ自由。
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『FOOD HALL』の店舗を運営する『ワールド・ワン』の松波知宏さん。
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村上さんと、一緒に『NATURE STUDIO』の施設や店舗を運営するスタッフ。
photographs by Hiroshi Takaoka  text by Kentaro Matsui

記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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