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多様性

特集 | 明日への言葉、本

幻冬舎・編集者 箕輪厚介「言葉を届ける仕事」とは。

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『多動力』(堀江貴文著)、『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』(佐藤航陽著)など、数々のベストセラーを世に出し続ける箕輪厚介さん。編集者・箕輪さんにとって、本をつくること、言葉を届けることとは?

目次

言葉を発信していく時に、出口までイメージする。

 僕はムーブメントやシーンが生まれることを意識して本を編集しています。だから、「よいことが書いてある」とか「新しい情報が知れる」というだけの本づくりは、燃えない。今、雑誌や本が売れない時代だと言われます。たしかに、世の中には無料の情報はいくらでもありますからね。そこにユニークな価値がなければ、人はお金を払いません。それに、僕は「情報」ではなく、「体験」を売っています。本を読むことで、何かしらの「心が揺れ動く読書体験」はあるかもしれない。けれど、僕のつくる本はそれ以上に、読んだ後に「何かが起こる」ように設計しています。

 例えば、一昨年から『箕輪編集室』というオンラインサロンを始めました。飲み会1回分くらいの会費でサロンに入りさえすれば、ネットを通じて一緒にやりたいプロジェクトを動かしていくことができます。昨年夏に出した著書『死ぬこと以外かすり傷』は、本として成立するように、オンラインサロンを前面に出してはいませんが、『箕輪編集室』のチラシのような存在。読者の数パーセントが、僕と一緒に動いてくれる姿を意識してつくっています。

箕輪さんの仕事術が詰まった『死ぬこと以外かすり傷』(マガジンハウス刊)。
箕輪さんの仕事術が詰まった『死ぬこと以外かすり傷』(マガジンハウス刊)。

 今は、ほぼ全員がスマホを持つ時代です。スマホには無限のコンテンツがあるわけで、人の趣味嗜好が細分化されています。日本国民全員が興味のあるものは、ワールドカップとオリンピックくらいなもの。紅白歌合戦だって怪しいですよね。僕の周りは落合陽一を知っていますが、一歩違うコミュニティに行けば、「だれ?」となる。ナチュラルに文化が断絶し、昔の学校でくだらない話をするような場所が完全に消滅している。そんな中で、オンラインサロンは「箕輪」がやっているし、暗黙の了解で落合さんや堀江貴文さん、西野亮廣さんが好きだというベースがある。世の中にイノベーションを起こしたい人が集まってくる。いくつかの好みの輪が重なれば、新しい居場所になり得る。サロンが消滅したコミュニティの代わりになるはずです。

 今までの、いわゆる「本」を見ていると、世の中とズレてどんどん非日常的になっているように思いますね。スマホで読む記事は、さっと読めるでしょう。僕らはそれに馴染んでいる。相変わらず、世の中の多くの本は文字数が多すぎるし、一文が長い。それに普段使わない言葉を使っている。編集者や著者は、それが本の権威だというかもしれないけれど、若い人からすると、時間がかかって読みにくいだけです。なので僕はブログのようにリズミカルに読めることを意識しています。『死ぬこと以外かすり傷』のエッセイは1本、1分くらいで読める。YouTubeと同じ感覚ですね。もう、1つのコンテンツで人を拘束させられるほど、世の中は遅くない。読み切るのに長い時間が必要なものは消費の形に合っていない。「本とはこういう形なんだ」と言うのは簡単ですが、なかなか現実的に消化しきれない。だから、売れない。多くの人に受け入れられるには、小気味よく、短時間で読める束の集合体にするのがいいんです。今の人は早く読み終えると、「この本はコスパがいい」と言いますが、昔の人は逆です。昔は時間が膨大で、お金のほうが価値は貴重だったからでしょう。今は時間の方が貴重なので、同じ情報なら早く教えてくれたほうが得したと思う。本の種類によってつくりは違いますが、基本的におさえておくことは「できるだけ文字数は少なく」、「同じことを2回言わない」、「結論をはじめに書く」、「エピソードをストーリーにしてわかりやすく伝える」。伝えるということで言うと、「本音を言う」ということが大事。結論がわからない言葉は、聞いていてもどうしようもない。これだけですね。

 僕が今一緒に仕事をする人たちは、自立し、言葉の力を持ち、構成能力のある人ばかり。正直言って、僕の仕事はあまりないんです(笑)。本って、編集者は介入しなければ、しないだけいいと思っているので、僕はその著者の全力で走っている瞬間をカメラで切り取るような事を意識しています。何回も撮り直してイケメンにすることではなく、ぶれていてもこの瞬間はこれだったんだというのでいい。僕がプロデューサーでありディレクターをやるという、がっちり決め込んだ本のつくり方には、もう飽きていて。編集者としてやっているのは最初の設計の部分で「誰に読んでもらいたいか」、「何部を目指すのか」、「著者とどんな走り方をするのか」。最終的には売れる売れないはどうでもいい。著者が新しい物を出せて、僕がおもしろく、そしてその熱狂が一部にでも届けばそれでいいと思うんです。

背中を押してもらった5冊!

滅茶苦茶な生き方が本をつくる原動力に。
 幻冬舎・社長、名編集者として知られる見城徹氏のインタビューとエッセイで明かす、彼の生き方の記録。見城さんの滅茶苦茶な生き方が描かれています。無茶苦茶をするからこそ、コンテンツが生まれ、世の中に届くと思います。

『編集者という病い』 見城 徹著/ 集英社
『編集者という病い』 見城 徹著/ 集英社

いくら辛くてもこれよりはマシと思える境界線。
 実際にカンボジアの拘置所に入れられた著者が描く脱出劇。あまりにも悲惨な状況に置かれた主人公。その姿を見て、目の前の状況がとてもイージーに感じられます。仕事で失敗しても別に牢獄に入れられるわけじゃないですし(笑)。

『P.I.P. プリズナー・イン・プノンペン』 沢井 鯨著/ 小学館
『P.I.P. プリズナー・イン・プノンペン』 沢井 鯨著/ 小学館

やばい奴がいる。今の状況なんてぬるいと思う。
 アジアの怪しい面々が続々と登場するシリーズ。学生の頃はアジア旅行に行っていました。この本を
読むと、とんでもない人たちが出てきて、今の僕の状態なんてぬるいな、まだまだチャレンジができるなと思うんです。

『アジア・ブラックロード』 嵐 よういち著/ 彩図社
『アジア・ブラックロード』 嵐 よういち著/ 彩図社

読めば行動せずにいられない旅立ちの一冊。
 香港から英国までの旅を描いたバックパッカーのバイブル。この本がすごいのは、一度読めば、誰もが旅に出たくなる衝動に駆られるところ。本として格好いいんです。これを読んでバックパックを買った人が何人いるんだろう。

『深夜特急』 沢木耕太郎著/ 新潮社
『深夜特急』 沢木耕太郎著/ 新潮社

はじめての状況にチャレンジしていく背中が格好いい。
 中田英寿がセリエAでデビューするまでを描いたノンフィクション。若者が、右も左もわからない状態で世界に飛び立つ。彼が試行錯誤していく様を読んでいると、モチベーションが上がる。そして、単純に格好いいと思います。

『中田英寿 鼓動』 小松成美著/ 幻冬舎
『中田英寿 鼓動』 小松成美著/ 幻冬舎

 

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