「実践人口」を増やすための合言葉が「やってこ!」である。「やってこ!」が世代を超えたつながりを生み、ローカルをおもしろくする。1階に降りてきた実践主義者のあなたに会いたい。
みなさんは高いところと低いところ、どちらが好きですか? 僕は低いところが好きなんですよね。だって地べたに近いところに社会のリアルな声があるじゃないですか。眺めのいいところにでーんと居座っているだけじゃ、地べたの声は絶対に聞き取れないんです。
ビルだったら高層階よりも低層階。打ち合わせだったら1階がベスト。役職や肩書なんていいから、みんな一人の人間としてまずは1階に下りてきて話をする。そこから信頼関係が育まれていくし、いい仕事もきっと生まれていくと思うんです。昔の長屋みたいなもんですね。
「問い」の込められた服。
さて、今回ご紹介するアパレルブランド『ALL YOURS(オールユアーズ)』の木村昌史さんも全国のローカルの現場を駆け回りながら、地べたの声に耳を傾け、ネット時代の新しいワークウェアを提案している「1階」の実践主義者です。木村さんは大量生産の服に違和感を覚え、そのカウンターとして毛布の技術を使った軽くて疲れないパーカや、合成繊維を使った洗濯してから3時間で乾くチノパンなど、小ロットだけどユーザー目線で実用的なアイテムを次々と世に送り出しています。僕も10着以上持っているヘビーユーザーです!
オールユアーズの服は平均1万円以上はする決して安くはないもの。でも「問題解決」に重きを置いているため「機能性があって、長く愛したい」と思える服ばかりです。
それにオールユアーズの服は売り方もユニーク。まずコンセプトを表現するサンプル品をつくって、その商品が欲しい人をクラウドファンディングで募ります。つまり、先に「買い手(支援者)」を見つけて、在庫を無駄なく流通させる仕組み。ファスト・ファッションの仕組みとは根本から違う発想です。オールユアーズの服はまさに、現代のアパレルへの「問い」が詰まった芯のある服と言えるでしょう。
全国行脚する“1階”のアパレルおじさん。
そもそもアパレル業界は、市場自体がとっくに限界を迎えています。それは消費者に見放されたアパレルの現状を伝える『誰がアパレルを殺すのか』(著:杉原淳一・染原睦美/日経BP社)に詳しく書かれています。業界の衰退要因は「つくれば売れる時代」の成功体験に縛られ「思考停止」に陥ったこと。経済格差を利用して安く服をつくるファスト・ファッションが台頭するなかで、これからのアパレルはどうあるべきなのか? そこに「ファンをつくって服を売る」木村さんたちのローカルなものづくりがあるんです。
オールユアーズの服は、言うなれば「文脈の深い服」。ただ店頭に並べただけで売れる服ではありません。だからこそ、木村さんたちは全国のコミュニティや繊維・縫製工場など、あらゆる現場を巡ってその「文脈」を語り続けてきました。
この地べたを這うような信頼の築き方は、僕がメディアの編集長として全国を巡りながらローカルプレイヤーと関係性をつくり、長野にシンカイという場をつくったことにも近い。僕が彼を「1階」の実践主義者と表現するのは、顔の見えるローカルな人間関係の構築に意味を見出してきた自分のあり方に通じる部分を感じるからなのでしょう。
実践していれば「いつか会う」。
彼とは今年のはじめに出会ったばかりですが、実践主義者のフィーリングがハマッて、これまでに10回以上の旅を共にしました。この出会いは運じゃなくて必然。ローカルな人間関係の構築に日々120パーセントのエネルギーを注いでいる実践主義者は、活動のフィールドが違ってもどこかで必ず引き寄せられるのだから……。
みなさんがもし、実践主義者のフィールドにきたとき、僕らともきっといつか会うことになります。そのときはぜひ、「1階」でゆっくりと膝を突き合わせて語り合いましょう!