広場などのパブリックスペースを設計する、ランドスケープデザイナーの熊谷玄さん。多彩な活動に共通するコンセプトは、場と向き合い、物語の始まりの一節を紡ぎ出すこと。ウェルビーイングを生み出すことにも通じるその視点から、興味深い5冊を紹介します。
ランドスケープデザイナー|熊谷 玄さんが選んだ、ウェルビーイングを感じる5冊
『パタン・ランゲージ』は、例えば、「都市の子ども」「守りの屋根」「小窓つきの厚いドア」というふうに、都市空間から253個のパターンを抽出し、言語化した、空間設計のための専門書です。253個の言語からランダムに選んだ言葉をつなげて物語を紡ぎ出すことで一つの空間を想起するなどして空間設計のアイデアを得たり、発想を磨いたりするために開く本です。
著者が抽出した253の視点はユニークで、新たな発見も得られます。「サブカルチャーの境界線」とか。あるいは「仕事場の分散」は、コロナ禍で広まったリモートワークに近いパターン。オフィス街をつくらず、仕事も生活もミックスしたほうが魅力的なまちになると書かれています。
また、都市を言語化し、広く共有することは、空間設計を専門家だけの閉じた世界のものにしないことにもつながります。ヨガインストラクターとパン屋と花屋が集まって広場を設計したら、まったく新しい広場が生まれるでしょう。都市の言語化と共有が広がれば、多様な人と一緒に設計ができ、おもしろい社会になりそうです。今、まちづくりに市民参加のワークショップが多用されているのもそれが目的です。
僕が広場づくりのワークショップを行うとき、2つの問いを立てます。一つは、「広場であなたがしたいことは何?」。もう一つは、「他人がそれを許容するために、どういうルールを課すべき?」です。自分がしたいことをしつつ、他人がしたいことを受け入れる体制をどうつくるかが広場づくりでは大事で、より多くの人のウェルビーイングを実現することにもつながるはずです。
『世界のグラフィックデザイン1』は、図の本です。人は何かを伝えるために昔から図を使ってきました。曼荼羅、医学の人体図、星座……。「人はどこまで図が好きなんだ」と感嘆させられるほど、ありとあらゆる図がまとめられています。松岡正剛さんの超絶すごい知識の賜物で、その情報量は「やばい」のひと言に尽きます。ランドスケープデザインも地球に図を描くのが仕事です。広場の設計でも、線1本に意味と思いを込めて平面図を描きます。想像し、図を描き、形にする。そんな、図の力をこの本から学べます。
ウェルビーイングを高めるには、コミュニケーションも重要な要素。コミュニケーションを取るために人は図を活用します。つまり、図はウェルビーイングにも関与するのです。そういう意味でも興味深い1冊です。