クライアントの「いびつでへんてこで、その人にしかない個性」を、いかに楽しく共有できる形にするか。そんな視点でデザインを行う『アカオニ』の小板橋さんが選んだのは、デザインの「手法」ではなく、その根底にある「世の中をおもしろがる視点」を教えてくれる5冊。
『アカオニ』アートディレクター/デザイナー|小板橋基希さんが選んだ、ウェルビーイングを感じる5冊
デザイナーである僕がウェルビーイングな状態であるために大事だと思うのは、「世の中をおもしろがる視点」を持つことです。大勢の人が素通りするようなものに、異常なまでの愛情を持って対峙しているクリエイティブに触れたとき、未知なるものへの想像力が刺激され、世界が広がります。そんな、対象への愛あるまなざしを感じる本、デザイナーとして初心に帰らせてくれる本を選びました。
まず紹介したいのは、鬼海弘雄さんが1970年代から2000年代まで浅草で出会った人々を撮影した写真集『Asakusa Portraits』。ここ数年、ネットを通して興味のある情報や人にアクセスしやすくなった半面、異質なものに対して排他的になりやすい傾向があると感じています。本当は、世の中はいろんな個性や多様さで成り立っているし、だからこそおもしろい。でも、学校や社会といった枠のなかでは、大きな規範に合わせなければならず均一化してしまう。この写真集に写っているのは、そうした規範から外れた人たちです。自由な格好をしていて佇まいに味があって、「どんな人なんだろう」「普段見えていないだけで、自分のまちにもこんな人がいるのかもしれない」と想像が膨らみます。それはきっと、鬼海さんが相手に愛情やリスペクトを持って撮影しているから。茶化すのでもなく、線を引くのでもなく。そんなまなざしに触れられる本です。
葛飾北斎が弟子のために描いた絵の教本『北斎漫画』も同じです。まず、当然だけど絵がうまくて感動するのですが、なによりの魅力は江戸の暮らしが細かく描写されているところ。教本だからまじめな絵も載っているけど、ちょっとふざけたものもたくさんあって、市井の人々に興味を持って眺めていることが伝わってきます。「北斎の目を通すと、江戸ってこんなにユーモラスに見えるんだ」と思いました。
『キャベツくん』は、子どもが借りてきた絵本で、一読して雷に打たれたような衝撃を受けました。自由で、不思議で、無意味なようで、でも何か意味があるんじゃないかと考えてしまう。デザインは情報を伝えるものだけど、それだけを追求するとおもしろいものはできません。人の想像力をかきたてる“余白”がなければ。そういう意味で長新太さんの作品は勉強になりますし、僕もいつか彼のように「何もないようで何かある、言葉にできないおもしろさ」を持った作品を生み出したいです。
▶ 『アカオニ』アートディレクター/デザイナー|小板橋基希さんの選書 1〜2
▶ 『アカオニ』アートディレクター/デザイナー|小板橋基希さんの選書 3〜5