津波被害を受けた地区のあちこちに竹薮が出現している。仙台市沿岸部では、塩害に強い竹が藩政時代からの風景を思わぬ形で蘇らせているという。佐藤那美と四倉由公彦という東北在住アーティストによるアンビエント作品『Musics For Bamboos』は、この仙台市三本塚の竹から楽器をつくる3.11メモリアル交流館のワークショップから生まれた。津波で流されなにもなくなってしまったのではなく「毎日新しいものが生まれ続けている」というスタッフの言葉に強く共感したと佐藤は語っている。彼女の最新作はずんだもちの枝豆を潰す音やじっちゃん・ばっちゃんの声や生活の音そのものを素材に音楽に仕上げている。また四倉はユニット『Coupie』の東北の風景のような音楽──。教えられるのはアンビエントという音楽と東北の地の意外な相性というか、土地の持つ力と音楽の作用が結びつく場合があるということだ。二人とも震災のさまざまを乗り越え音楽家として活動を続けてきている。四倉は三陸の郷土藝能の世界に身を投じ、佐藤は仙台市の震災遺構である荒浜小学校で花の種を入れた風船を飛ばすプロジェクトを続けている。そしてそれらが復興やアートなど、耳ざわりの良い共通語に回収されてしまうことになんとも言葉にならないものを抱え続けている。NHKに二人が出演した時、この音をお茶の間がどう聴くものかヒヤヒヤしたが、曲がかかるとすぐアンビエントとはおよそ縁遠いご年配のリスナーからFAXが届けられた。土地の力と音楽の作用。毎日新しいものが生まれ続けている。
佐藤那美&四倉由公彦
『Musics For Bamboos』
涼音堂茶舗 DES056