今年度で開講8年目を迎えた「しまコトアカデミー」。首都圏在住者向けの講座からスタートしましたが、今では関西、そして島根県のお隣・広島県在住者向けにも開講し、広がりを見せています。「島根が好き」という共通の思いのもと、人や地域が結びついてやさしいコミュニティが育まれています。
東京・関西から関わる
時間をかけて熟成された、人と地域の堅いつながり。
地域との関わり方を見つける講座の元祖ともいえる、「ソーシャル人材育成講座 しまコトアカデミー」(以下、「しまコト」)。2019年度で東京講座は8期目、関西講座は5期目を迎えた。講座は約半年をかけ、東京・関西に島根県からのゲストを迎えて地域の「今」を学び、現地実習(インターンシップ)を経て、地域との関わり方をプランに落とし込む。

2019年11月に行われたインターンシップは2泊3日の行程。東京と関西の受講生の混合グループが、島根県の東部(松江市、雲南市など)、西部(浜田市、江津市など)、隠岐諸島の3か所に分かれ、地元で活躍する方々に会いに行った。小誌取材班が密着した東部グループは、島根県の産品を取り揃える松江市内のセレクトショップ『YUTTE』を立ち上げた売豆紀拓さんや、出雲市多伎町の田んぼで金魚の養殖を行う山田真嗣さんらに会い、話を聞いた。3日間で11か所を巡ったが、受講生は限られた時間の中で地元プレイヤーのみなさんと積極的なコミュニケーションを取っていた。

プランの最終発表会は、歴代の修了生も見守る中、東京・関西で行われた。デザイン性の高いパワーポイント、思いを込めた手描きのポスター、舞台さながらの朗読など、それぞれの個性が表れたプレゼンに、会場からは温かい拍手が起こった。

半年間の講座が修了すると、それぞれのプランが動き始めた。インターンシップで隠岐諸島を訪れた高見麗子さんは、現地で意気投合した古川拓也さんと一緒に、東京・台東区浅草橋で隠岐諸島の食を味わうイベントを企画。東京講座の朝倉なりさんは、関西講座の堀江拓さんとともに、山田真嗣さんが運営するイチジク農園のお手伝いツアーを計画中だ。

島根と複数の都市がコラボして立体的なプロジェクトが生まれるのも、じっくり時間をかけてコミュニティが育まれてきた「しまコト」ならでは。人と地域がつながり、どのような広がり方を見せていくのか、今後も期待だ。

受講生の声
山下大介さん
東京講座8期
得意なデザインの分野で島根県と関わることを考えています。関わる人が多様な「しまコト」で得た新しい気づきがプランにつながりました。
岸本啓佑さん
東京講座8期
島根県はエリアによって全く顔が異なりますが、共通しているのは、人が明るく、自信を持って暮らしていること。いい刺激を受けました。
島根でお世話になったみなさん
売豆紀 拓さん
『YUTTE』ディレクター
曽田千裕さん
『COCHICA』店主
江原彰吾さん
『SUETUGU』運営
宇田川孝浩さん
『古民家オフィスみらいと奥出雲』設計者
井上 晃さん
奥出雲町地域おこし協力隊隊員
横田高校魅力化コーディネーター
三瓶裕美さん
『つちのと舎』代表
黒崎寿夫さん
『だんだん倶楽部』代表
李 在鎮さん
『多文化カフェSoban』運営
芝 由紀子さん
『うんなんグローカルセンター』代表
広島から関わる
となりの広島から、身近な島根の魅力を再発見。
2019年度から新たに始まったのが、広島県在住者向けの講座だ。島根県のローカルプレイヤーたちから地域の今を知り、自身の関わり方のプランを考える講座であることは、東京・関西講座と同じ。ほかの講座と異なるのは、広島県と島根県という、2つの地域の距離の近さを活かした講座のスタイルにある。講座の全日程を島根県で行い、広島県から参加する受講生は毎回、講師・ゲストの拠点を訪問する。彼らの活動の話を聞いたうえで、島根県との「関わりしろ」をワークショップで考えていく形式だ。さらに、1泊2日のインターンシップも行う。島根県江津市で活動するプレイヤーの元を訪れ、さまざまな事例を学んでいく。また、講座には広島県からの受講生だけでなく、島根県で生業を持つ人々も参加し、一緒に「コト」起こしについて考えていく。広島県と島根県、相互の視点で地域について考えられるのも、広島講座の特徴だ。

メンターは東京講座の修了生で、現在は江津市に移住し、創業支援・人材育成を行うNPO法人『てごねっと石見』で活動する竹内希さん。「しまコト」の先輩受講生として、また地元プレイヤーとしての経験を活かし、受講生をサポートする。「2つの地域は距離が近いこともあり、受講生にとって島根という土地は生活圏の中に入っている身近な場所。だからこそ肩肘を張らない、等身大のプランができたと思います」と竹内さんは話す。

受講生の奥貴美子さんは、中学生、高校生の娘とともに参加。これまでも島根県には通っていたが、何か島根に関する「コト」を起こしたいという思いがあり、受講を決めた。最終的なプランは、「LIFE STYLE LAB」と題した、自分らしいライフスタイルを考えるワークショップと旅を一体にした企画を組むというもの。講座で得た、人とのつながりを活かしたプランだ。

講座が終わってからも、プランの実現に向けて受講生と島根の関係は続いていく。今後は広島からも、人と人、人と地域がつながる楽しい仕掛けがつくられていきそうだ。

メンター&受講生の声
竹内 希さん
『てごねっと石見』
「しまコト」はヒト・モノ・コトが楽しくつながる一つのきっかけ。講座をきっかけに、今後も島根と広島がつながっていくといいなと思います。
奥 貴美子さん
広島講座1期
受講して、以前から関わっていた島根がより好きになりました。子どもたちもクリエイティブな大人に出会い、いい刺激をもらっていたと思います。
歴代の「しまコト」修了生が集合!しまコトナイト in 大阪

開講以来、「しまコト」では約180人の修了生を送り出してきた。彼らが集まるイベントとして、年に一度開催されるのが「しまコトナイト」。これまでは東京で行われてきたが、今年度からは大阪市でも実施。2020年1月27日に行われたイベントには、修了生をはじめ、来年度の受講に興味がある人など、約30人が大阪・北区梅田の『WILLER EXPRESS CAFE』に集結した。内容は、関西講座の修了生5人と小誌編集長・指出一正による対談。受講当時の思い出を振り返りながら、修了生の現在、今後の島根との関わりについて掘り下げた。

登壇した修了生が口を揃えて言ったのが、受講して一番心に残っているのは、島根の人や受講生仲間など、「人に出会えたこと」。島根という“第二の故郷”のような場所で、帰ればいつでも迎え入れてくれる仲間がいて、都市部や別々の場所にいてもつながっている。受講後も続くそんな安心感が、普段の生活に活力を与えてくれるのかもしれない。

「しまコト」修了生が東京・関西で活躍中!
鶴薗奈美さん
関西講座4期
関西に住みながら、本業では働く人の応援をしてきた。「しまコト」修了後も、働き方の切り口から、島根との関わり方を模索。今後はテレワークを活用して、好きな地域にいながら仕事ができる仕組みを整えていきたい。
永原真幸さん
関西講座1期
「しまコト」を経て、旅のスタイルが観光から人に会いに行くことに変わった。島根は「唯一住んだことのない故郷」。今後は、記者の経験を活かして「しまコト」関連の本をつくるなど、関西にいながら島根と関わり続けたい。
山崎浩司さん
東京講座7期
仕事の関係で松江市で2年ほど過ごしたことから、島根が好きになり「しまコト」を受講。現在は東京で働きながら出張で年に3回ほど通い、関わりを継続。友人も多くいる島根は、訪れるだけで癒される場所なのだそう。
清水 謙さん
東京講座3期
「しまコト」受講後、コミュニティづくりや人材育成の分野で起業し、コワーキングスペース『チガラボ』を立ち上げた。「しまコト」の現地実習で体感した、「地域と人と食のつながりと循環」が現在の仕事のヒントになっている。
もちろん、島根でも活躍しています!
舟木 睦さん
関西講座3期
受講後に隠岐の島町へ移住。役場職員として観光事業を担当し、個人的にも地元合唱団の活動や、隠岐島音楽祭等の企画に携わる。「しまコト」での人との出会いが、移住したいと思う気持ちを後押ししてくれた。
尾添千穂さん
東京講座7期
「しまコト」を経て、地元・島根に貢献したい気持ちが強くなり、Uターンを決意。今後はマイプランを実現すべく、津和野町で「手仕事」を軸に、地域の魅力を再発見できる場づくりに挑戦していく。
中尾祥子さん
東京講座3期
受講後に島根へUターン。『極-KIWAMI-食べる通信from島根』編集長として活動し、農業経営・農村地域のサポートを行う『なかお商会』を立ち上げる。「しまコト」のご縁がさまざまな活動につながっている。
古津三紗子さん
東京講座2期
看護師の経験から、島根へUターン後は訪問看護師やコミュニティナースとして働く。落語やシルバー川柳のイベント、「在宅医療」についての寸劇披露など、趣味を活かした活動も行い、自身に合った暮らしを実践。