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“軒先マルシェ”が、町に心地よい風を通す。福岡県・大木町の人々が変わりゆく町のために取り組む「できごと」

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約30年間タウン誌、雑誌編集に携わり、2012年の定年後に福岡県・大木町に移住。現在は同町のかんけい案内所室長を務めるライターによるコラム。ローカルを見つめ続けてきた筆者による、自治体とそこに暮らす人たちの取り組みの模様を、精緻な筆致でお届けする。

目次

移住者を迎えることによる「変化のとき」を迎えている大木町にて

福岡県南部に位置する三潴(みずま)郡大木町は人口約1万3900人。周囲を久留米市、筑後市、大川市そして柳川市に接する小さな町だ。主要産業は米麦中心の農業、キノコといちご、アスパラガスの産地としても有名だ。町の南北を西鉄大牟田線が走り、福岡市から約50分、久留米市から約20分の通勤圏にあるせいか、ベッドタウンとして、ほんの数年前まで人口減少は見られなかった。
しかし、都会から転入してくる新しい考え方やライフスタイルが、生計も生活もほぼ同質のかつての暮らしを少しずつ変えていく。そんな暮らしの変化や大きな経済社会のうねりの中で、地域の暮らしや経済はどう変わっていこうとしているのか。いや、変わらないでいるのか。町の中のちいさな「できごと」から、これからの暮らし方を考えていきたいと思う。

町の人々が触れ合い、もとの住民と移住者の垣根を取り去る“軒先マルシェ”

「若い頃着ていたワンピース。キツくなったし、だいいち着ることがなくなったけん、売れるやろか」と持ってくる女性、「服を自分で縫いよる時に買い集めたボタンがいっぱいあるとよ」と小さなビニール袋に入れて持ってくる女性。隣組の8人による、流行の言葉で言えば「昭和レトロ」な商品が並ぶフリーマーケットと庭先野菜の販売だ。
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地区の人たちが持ち寄った物を地区の別の人たちが買っていく。「侍島の品物が、ある人からある人に移動しているだけかもしれませんが」と 主催者の古賀やよいさんは話してくれた。
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▲軒先マルシェを主宰する古賀やよいさんと古賀利一(としかず)さん。
現在、新しい経済として地域でお金を回す仕組みがいろいろと試行されつつあるけれども、経済というものの本来の意味である「経世済民」という側面から考えると、地域の中で、お金ではなく「幸せ」が誰かから誰かへ回り巡っていく、そんな循環こそが地域経済にとっていま本当に必要なのかもしれない。

この日、ナス、ししとう、玉ねぎ、じゃがいもなどを出品したKさんは、以前は警察にお勤め。「母がしよったごと、庭にタネや苗を植えて自然になった野菜をもってきた。もともと余った野菜は利(とおる)先生(利一さんの父)に持ってきよったけんね」

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▲野菜コーナーのSおばしゃんとKさん。皆、おばさんを“おばしゃん”と砕けたかたちで呼んでいる。
同じ侍島に住むY子さんは、子育てを卒業した母親。並んでいる商品を見て「こんなので良ければ、うちにはゲーム機で取ってきた景品のおもちゃが2階にいっぱいあるよ」と、急いで取りに帰った。なんでも、ストレス発散でご本人がUFOキャッチャーにハマった時のものだという。

そういえば、初回と前回に野菜を出していたSおばしゃんも、「家にいると嫁とぶつかるけん、いつもはゲームセンターに一日おるとよ」と野菜コーナーの番をしながら話してくれた。

利一さんとやよいさんがこんなマルシェを始めようと思いたったのは、階下に住む利一さんのご両親が高齢者施設に入居したのがきっかけ。 

「なにしろ古い家で、片付けてみると倉庫にも家財道具がいっぱい。これをガレージセールのごとして、近所の人たちの野菜もいっしょに売れんやろうか」と構想。

近所の人たちとの繋がりも大切にしたいと思ったのは、昨年度から20軒の隣組の班長になって地域のことに目を向ける機会が増えたからでもある。地域の祭りや行事、清掃の案内をしても、若い世帯から「なぜ地区でそんなことまでしなければならないのか」といった疑問を素直にぶつけられるうち、自分たちの世代が地域の古いしきたりを守ろうとしている年配者と外から転入してきた若い人たちを繋ぐ役割を果たさなくてはと思うようになったという。

そう思うやよいさん自身も転入者の一人。福岡市でピアノ講師をしていたやよいさんは、戸建てに住みたいと、たまたま参加した田舎暮らしのお試しプランの最終日に利一さんを紹介され結婚したのが10年前。ご自身も「なんでこんな事しなければならないの」と最初の頃は疑問に思うこともあったという。

そうこうするうちに、地区内で立て続けに未亡人が増えていったりして、そういう女性たちの居場所も必要だなとも感じ始めていた。

「もともと、夫のお父さんは学校の先生。お母さんは編み物教室をしていたりで、地区のなかで人が集まる『家』だったようです。だから、そんな人たちが集まれる場所を私たちが引き継いでいかなければならないと思うんです」

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利一さんとやよいさんが開催したマルシェ初回の5月3日は、おりしも大木町役場が企画した「軒先マルシェ」のスタート日でもあった。「おすそ分け」の精神から町内のあちこちの庭先や軒先で個人的におこなっていた野菜などの無人販売のお宅に参加を呼びかけて1枚の地図を作成。この地図を頼りに町内の無人販売所を巡ってもらおうという企画で、約70人ほどの人が回ってくれた。

2回目の7月24日は初めての単独開催。「不安だったけれども、まず自分たちが楽しもう」と心に決めて開催することにしたが、意外にも甘酒やいちご大福など、町内で製作販売している人との繋がりもできて商品に幅が出てきた。知らない人が通りに出していた看板を見て寄ってくれた。

3回目の8月28日には、販売に加えてエステのハンドマッサージ体験、子どもたち向けには絵本の読み聞かせとピアノのコラボなど、若い世代がゆっくり時間を過ごせる企画が加わった。

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▲自家焙煎のコーヒー試飲なども若い世代の方々に好評だった。
さて4回目は、どんなものが加わっていくのだろうか。すでにシフォンケーキを出すよと言ってくれる人が現れたし、隣に住む子育て中の元美術の先生は、ワークショップをやってもいいよと言ってくれた。おそらく、UFOキャッチャーも人気のコーナーになるに違いない。

地域に住む人たちが思いおもいにマルシェに関わって「居場所」を形づくっていく。

「場所があれば、そこに人が集まって、自然に転がっていく感がありますね」

こんな光景は、実は昔から続いてきた、地域が仲良く暮らしていく「幸せのおすそわけ」なのかもしれない。

(文・写真:西川典洋/大木町かんけい案内所所長)

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