39歳で脱サラして移住・開業。47都道府県を訪れた経験から岡山市を選んだ理由とは?

39歳で脱サラして移住・開業。47都道府県を訪れた経験から岡山市を選んだ理由とは?

移住を考えるとき、最も重要なのが場所選び。移住の目的やこれからの生き方、どんな暮らしをしたいかなど、さまざまな視点から検討する必要がある。岡山市でクラフトビールバーを経営する井坂成保さんは、 2016年に出身地の東京都から、全く知り合いのいない岡山市へ移住した。前職で全国各地を訪れた経験がある井坂さんが、独立開業の地に岡山を選んだ理由とは。決断したきっかけや岡山での暮らしも合わせて話を聞いた。

井坂成保さん
●井坂成保さん/1977年生まれ、東京都調布市出身。大学卒業後、家電量販店や学童保育などの仕事を経て、20代後半でイタリア輸入食材会社に入社し販売の仕事で全国各地の百貨店を回る。2016年に岡山市へ移住しクラフトビールバー「クラフトレインボー」をオープン。(c)Noriko Nishi

前職で全国の百貨店を訪れ、移住・開業を志す


2016年、生まれてからずっと暮らしてきた東京都調布市を離れ、岡山市に単身移住し独立開業した井坂さん。きっかけは前職での経験だったという。


井坂さん「イタリア輸入食材会社で約10年、全国の百貨店を回って販売する仕事に携わりました。北は北海道から南は九州まで行きましたね。催事やフェアだと1〜2週間は滞在するんですが、仕事終わりに飲食店へ行くのが楽しみで。この仕事で初めて訪れたのが愛媛県松山市だったんですが、ここで地ビールの美味しさに出会い、それから全国を回るたびに各地のビールを飲むようになりました」


元来、食べることも旅も好きだった井坂さんにとってこの上ない仕事だったが、ある街で訪れた店に感動し、独立開業を志すように。


井坂さん「福岡県北九州市の小倉で入った角打ち(立ち飲みの店)がすごく印象的で。狭い店内に地元の人も県外客も一緒に並んで酒を酌み交わして、家族みたいにアットホームなんです。こんな店をいつか自分もやりたいな、と思いました」


47都道府県から岡山市を選んだ3つの条件


仕事で全国を回りつつ休日もプライベートで旅をして、遂に47都道府県を制覇。そんな井坂さんが独立開業する場所を考え始めたとき、なぜ地元の東京でも、きっかけを与えた北九州の小倉でもなく、岡山市を選んだのか。


井坂さん「東京だと友達も多いし、困った時に頼って依存したくないなと。それに自分がやりたいイメージの店が既にたくさんありました」


また、井坂さんが移住・開業先として検討する際に、外せない条件が3つあったという。






  1. 新幹線が停まる

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  3. 電車のアクセスが良く旅に便利=人が集まりやすい

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  5. Jリーグのチームがある


学生時代から持ち続ける「世界中に友達をつくりたい」という夢を叶えるため、地域の人だけでなく、観光客や外国人も訪れやすい場所。さらにサッカー観戦も趣味で、応援できる地元チームがあるのが理想だったという。


井坂さん「この条件には小倉もあてはまるんですが、自分が飲み歩いてしまいそうで(笑)。遊びに行く場所として取っておきたいなと。それで、仕事で訪れたことがある岡山市が思い浮かんだんです」


確かに岡山駅は新幹線が停まり、駅前から歩いて繁華街に行ける。サッカーJ2リーグのファジアーノ岡山もある。


クラフトレインボー
井坂さんが営むクラフトビールバー「クラフトレインボー」(岡山市北区野田屋町)。岡山駅前から徒歩6分の好立地にある。(c)Noriko Nishi

生まれ育った東京を出て、たった1人新天地へ


岡山市での独立開業を考え始めて最初に相談したのは、意外にも前職の社長だった。


井坂さん「経営者の先輩として今でも応援してくださっていますが、その時も『だったら事業計画書を作るといいよ』とアドバイスしてくれました」


前職を退職してからは、ビールバーでのアルバイトで美味しく注ぐ技術を身につけたり、アンテナショップで働いて食材の知識を蓄えたりしながら、移住・独立開業に向けて準備した。


2016年9月、井坂さんの計画はスピードアップして進み始める。


井坂さん「新宿にいたら、たまたま日本政策金融公庫が目に入ったんです。そこのサポートプラザに何回か行って事業計画書を見せながら、岡山で独立開業したいと融資の相談したところ、まずは店舗物件と住まいを決めてくださいと。その後2回、岡山に下見に行って現地の不動産屋さんなどにも尋ねながら、店舗物件と自宅を決めました」


そして2016年12月のはじめ、井坂さんは新天地・岡山市へ居を移した。


バスタ新宿
旅立ちの日は友達に見送られ、新宿発の夜行バスで岡山へ向かったという。(c)写真AC

移住から2週間で店をオープン


岡山市に来てからは、さっそく開店準備に取りかかった。店舗は岡山駅から徒歩6分の場所にある、カウンターのみの居抜き物件だった。


井坂さん「飲食店が密集する繁華街からはあえて少し外れた場所にしました。また、サッカーやスポーツで盛り上がれる店にするため、近隣への影響を考えると防音設備は必須。それで、カラオケがあったスナックの居抜き物件にしたんです」


岡山市に移住して2週間後の2016年12月23日、井坂さんは自身の理想が詰まったクラフトビールバー「クラフトレインボー」をオープンさせた。


クラフトレインボー
全国各地のビールが揃う「クラフトレインボー」。取材日のおすすめは徳島の「2nd story Saint yoshie」(950円)。梅で作った珍しいビールだ。(c)Noriko Nishi

あえて店から離れた場所に住むワケは?

全国のビール×趣味の世界で人と人を繋ぎたい


全国各地のビールを味わいながら、サッカーをはじめ様々なスポーツを観戦したり、音楽や鉄道、旅など多彩な趣味の話題で盛り上がれる「クラフトレインボー」。公式SNSやネット検索などで、岡山の人だけでなく県外客や外国人観光客も訪れる店になり、特に2019年10月のラグビーワールドカップの時は印象深いという。


井坂さん「ある日本代表戦の日、たまたまJリーグのファジアーノ岡山とV・ファーレン長崎の試合も重なったんです。狭い店内に、ラグビーファンとファジアーノやV・ファーレンのサポーター、アイルランドの観光客グループが集まってみんなで盛り上がりました」


井坂さんがずっと思い描いていた、出身も立場も超えて人と人が繋がる、まさに理想的な夜だった。


クラフトレインボー
全国から樽ごと仕入れるクラフトビール。その日味わえる4種のラインナップは公式SNSでチェックできる。(c)Noriko Nishi 

こんな時だからこそ続けたい。勝負と挑戦の5年目


しかし2020年、コロナ禍で客足は激減。消毒用アルコールの設置や換気、テーブル席のパーテーションといった感染対策はもとより、苦しい中でなんとか活路を見いだすべく、期限付酒類小売業免許も取得しクラフトビールのテイクアウトも始めた。


井坂さん「おかげさまで2020年12月に4周年を迎え、なんとか5年目に突入しました。ビールはもちろん各地の日本酒や焼酎、地域限定のサイダー(アルコール)や珍しいソフトドリンクも揃えているので、お酒が飲めない方も大歓迎です。こんな状況だからこそ『ちょっと誰かと話したい』という時に気軽に立ち寄れる店として、続けていかなければと思っています」


クラフトレインボー
ビールのテイクアウトも実施中。グラウラー(炭酸可能水筒)や空にした炭酸のペットボトル(500ml)、タンブラーなどを持ち込めば、自宅でクラフトビールが楽しめる(2021年3月31日まで)。(c)Noriko Nishi

店舗の上にも住めたけど、自宅はあえて郊外に


井坂さんが店を営むのは岡山駅の近くだが、自宅は少し逆で郊外に借りている。


井坂さん「店の上に住むこともできなくはなかったのですが、あえて街からは離れた場所にしました。岡山駅前はすごく便利で、繁華街、家電量販店、百貨店、ショッピングセンターが揃っていて、このエリアだけで全て済んでしまう。でもせっかく移住したし、毎日の暮らしの中で他の地域のことも知りたいなと。自宅から店まで来る途中で、いろんなスポットを見つけたりするのも楽しいです」


店は1人で経営しているためなかなか休みはとれないが、時には市内のスタジアムにサッカー観戦へ出かけたり、息抜きに川の河川敷で過ごすこともあるという。


岡山市・旭川の桜
ボーっとしたい時に訪れるという岡山県の一級河川・旭川。「東京の実家から見える多摩川の桜の風景も大好きでした。だからかもしれませんが、昔から川は落ち着きますね」と井坂さん。(c)岡山県観光連盟

単身での移住独立は人との関係作りに難しさも


井坂さんの生活は常に店の経営が中心で、岡山で新しく友人をつくるのもなかなか難しいと話す。


井坂さん「特に今はコロナ禍でもあるので…。家族で移住してきた人ならパートナーや子どもを介した人間関係が広がるかもしれないんですが。『ここに馴染むのには10年はかかるよ』と県外から移り住んだお客さんに言われたこともあります」


確かにこれは岡山に限らず、地域や町には特徴や文化があり、長年守ってきた人々の中の輪に入って溶け込むのはそう簡単なことではない。


井坂さん「もちろん優しく接してくださる方もいて、向かいのお店とは仲良くしてもらって、野菜などをおすそわけしてもらうこともあります。常連のお客さんに牛窓へ連れて行ってもらった時は嬉しかったですね」


岡山県・牛窓
瀬戸内海に面した町・牛窓も井坂さんが好きな岡山の場所のひとつ。(c)岡山県観光連盟

移住を考えるなら…人生経験と知見が糧になる


岡山市に移住し独立開業して5年目。充実しつつさまざまな困難も経験した井坂さんに、移住を考える際に必要なことを伺った。


井坂さん「移住候補地だけでなくいろいろな街に行って人と交流し、知識を広げておくことでしょうか。また、もし移住先で独立を考えるなら、仕事の経験を重ねておくのも必要だと思います。経営者になるわけだから、雇われる側の立場も経験しておいた方がいいと思いますね」


前職をはじめさまざまな職業を経験し、旅もたくさんしてきた井坂さん。移住先でコロナ禍という壁に直面している今だからこそ、移住前の人生経験や、お世話になった人、各地にいる友人たちからのエールも大きな支えになっているという。


移住先での新しい人生のために。現実から逃げずに向き合って、“今できる経験”をしっかり積み重ねることが大事だと語ってくれた。


 


クラフトレインボー
住所:岡山市北区野田屋町2-5-4
電話:086-230-2575


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