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月遅れの雛祭りと信州に残る「挿絵雛」。

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 信州や甲信越では雛祭りといえば4月3日。旧暦との整合性を取るために「月遅れ」で行うところも多いようです。旧暦というとお正月もすっかりと中国のものかのような印象が広がってしまっていますが、日本の年中行事や歳時記も元々は旧暦をもとに作られています。旧暦は新月から月が始まり、15日に満月になってまた新月になるまでを基本に据えたもので、農暦とも呼ばれて季節の移り変わり、特に植物の生育や農家の作業サイクルとうまくリンクしています。21世紀の今でも古くからの感覚を重んじる地域では農村の共同体の祭礼を旧暦で行われているのを見ることができます。同様に3月3日の節句も旧暦で行う地域が各地に少なからず残っています。

 旧暦3月3日は太陽暦では4月前半の桜も散った頃。古い和歌では三日月が節句の題材に詠まれますが、旧暦ではこの日は常に三日月、ということになります。桃の節句にはあさりのちらし寿司や貝のお吸い物、貝合わせなど「貝」のモチーフがつきものですが、海岸部ではこの節句に貝を採る「浜遊び」や「磯遊び」という慣習がありました。旧暦で考えてみると3月3日は潮干狩りの時期ともちょうど重なっています。

 観光用に旧家や古民家に伝承された雛人形を4月の春休みいっぱい展示する地域は日本海側で多く見られます。そしてこうした地域には今スタンダードな「段飾り」よりも古い形のものが残っていて、長野県の松本市では「押絵雛」が今でも飾られています。「押絵雛」とは武家の上流家庭から始まったもので、厚紙に着物の柄を生かした布に、綿を挟み包んで組み合わせて作ってあります。松本市や安曇野市周辺では段飾りの立体雛に合わせて押絵雛も一緒に飾るのだそうです。

厚紙と布で作る押絵雛。

 この地域では宮中の婚礼のモチーフのみならずさまざまなおめでたいモチーフの押絵雛を一緒に飾ります。古い家では100年前の押絵雛が奥から出て来たりもするそうで、今でも押絵雛を扱っている唯一の店『ベラミ人形店』ではそうした古い押絵雛とそっくり同じものを複製して新しくする仕事もしています。そうすることでまた100年、その人形が伝わってゆくことになるのかもしれません。

『ベラミ人形店』では、押絵雛作りの手芸教室もやっています。

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