5月24日、長野県観光機構と、旅行コミュニティプラットフォームのAirbnb Japan が、空き家再生やまちづくり、関係人口の創出支援など地域創生を通じて、新たな観光需要を創出していくパートナーシップを締結しました。オンライン記者発表会には、長野県観光機構の野原莞爾 理事長とAirbnb Japanの田邉泰之 社長に加え、長野県辰野町でAirbnbのホストをしている「古民家ゆいまーる」の矢ヶ崎夫妻も参加。Airbnbが空き家再生や関係人口創出といった地域創生に関わる背景や、実証実験のフィールドとして長野県辰野町、須坂市を選んだ理由とは?
持続可能な観光モデルを長野県から創出していく
今回のパートナーシップを通じて、両者は古民家や空き家など地域資源を再生・利活用する「再生活用する観光」を目指すとともに、Airbnb登録の宿泊施設を起点にして関係人口の創出をするほか、「暮らすように旅しよう」をコンセプトにしたAirbnbの長野県特集サイトのオープン・ウェビナーの開催などを計画しています。
とくに空き家再生など地域創生に関しては、重点エリアとして、長野県の南部に位置する辰野町を含む伊那谷エリア、県北部の須坂市・峰の原高原の2地域を指定し、協働していく予定です。
グローバルに展開するAirbnbが今回、日本の地域創生に関わることを決めた今回の発表会。どのような背景があったのでしょうか。
Airbnb Japanの田邉社長は、「ポストコロナの社会では、従来のような主要な観光資源をめぐる“大きな観光”だけでなく、何もしない贅沢や地域の日常の暮らしを垣間見るといったニーズも高まっており、地域の暮らしを壊さない観光=サスティナブルツーリズムをどうつくっていくかが重要」と語り、観光にも持続可能性が求められている点を挙げました。
求められる「行きつけの田舎」
長野県観光機構も、これからの観光のあり方は、「場所から人へと変わる」と指摘。
コロナ禍によって人と人のつながりが薄れたことによる、つながりへの渇望もあり、定期的に地域に訪れることで地域との関係性を深めていく、そういった関係性そのものに価値を見出す旅人が増えていくのではないかと分析します。場所をめぐる観光から、人に会い、つながりを深めていく観光へとシフトしていくことで、これまで観光地ではなかった場所が目的地になる可能性も見えてきていると言えます。
古民家ゆいまーるのホストの矢ヶ崎芳恵さんは、人々が「行きつけの田舎を求めている」と話します。
「日本の田舎を体験したいという外国人も多いですし、都会生まれで帰省先を持たない親御さんが子供たちに行きつけの田舎を作ってあげたいという思いで、滞在に来るケースもあります。中には、10連休してくれるゲストもいるほどです」
矢ヶ崎さんの言う「行きつけの田舎」は、まさに長野県観光機構が推進する関係人口の創出という目標にも繋がっており、
その点で、地域コミュニティに根ざし、地域と旅人をつなぐ橋渡しをしているAirbnbのホストは、旅人が地域との関係性を深めていく「つながり旅」の良きパートナーになると考えられるでしょう。
再生活用の「重点エリア」に選ばれた辰野町と須坂市
パートナーシップの目玉として両者が掲げる、「再生活用する観光」。その実践の場として辰野町と、須坂市の2つが挙げられました。2つの自治体が重点エリアに選ばれた背景にはどんな理由があったのでしょうか。
辰野町は、日本ならではの田舎暮らしや生活が色濃く残る町で近年では、地域・民間・行政が協働する有機的なネットワークの構築によって、空き家の再生にも成功。同町の空き家バンクは全国屈指のマッチング率を誇り、近年、移住世帯を大きく伸ばしています。長野県観光機構は、そういった成功事例が、今後の他のエリアのモデルになりえるポテンシャルを持っていると期待を寄せています。
また、今回の発表会にも出席していたAirbnbの長野県ホストリーダーの古民家ゆいまーるの矢ヶ崎さんが、辰野町ということもあり、今後、市町村の境界線を越えたホスト同士の横の連携が大きな力になる見通しであることも、選定理由と言います。
また、須坂市峰の原高原エリアは、40年以上前から数多くのペンションが建てられた別荘地で、近年はオーナーの高齢化や空きペンションの増加が課題であるため、Airbnb Japanの知見を生かしながら、ペンション再生など地域づくりを推進していきたい考えということです。
6月9日には長野県観光機構とAirbnb包括連携記念 オンラインイベントが予定されているほか、須坂市峰の原エリアでの現地調査など、具体的な取り組みが予定されています。
グローバルに展開するAirbnbが日本の地域課題解決にどのように寄与できるのか、「再生活用する観光」という新たなモデルに注目です。
(文・北埜航太)