味に御蔵島の日常を感じて――。島の伝統料理とその周り。【御蔵島・後編】

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2022.02.17

東京都の「東京宝島」のホームページに掲載されている、御蔵島のブランドコンセプト内の一文「島の魅力は、すべての島の暮らしの中にある。島びとの中にある」に惹かれた編集部。御蔵島地域コーディネーターの井上日出海さんに“いつもの暮らし”を見せていただけないかと相談したところ、「料理を通して、御蔵の女性たちから話を聞いてみたらどうでしょう」と、島に受け継がれる伝統的な料理を取材させていただく機会を得た。 教えてくれたのは、西川さつきさんと井上はるみさん。島に暮らし、島のいろいろなことも知っているお母さんたちだ。どんな料理があり、どんなお話が聞けるのだろうとワクワクしながら集落の中にある西川さんのご自宅にお邪魔すると、すでに料理の下ごしらえが始まっていました。

(取材は2021年11月に行いました。撮影時にのみマスクを外しています)
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島に伝わる料理を披露してくれた西川さつきさん(右)と井上はるみさん。

忌の日の明神様?

「蒸したサツマイモを肉擦り(ミンチにする機械)で細かくする。昔は手でやってたけど、今は機械でね。ザルで干して、乾いたのを保存しておくの。今はストッカー(冷凍庫)があるからいいけど、昔はそのまま置いておいたんでしょうね。今日はこのサツマイモ1.8キロともち米一升でつくります!」

家に到着するや否や、西川さつきさんはそう話しながら作業を進める。披露してくれる料理は「芋餅」。今は電動の餅つき機を用いるが、昔はもち米を蒸籠で蒸し、杵と臼で餅にし、そこに蒸したサツマイモを入れてつくっていたそう。「今は全自動だから50分くらいでできるかな。それまでは別のもの、“忌(き)の日のあぶらげ”をつくりましょう」と井上はるみさん。

左/芋餅の材料となる、細かくなったサツマイモ。右/浸水しておいたもち米。
電動の餅つき機の中へもち米とサツマイモを一緒に投入。

「忌の日のあぶらげ」。なんとも不思議な響きに興味もそそられる。

「島に『忌の日の明神様』という風習がある。毎年1月の終わりごろに忌の日の明神様という神様が島に上陸して、24日の夜に集落の中を回る。その時に、このあぶらげを捧げていないと家を(家のトイレの扉を)蹴飛ばされるという言い伝えがあるの。そして翌朝、神様は海を渡って帰って行かれるので25日の朝は絶対に海を見てはいけないって、子どものころから言われていた。だから、怖かったし、絶対に海を見なかったね」と西川さん。

島の行事食なのだろう。材料はもち米と水。それをこねて油で揚げる。シンプルに聞こえるが、手間がかなりかかる。「もち米を研いで、ザルに上げて水を切ったら、乾くまで陰干し。完全に乾くまで4〜5日くらい。それを、昔は石臼で挽いていたな。今は機械で粉にするけど。細かさもそれぞれの家のやり方があるの」。

粉状になったもち米。「細かさもそれぞれの家の好みがある」と西川さん。

サラサラの細かい砂のようになったもち米に、今度はぬるま湯をかけていく。「お湯を入れすぎると揚げるのに形にならない。餅っぽいのが好きな人はよくこねて、歯ごたえがほしい人は、軽くサササって揉んで終わり」と言いながら西川さんは手を動かす。

見ていると結構な力作業。腕に全身の体重をかけてこねていく。こねた餅を揚げるために成形していく。丸められた形は、なんだかビッグサイズのマシュマロのよう。ちなみに成形された状態の固さはいわゆる“耳たぶ”くらいとのこと。

もち米をこねる作業。ギュギュっと響き渡る音に、かなりの力作業だとわかる。
丸められた形が、とても愛らしいと感じた。
調理をしながら、日々の暮らしや島の昔話などで盛り上がる西川さんと井上さん。

椿油が特徴。

さて、いよいよ油で揚げていく工程へ。鍋には170〜180℃の油を用意。ちょっと色の付いた油のようで、ひときわ香ばしくも感じる。「そう、ここには半分、椿油が入っているの。高級品だけど、昔から忌の日の明神様につくるあぶらげだけは椿油を使う。前は100パーセント椿油だったけど、うちでは今は半分くらいサラダ油を混ぜていて」と西川さん。ちなみに忌の日の明神様は、この椿油の香りが好物だから満足して家を蹴飛ばさないとか、嫌いだから近寄らないなど、諸説ある。

鍋の中、あぶらげが、まるではんぺんのように少し膨らみながら、愛らしく泳ぐ。ほんのり色づいてきたらそれで完成だ。

熱々のできたてを砂糖じょうゆに付けてほおばってみる。実においしい。香ばしい油と甘辛いタレの相性がぴったりで、歯ごたえも、餅っぽさを感じつつも、サクサクとした食感があり、何個でも食べられてしまいそうな感じ。

「今だとラーメンなんかの汁物に入れると、水分を吸ってそれはそれでおいしい。サクサクが好きな人はちょっとだけ汁に浸して食べたり、家庭内でも人それぞれ」と井上さん。野菜や島海苔を添えたお吸い物も定番だそう。おでんの餅巾着の餅の代わりに入れてもいいようだ。

「子どもは、このまま砂糖じょうゆに付けて、おやつに食べるのが好きみたい。これだけは年中食べたいって人もいて、そういう人は大量につくって冷凍している。冷凍したやつでも、電子レンジでチンしたり、あったかい汁の中にそのまま入れても味が染みてくれるから」と2人は笑顔で教えてくれた。

好きなサイズに切った生地を、ゆっくりと油の中へ。油で揚げるおいしそうな香りが台所に広がった。
黄金色の美しい油の中で揚がっていく。色づいてきたら食べごろに。
「あぶらげはみんな好きなんじゃないかな。だっておいしいもん」と井上さん。
左/揚げたてのあぶらげ。右/砂糖じょうゆに付けて。何個でも食べられるおいしさだ。

芋餅をつくる。

「ビビビ〜!」

餅つき機からけたたましい音。どうやら、あぶらげをいただいているうちに、今度は餅がつき上がったようだ。機械の蓋を開け、餅の上から、茹でてミンチ状にしたサツマイモ乗せ入れ、さらに餅をこねていく。木ベラを使って餅をひっくり返し、しばらくしたら砂糖を投入。さらにこねる。均等に混ざったら今度は成形へ。浅めの鉢の中に上新粉をふり、その上に餅の塊をドーンと。きれいな丸餅がどんどんできあがっていく。

「今は丸餅が普通かなあ。昔は平べったくした、のし餅にして、それを四角に切る。正月の前に、これと里芋とかを宅急便で子どものところなんかに送ったりするのに、四角だと小包に入れても潰れないから。あ、一つ“なまこ”にしてみる?」と西川さんが言う。なまことは、丸っとしたかまぼこのような形状にすること。食べるときにその都度切るのだそう。

できたての芋餅をいただく。サツマイモの風味のある餅は、素朴な甘さのある味わい。何個でも食べられそうな滋味。聞けば、これを短冊状にして切って揚げてもおいしいらしい。確かにそう思う。

左/餅つき機から炊き立ての甘いいい香りが。右/サツマイモともち米がしっかり混ざったら、餅つき機に砂糖を投入。
連携して餅を成形していく。島の女性たちは行事ごとで一緒に作業をすることが多く、その中で培われた技だ。
現在、島内では丸餅が普通だそうだが、島外に出た家族に宅急便で送るため、のし餅にして切ることも増えたという。
優しい甘みと柔らかさが特徴の芋餅。

島の女性のこと。

しかし、あぶらげや芋餅をつくる2人の作業を見て思ったのは、手際のよさだ。連携が見事だった。まさに、あうんの呼吸。

「島の料理は冠婚葬祭のときに女の人が集まってつくることが多いから、年配の人のつくり方を見て覚たり、教えてもらったり。伝承ですよね」と井上さん。西川さんも「でもね、なにをするにも御蔵の女衆は大変だった。御蔵の男衆は、黄楊を伐りに行っても、伐りはするけどなんにも背負わないで帰ってくる。その後は男衆は車座になって酒を飲むだけ。女衆が背負ってくるの! 今、そんなことしてたら、お嫁さん来ないから! って言ってる(笑)」。

かつて、御蔵島の特産であった黄楊の木を山で伐採したあと、60〜80キロある黄楊を背負ってくるのは、なんと女性の仕事だったのだとか。「嫁に行くなら八丈。婿に行くなら御蔵」なんて言葉も残っているくらい、かつての島の女性たちはかなり大変だったようだ。とはいえ、郷土料理をいただきながら聞く島の昔話はどれも興味深い。こういう時間こそ豊かだと感じる。

森の奥で見かけた黄楊の林。担いで運び出していた時代の苦労を思う。
山の中にある階段は重い荷を担いでも楽なようにと段差が低いという。集落の中の道(階段)もその形態を倣っている。

島の昔のこと。

芋餅は年末やお正月につくることが多かったそうで、話は自然とその時季のことに。「南郷へは普段はあんまり行かないけど、南郷の神様にお参りしなくちゃ小学生になれないから、お正月なんかにみんなで行ったり。南郷まで歩いて4時間。大変でしたよ(笑)。小学1年生になる前に行くんですから! 今は車ですぐ。昔は1日掛かり」と西川さんが当時を振り返る。

南郷は、島の南東にあるかつて人が暮らした地区名で、集落から当時の山道だと20キロほど。そこまで、6歳くらいの子どもが往復8時間かけて歩くという驚きの風習だ。これだけではない。「南郷といえば初釣り。男の子は数えで13の歳にふんどしを締めてもらって一人前。その後南郷の浜へ初釣りに連れて行って貰えた。女の子は数え15で一人前の女として、腰巻と晴れ着を着せてもらい、祖霊社で先祖を拝む」。島に受け継がれる昔ながらの伝統。シンプルに、いいなと思う。

話を聞けば聞くほど、本来の御蔵島は山と森の島だとわかる。
南郷の大ジイを見に、ガイド付きで散策できるコースの一つ・南郷コースへ。豊かな自然に圧倒され、ここを島の子どもたちが歩いていたのかと思うと驚きを隠せない。

ほかにもいろいろある島料理。

芋餅、あぶらげ以外にも、島にはたくさんの郷土料理がある。たとえば「へんご団子」。冬、島で「へんご」と呼ばれる植物・シマテンナンショウの地下茎を掘り出し、皮をむいて蒸したものでつくる団子のこと。また、「さくゆりのきんとん」は、伊豆諸島に自生するヤマユリの変種であるサクユリのユリ根を茹で、砂糖を入れて練った料理。島に自生するヨモギを、砂糖を入れた天ぷら粉で揚げた「はやき」も。海産物を使ったものだと「ムロのしょっから汁」。ムロアジが豊漁の際に、内臓や頭などを取らずに丸ごと塩で漬け発酵させたものを濾(こ)し、島で取れる里芋や明日葉などの野菜を加えて煮込んだ汁物。「ササヨのわた汁」は、冬に取れるササヨの内蔵をきれいに洗い、大根やネギを一緒に入れて汁物にしたもの。

「今もつくる人はいるだろうけど、あまりやらないかなあ。島でイワネと呼んでいる巻貝や、ヒラメという一枚貝を磯で採ってきて、湯がいて醤油味の炊き込みご飯にもしたけど、最近はどういうわけか貝が取れなくなっちゃたから。『明日葉のにんがみ』はよくつくるわね。クタクタになるまで明日葉を茹でて、昔はそれを味噌と油、ダシで和えていたけど、最近は味噌でなくシーチキンや、にんにく醤油、くさやとマヨネーズで和えたり。みんな工夫してやっているかな」と井上さん。

井上さんが自宅で振舞ってくれた「はやき」。甘い衣がやみつきに。衣の量、味付けなどで各家庭の味わいが出る。
「はやき」の衣部分を焼いた「ほうろく焼き」。中にあんこを入れたりといったアレンジもできるそう。

明日葉のにんがみは、島の宿に宿泊すると提供いただくこともあるが、それ以外はなかなかお目にかかることができない。島民が大好きな「忌の日のあぶらげ」や「芋餅」も運がよければ島で見ることができるかも、という程度。しかし、真似してつくってみたい、話を聞いてみたいと思った時点ですでに、御蔵島の深い魅力に魅了されているのだ。

西川さん、井上さんの話を聞きながら、島の文化や日常に豊かさを感じる。

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◎レシピ紹介

◎レシピ1_「あぶらげ」
材料(2〜3人分)
もち米…500グラム
水…350〜400ミリリットル
サラダ油・椿油…適量

(作り方)
1.あぶらげの生地をつくる。もち米を家庭用のミルなどで細かくする(なければもち米粉で代用)。
2.1をボールに入れ、水を加えながらよく練る。耳たぶほどの固さになったら、かまぼこ状に成型し、好みの厚さに切る。
3.鍋にサラダ油・椿油を入れ、170〜180℃の温度になったら2を入れて、ほんのり色づくまで揚げる。

◎レシピ2_「芋餅」
材料(2〜3人分)
もち米…500グラム
水…適量
サツマイモ…600グラム
砂糖…200グラム
塩…少々
上新粉…少々

(作り方)
1.サツマイモをしっかり茹で、ボールなどでミンチ状にする。
2.炊飯器にもち米と水を適量入れて炊く。炊き上がったら当り棒などで米をつく。粘りが出てきたら1と塩少々を入れ、木ベラなどで混ぜ、さらにつく。
3.バットやまな板などに上新粉を振り、その上に2を移し、好みの形に成型する。

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自然と共創し育む御蔵島。強く勇ましい島本来のかっこよさ。【御蔵島・前編】はこちら

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photographs & text by Yuki Inui

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