炭素も廃棄物も出ないまちを目指す、長野県・小布施町。

炭素も廃棄物も出ないまちを目指す、長野県・小布施町。

「栗と北斎と花のまち」として知られる長野県北部に位置する小布施町。力を入れている取り組みの一つが「環境先進都市への転換」だ。“暮らし続けたいまち”を目指し、地球環境を考慮したまちづくりを進める小布施の今を取材しました。

景観から環境へ。地方から地球の未来を考える。

 長野県・小布施町は、年間約120万人の来訪者を誇る信州屈指の観光地である。特産の栗を使った菓子が人気のまちだが、観光の礎は1970年代に開館した葛飾北斎の作品を多数収蔵・展示している『北斎館』の存在が大きい。当地の豪商・高井鴻山と親交のあった葛飾北斎はたびたび当地を訪れ、作品を残したのだという。訪れる観光客を景観でもてなそうと、多様な取り組みも行われてきた。

 1980年代には「町並み修景事業」がスタートし、今の小布施を象徴する空間の一つである「栗の小径」などを整備した。また、「うるおいのある美しいまちづくり条例」も制定され、町民や事業者とともにまち全体で景観づくりに取り組む動きも。欧州のまちづくりを参考にしながら人材育成も進め、この動きは2000年ごろからはじまる、官民が一体となって取り組んだ全国初のオープンガーデン「おぶせオープンガーデン」となって結実し、今では約130軒を超える民家が来訪者に庭を開放するようになっている。素地として、小布施における環境は、このように景観・美化的な文脈がベースにあった。

 さて、2020年に策定された小布施町の中期計画「第六次小布施町総合計画」において、基本計画6項目の一つ、「環境・防災・インフラ」の中で重点施策の一つに掲げられているのが「環境先進都市への転換」だ。自然エネルギー利活用の推進、ごみゼロの推進など、持続可能な未来に向けた方針が並ぶ。時流からいえば、至極当然のことのように思えるが、以前から議論を深めてきたことが最近になって結実したカタチだ。

住民に配布された「第六次小布施町総合計画」の冊子。

「2012年に開催された『小布施エネルギー会議』が、一つのきっかけではないでしょうか。自然エネルギー普及を目指す『自然電力』や営農型太陽光発電に取り組む『千葉エコ・エネルギー』にもご参画いただき、住民のみなさんとワークショップを多数開催し、小布施の未来について議論を深めました。現在は信州大学キャリア教育・サポートセンターで講師を務める勝亦達夫さんは、当時は小布施町職員であり、農家から出てくる剪定枝などを活用してバイオマス発電ができないか、などの検討・調査もされ、今に続く流れの端緒となりました」と、教えてくれたのは、小布施町総合政策推進室室長・大宮透さん。所属する「総合政策推進室」は、環境分野を含めた新しい施策を組織横断的に検討・推進する部署であり、総合計画策定と同時期に新設された部門。期待の大きさがうかがえる。

左/小布施町総合政策推進室室長・大宮 透さん。右/小布施町総合政策推進室総合制作推進専門官・林 志洋さん。

 古くから小布施町の環境分野への働きかけを行ってきた小布施町議会議長・小林一広さんは、東日本大震災、そして2019年に起きた台風19号豪雨災害が大きな転機だったと話してくれた。「防災の重要性と同時に、なによりも災害の根本の原因になっている、気候変動や環境問題が顕在化した出来事でした。自然エネルギー活用を模索したり、ごみを含めた環境について取り組むべきだという共通認識や雰囲気が、まちの中にできていったと感じました」。

小布施町議会議長・小林一広さん。リンゴや栗などを栽培する『小林農園』園主でもある。
松川の眺め。美しい景観だが、2019年の台風19号豪雨災害の傷跡が今も残る。

調査・分析から見えてきた、小布施の課題とは。

 2020年度は、主に調査・分析に重きが置かれた。すると自動車はほぼ全量がガソリン・軽油由来であり、事業所や家庭から排出される二酸化炭素の排出の約7割は電力由来であることが明確になったり、公共施設の電力消費が業務電力における約4分の1を占めることなども数字として明らかに。

「これにより、電気自動車への移行を模索したり、消費電力の削減と同時に、自然エネルギーへの転換を具体的に把握し、考えられたりするようになりました。こういったデータは、もう少し大きな規模の行政では専門部置があり、普段から収集・管理しているところも多いのですが、小布施のような小さなまちの規模だと、なかなか難しい。でも、調査の一歩を踏み出したことでこれからは数値のモニタリングもできるようになりましたし、具体的に数字を持ってまちの皆さんと話すことができる“コミュニケーションツールとしてのデータ”としても把握できたのは大きな成果だなと思っています」と林さん。

 大宮さんも、「今年の下半期ぐらいからは住民のみなさんと膝を突き合わせて、こういった現状の中で、どんな取り組みできるのか、小布施町としてだけでなく個人の行動変容についてまで議論を深めていければと思っています。また、ごみに関しても同じこと。ごみ自体を出さない社会をつくることを目的に活動する『ゼロ・ウェイスト・ジャパン』に調査から伴走していただいてますが、これまでの調査の中でわかった小布施町の現状を踏まえて、資源の再利用化の推進に向け、収集方法、自治会単位での取り組みなど、進めていこうとしています」と、まちの未来に期待を込める。

雑誌『ソトコト』に掲載した、小布施町のデータの一部。心地のよいまちを守り、さらには災害時にも強い持続可能な公共インフラを実現するために、まずは現状を知ることが大切。

「第六次小布施町総合計画」を進めるうえでのキーマンの一人である林志洋さんは、2018年に開催された、「小布施若者会議」に参加したことをきっかけに小布施に関わるようになった。総合計画策定にあたり住民ワークショップを行った際にはファシリテーターも務め、現在は専門官の肩書で、小布施町と関わっている。

「まずは、まちの現状を調べて議論を深め、これからのビジョンを幅広く考えていくところからでした。大きな方向性としてはゼロウェイスト、ゼロカーボン、エネルギーの自給自足、観光とサスティナビリティの4つ。ごみを減らすことは財政の負担を減らすと同時に、ごみの焼却による二酸化炭素の排出を減らすことにもつながります。太陽光や小水力、バイオマスなど、さまざまな自然エネルギーの施策を深掘りして、二酸化炭素の排出を減らし、エネルギーを自給自足できるようになれば、災害時にも強いまちとなり得ます」。

小林さんの栗林にて情報共有を行う3人(左から林さん、小林さん、大宮さん)。「環境に配慮した農業政策ができたら、新たな付加価値につながるかもしれません」と、小林さん。

自立・分散、そして補完し、支え合う地域連携を目指す。

 まちづくりの歴史を見ても、小布施はコミュニケーションや機運を生み出していくのが上手だと感じる。ただ、こと環境という面で考えると、広域での連携、共助が不可欠となってくるだろう。それぞれの地域が持つ自然・人的資源によって、相互に補完し合い、持続可能なまち、エリアを目指すこと。実は小布施でも、そんな周辺自治体との連携も始まっている。「北信スマートテロワール」と呼ばれる事業がそれだ。小布施を核としながらも、北信地域全体がフィールドとなっている。仕掛け人の一人は、前出の信州大学・勝亦さん。今後の小布施町の展望について伺った。

「連携地域全体で、土・モノ・人をつくることが大切です。土とはインフラを指し、ソーラーシェアリングや剪定枝を利活用したバイオマス発電、地域木材を使った高断熱の住宅などの整備。モノは、自然に優しい農業と畜産の連携、耕作放棄地を活用した酒米づくりや、遊休地を活用した牧場とその堆肥活用など循環を考えたモノづくり。人は人材の育成。災害復興で力となる人や組織の育成、中核的に活躍できる人材もそうです。小布施だけ見ていたんでは難しいことも多いですけど、ほかの市町村や専門家の方々と連携して、それぞれが方法論やノウハウを共有していく機会が必要だし、そのほうが結果として地域の文化や環境というものが、残っていくんじゃないでしょうか」

信州大学キャリア教育・サポートセンター、講師の勝亦達夫さん。博士課程の学生として関わったのち、同役場に勤務し、景観・まちづくりなどを担当した。

 可視化されたデータを指針に、小布施町は炭素も廃棄物も出さないまちへの取り組みを加速させる。2021年夏には、地域おこし協力隊制度を活用し「ゼロカーボン推進員」「ゼロウェイスト推進員」も採用した。小さなまちの中でできること、広域連携によって高まる持続可能性、その両輪で動く小布施に学ぶところは大きい。

町内に立つ2018年に完成した『小布施松川小水力発電所』。稼働時、町内約300世帯の電力をまかなえるという。
2019年から始まった屋根置きの太陽光発電。町内6か所の公共施設の屋根に設置されている。発電した電気は施設の電力をまかなうほか、施設非利用時には売電される。

photographs & text by Yuki Inui

記事は雑誌ソトコト2021年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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