地元産の“電気”で、環境にも家計にもやさしい暮らし。地域の未来をつくる「ご当地電力」とは?

地元産の“電気”で、環境にも家計にもやさしい暮らし。地域の未来をつくる「ご当地電力」とは?

 みなさんの家では、どんな電気を使っていますか? 2016年の電力自由化以降、料金や発電方法などにおいて特色ある電力会社が次々に誕生し、契約する電力会社を選べるようになりました。そのなかで、地方自治体や市民が自ら発電に取り組む「ご当地電力」をご存じでしょうか? 各地域の豊富な自然エネルギーを活用して、持続可能な発電に取り組むご当地電力は、地域のまちづくりにも大きく貢献しています!

「ご当地電力」を知っていますか?


 「ご当地電力」とは、各地域が主体となり、地方自治体や地元企業、市民が取り組んでいる自然エネルギー(太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスなど)を活用した発電事業のことです。


 2011年の東日本大震災をきっかけに、日本各地でエネルギー自給やその発電方法などに注目が集まるようになりました。震災後は節電が呼びかけられ、使う電気の量をできるだけ減らすように心がける日々が続くなかで、あらためて電気の便利さや重要性を感じたり、意外に少ない電力でも不便しないと感じた人も多かったのではないでしょうか。


送電線


 こうした経験をきっかけに全国各地で立ち上がったのが「ご当地電力」です。地域にある自然を活用し、住民自らが主体となって発電するご当地電力は、環境にやさしいだけでなく、住民同士の交流や地域経済を活性化させる役割も担い、しだいに全国各地へ広がっていきました。


 しかし、毎日使う“電気”自体は身近でも、“発電”となると自分にはあまり関係のないように感じる人は多いと思います。「住民が自分たちで発電する」とは一体どういうこと?という人も多いかもしれません。


 そこで今回は、2014年に新潟市でスタートしたご当地電力「おらってにいがた市民エネルギー協議会」の代表・佐々木寛さんに、立ち上げの経緯や市民主体の取り組み、そしてご当地電力のメリットなどについてお話を伺いました。


市民主体のまちづくりを目指して。


 「おらってにいがた市民エネルギー協議会」は、2014年に新潟市民によって立ち上げられた一般社団法人です。“おらって”とは、新潟の方言で“わたしたちの”という意味。太陽光による発電事業を中心にしながら、市民(=わたしたち)が主体となってまちづくりに取り組める地域社会を目指し、活動を続けています。


おらって_セミナー
インターン生を対象にした夏季セミナーの様子。前に立ってプレゼンしているのが、代表の佐々木寛さん。

 そもそもの始まりは、新潟市が生涯学習の場として運営する「にいがた市民大学」で2013年に開講された市民講座がきっかけでした。当時は、深刻な原発事故を引き起こした東日本大震災から約2年が経過したころ。そんななかで“原子力”をテーマにした講座が開講され、その講師を務めたのが、現・おらってにいがた市民エネルギー協議会の代表であり新潟国際情報大学教授の佐々木寛さんでした。


 複数回にわたる講座では、原子力の話題を中心に「東日本大震災後のこれからをどう生きていくべきか」というテーマが語られ、熱心な受講生とともに熱い議論が繰り広げられました。


佐々木さん「当時は、講義のあとに参加者の人たちと飲みに行って、そこでもずっと議論していました。みなさんとても熱心で、熱い思いを持っている方ばかりで。そうやって盛り上がるうちに、エネルギー自給や地方自治のためには市民電力が必要だという話になって、いよいよ『市民発電をやろう!』ということになったんです。それから実現に向けて動き始めました」


 こうした市民の声を受けて、2014年1月には新潟市主催の「市民発電勉強会」が開催されました。全国のご当地電力の事例を参考にしながら、新潟の市民電力スタートに向けてより実践的な内容で学びを深めていきます。


 そして同年4月には、この勉強会に参加したメンバー有志によって「おらってにいがた市民エネルギー準備会」を結成。運営を担う10数名のコアメンバーを中心にしながら、組織や仕組みづくりが進められました。


佐々木さん「市民が自分たちで発電するなんて、本当にできるの?って思うじゃないですか。当時もみんなそう思っていたなかで、市民電力の実現は、全員の夢みたいな感じでした。もちろん立ち上げにはものすごいエネルギーが必要でしたけど、みんなで夢に向かって突っ走っていたので、不思議と『大変だった』という感覚はあまりなかったですね」


 9月に開催したキックオフイベントには、運営メンバーを含め、計280名もの参加者が集まり会場は満席に。イベントでは、全国各地で市民発電に取り組む団体からゲストを招いたパネルディスカッションや、「おらってにいがた市民エネルギー協議会」設立に向けた宣言文を考えるワークショップが行われ、市民電力の立ち上げに向けて加速していきます。


宣言文を考えるワークショップ
キックオフイベントで行われた宣言文を考えるワークショップの様子。新潟国際情報大学の生徒たちがファシリテーターを務めました。

 さらにその後も、協議会設立へ向けた話し合いや勉強会を3回にわたって実施。運営メンバー以外の市民も多数参加し、市民同士の意見を活発に交わしながら、協議会のあり方や団体の定款などが決められました。


 そうした市民主体の準備期間を経て、ついに「一般社団法人 おらってにいがた市民エネルギー協議会」が誕生します。最初の構想から約2年、2014年12月のことでした。


市民の力でつくる、発電所。


 現在おらってにいがたでは、新潟県内の公民館や体育館、企業の屋根などに太陽光パネルを設置し、合計40か所の太陽光発電所を稼働させ、約2215.5kWの電力を発電しています。これは一般家庭 約440世帯分の電力に相当します。


太陽光パネル


 発電事業に関してはメンバーの誰もが初心者だったなかで、立ち上げから数年間で40か所もの発電所を作るには費用も労力も必要だったはずですが、協議会メンバーの熱い思いと努力によって実現したと佐々木さんは振り返ります。


佐々木さん「協議会には本当にいろいろな職業や立場の人が参加してくれて、みんな『これは絶対新潟のためになるから』と一肌脱いでくれたんですよ。利益やお金のためではなくて、ふるさとのために、新潟のために、という気持ちで力を貸してくれました。資金面だったり、太陽光パネルを設置する場所だったり、いろんな課題はありましたが、みんなそれぞれ自分の立場でできることに無償で取り組んでくれたんです。当然、事業なので失敗する可能性もあったわけですが、この取り組みに対して一人ひとりが責任をとる覚悟で関係各所にかけ合ってくれたりもしました。それだけみんな本気だったんです。感動しました」


定例会の様子
月に1回行われる、定例会の様子。さまざまな年代の会員が集まり、おらってにいがたの今後の取り組みや、地域の未来について考えています。

 これまで電力会社に任せていた発電を、市民の力で取り組む。それは、エネルギーを地域でまかなう、あるいは、地球にやさしいということだけではなく、市民が主体的に地域の未来を考える第一歩でもありました。


 安心して暮らしていくためには何が必要なのか、一人ひとりが考え実行する。そんなふうにして、自分たちが暮らすこの地域の未来は自分たちで決める。こうしたメッセージとともにおらってにいがたは誕生し、発電事業をはじめとした地域での活動に取り組んでいます。


おらってにいがた



ご当地電力のメリットとは?

 現時点では、おらってにいがたの電気を各家庭が直接契約して使うことはできませんが、生協のパルシステムが運営する「パルシステムでんき」に加入することで、ほかの地域で発電された電気とあわさって間接的におらってにいがたの電気が家に届くようになっています。


 全国各地のご当地電力においても、発電された電気は電力会社に売電され、消費者に届けられます。電力会社のなかには、パルシステムでんきのように自然エネルギーによって発電された電気を優先的に供給する会社や、電気代の一部を自然エネルギーの発電所増設のために寄付する会社など、さまざまな電力会社があります。電力会社を選ぶときには、毎月の料金を比較して検討する人が多いと思いますが、供給している電気がどのように作られているのかわたしたちが支払う電気代がどこにいくのか、という観点で比較する方法もあります。


家庭のCO2排出最大の原因は、電気。


 そういった観点で電力会社を選ぶことは、環境に対しても大きなメリットになります。というのも、家庭のなかで最も二酸化炭素を排出しているのは、電気だと言われているからです。


家庭からの二酸化炭素排出量_図
出典)温室効果ガスインベントリオフィス 全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より

 現在、日本の発電方法で最も多い割合を占める火力発電は、石油や石炭などの化石燃料を燃やすことで大量の二酸化炭素を排出しながら発電されます。そうした環境負荷の高い方法で作られた電気を使う人が減り、持続可能な自然エネルギーを選ぶ人が増えれば、環境への負担も減らすことができます。普段の生活を変えなくても、自然エネルギーによって作られた電気を選ぶだけで、環境にやさしい暮らしにつながるのです。


小学校での環境教育
新潟市内の小学校で行われた環境教育の授業。おらってにいがたの協議会メンバーが講師を務めました。次世代へバトンをつなぐため、県内の環境エネルギー教育にも取り組んでいます。

電気代が地域に還元される、ご当地電力。


 そしてご当地電力は、環境にやさしいだけではありません。地元の経済にもメリットがあると佐々木さんは言います。


佐々木さん「たとえば、新潟県はもともと東北電力の管轄だったので、電気料金は東北電力の本社がある仙台にいくわけです。そしてもっと言えば、火力発電で使われる燃料は海外から輸入しているので、日本国外に出てしまうお金もたくさんあるわけですよね。でも地元で発電した電気を地元の人たちが使えば、経済も県内で循環することができるし、雇用も生まれます。若い人が地域に残るためには、魅力的な仕事が必要ですから」


 これまで県外あるいは国外に出ていたお金を、いちばん身近な地域のなかで回していくことで、地元経済の活性化にもつながります。そうして地元に魅力的な企業が増えれば、若者たちの人口流出も止められるかもしれません。電気は誰もが使うエネルギーだからこそ多くの人が関わることができ、地域経済にも大きく貢献できる可能性があるのです。


いわむロック2018
毎年9月に新潟市の岩室温泉で行われる「いわむロックFESTIVAL」。2018年には、おらってにいがた市民エネルギー協議会としてブースを出店。地元の小学生と製作したソーラーパネルで発電した電力を使って、ライブ演奏もされました。

野菜を選ぶように、電気も選べる。


 こうしたさまざまなメリットがあるご当地電力の電気を使うには、先にお伝えした通り、ご当地電力の電気を供給している電力会社を選び、家で使っている電気の契約を変更する必要があります。しかし「電気のことは専門的で難しい」というイメージがあるからか、電力会社を変更するハードルが高いと感じている人は多い、と佐々木さんは話します。


佐々木さん「たとえば『電気を変えませんか?』と業者が家を訪問したとき、お母さんは『お父さんに聞かないと』とおっしゃる方が多いんですよね。なぜかそこで家父長制のような考え方があって、『難しいことはお父さんに』と考える人はまだまだ多いように感じます。でも実際は、従来の大手電力会社の電気料金と値段はほぼ変わらない(あるいは安い)し、切り替えも書類を1枚書くだけで、難しくないんです。普段食べる野菜を選ぶのと同じで、もっと身近な話題として、一人ひとりがエネルギーについて考えてみてほしいなと思っています」


風力エネルギー
野菜や海産物などに言われる“地産地消”の考え方は、地域が生み出す自然エネルギーにも言えることです。

 みなさんは、「どんな電気を使おう?」と考えたことはありますか? もしかすると、そもそも家の電気について考えたことがない、という人は多いかもしれません。一方で、毎日食べる野菜の産地や栽培方法を気にする人は多いはずです。世界的に注目を集める“ヴィーガン”や“エシカル”といった環境や社会に配慮する考え方は、食事だけでなくファッションや日用品など、いたるところで取り入れられるようになりました。


 エネルギーにおいても、環境にやさしく安全な自然エネルギーへ転換する動きが世界各国で急速に進んでいます。すでに国内で発電する電力の50%以上を自然エネルギーでまかなっている国も増えてきました。日本でも自然エネルギーによる発電は少しずつ増えていますが、「供給が不安定」「料金が高い」といったイメージが染み付いており、世界と比べればまだまだという状況です。


 自然エネルギーやご当地電力のような社会に貢献する電気でも、従来の電気料金と変わらないか、安くなることもあります。たとえ自然エネルギーに限らなくとも、各自の生活スタイルに合わせて料金プランや電力会社を選べば、いまよりももっと電気代を抑えられることは多いのです。


 まずは、いま自分がどんなエネルギーや電気を使っているのかを見直してみることが、環境や社会をより良いものにする大きな一歩になるはずです。


エネルギーから地域の未来を考えよう。


 そして、電力会社変更の書類をたった1枚書くだけで、環境や地元に大きく貢献できるご当地電力を、佐々木さんは“静かな革命”と表現していました。各地のご当地電力には、これまで発電事業に関わったこともなかった地元の人たちが、試行錯誤しながらエネルギー事業を立ち上げ、地域の新たな未来を作っていく力強い姿があります。ここまで紹介したようにさまざまなメリットはありますが、地域のために行動を起こすその姿こそ、ご当地電力の本質なのかもしれません。


おらってにいがた

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