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連載 | やってこ!実践人口論

時代が時代なら、武将じゃん

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「実践人口」を増やすための合言葉が「やってこ!」である。「やってこ!」が世代を超えたつながりを生み、ローカルをおもしろくする。全国で、遊びながら仕事をすると強くなれる。

 全国をほっつき歩いていると、美意識と遊びの両輪をブン回している先輩と仲よくなることが多い。県外からわざわざ訪れるようなかっこいい店舗を造り上げて、「地元にもこんなお店があるんだ!」と地域の若者に憧れを与える。東日本大震災以降、“あえて”東京以外で同じことをやる人が増えている。私自身が全国を旅してきたここ5年は、デザインから編集へ、そして福祉の視点まで織り交ぜた社会的な雇用が目立ってきた。誰もが「ただの田舎町」だと思い込んでいた土地に価値を見出して、前例なき挑戦に身を捧げる人たちの姿は「時代が時代なら、武将じゃん」と頭が下がる思いだ。言い換えれば、未開拓の地に城を築き上げて、自身の理想を詰め込んだ旗を掲げることなのだから。矢沢永吉の言葉を借りれば、いつの時代もやるやつはやっている状態。今回はお世話になっている、まるで武将みたいな先輩の話をしたい。

目次

栃木・黒磯の武将

 東京から好立地のリゾートエリア「那須塩原」には、いわゆるイケてるレストランやカフェが立ち並ぶ。関東に加えて福島県まで商圏に巻き込んだ規模感は、一度行ってみないとわからないほどのパワーを秘めている。那須高原から車で約25分。いまローカル界隈で話題になっているのが黒磯駅のストリートで県内外から観光客を呼び込んでいる複合型施設『Chus(チャウス)』だ。

 カフェブームを牽引した『SHO ZO CAFE』の横並びに構えた元・倉庫の建物は、入り口で思わず写真を撮りたくなるような面構え。世界中の文化に触れてきた『チャウス』代表の宮本吾一さんこそ、黒磯の地に新たな城を構える“推しの武将”だ。まぁ、とにかくやっていることが手広い。むしろ、やりすぎ。惚れ込んだ土地に「こういうのあったほうがよくない?」のシンプルな欲求で、遊び心を加えながら形にしていく。ゲストハウス、カフェ&レストラン、マルシェ、居酒屋、オリジナルスイーツなど、どのアウトプットにも美意識を下地にした文脈が埋め込まれている。

 吾一さんの代表作が、無脂肪乳から作られたスイーツ「バターのいとこ」。良質なバターの材料となるのは、牛乳のわずか5パーセントの部分。残りの90パーセント以上にあたる無脂肪乳は脱脂粉乳として安価で流通している。「だったらその無脂肪乳を生かせばよくない?」。フードロスの観点からも、生産者への還元の視点でも、誰もが見過ごした材料に付加価値をつけた。さらにお菓子の生産工場では、障害者の就労支援も積極的に行っているのもかっこいい。パッケージは文脈を知らずとも思わず手に取ってしまうかわいさ。シャリッとした甘い食感は老若男女に喜ばれる味わいだ。フランス菓子のゴーフルに着目し、那須周辺の素材を最大限に活用。結果、イベントや百貨店に出店すれば数百個が1時間で完売する人気っぷり! 社会課題をしれっとサンドした「バターのいとこ」は2018年の発売以来、いまだにSNSを騒がし続ける”買いたくてもなかなか買えないお菓子“の地位を確立している。

遊びながら五感を刺激する

 2020年夏。吾一さんの北海道視察に帯同することができた。目的は在来種の小豆。「バターのいとこ あんバター」を新しく作るべく、北海道の小豆農家の畑をまるっと借り切る豪腕。「地元に昔からある小豆を使って、おいしいお菓子を作れたら最高じゃん。農家さんもそれで稼げて生活できたらうれしいし」と語る吾一さんの眼差しは優しい。

 札幌で遅くまで旅のメンバーとお酒を飲んで、クラブでゆらゆらと踊る。その土地のプレーヤーと合流して近況報告から未来の話まで語り合う。そこで気づいたのは、何げない雑談の中に新たなアイデアの種がちりばめられていることだ。いつもと同じ場所で同じ人と話すよりも、知らない土地で知らない誰かと話す。旅の効能は多種多様な視点で得られると思うが、“知の巨人”養老孟司先生が口にしていた「五感からの入力を情報化することが大事。現代人は既存の情報をまた情報化しているに過ぎない」が頭に浮かんだ。旅先で遊びながら五感を本能的に刺激し続ける吾一さんの動き方は、まだ誰もキャッチしていない感性を入力し続けているのではないだろうか? 

 全国で出会う、時代が時代なら武将の先輩たちは、みんな日本中を飛び回っている。本能的な実践の連続で新たな価値を拾い集めて、自分の城に持ち帰る様を今後も観察し続けて、いつか私も武将になりたい!

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