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連載 | とおくの、ちかく。 北海道・東京・福岡

「時間のものさし」を持ち替える

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「ただ住むだけじゃもったいない」「自分たちの住むまちをおもしろがる」そんな掛け声で集まったローカルを思う存分楽しみたい3人(北海道より畠田大詩・東京より竹中あゆみ・福岡より中村紀世志)の連載。一巡をした4回目は、北海道・東川町から。「時間のものさし」について、考えてみます。

目次

ものさしの振れ幅、あなたは持っていますか?

今回の書き手:畠田大詩

 

このまちに越してきて、自分の中で大きく変わったなあと思うことのひとつに、「時間」の感覚がある。

今までよりも、長い「時間のものさし」を持てるようになったというと、もう少し具体的だろうか。町役場で働く人間として「今後、まちがどうなっていくか」ということを日々考えるようになった、というのもあるし、壮大な自然を眼の前にすると、長い年月の経過を否が応でも考えてしまう、というのもある。でも、自分の時間の感覚にもっと大きく影響を与えたのは、「時間のものさし」が長い人に、たくさん出会えたことだと思う。

東川町は、家具のまちでもある。日本の5大家具のひとつ、「旭川家具」の約30パーセントを、ここ東川町で生産しているとも言われる。お隣の旭川市が人口約33万人、対して東川町は8400人なので、その比率を考えると、この町の木工家具産業の重要性は想像に難くないだろう。

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町内には、30以上もの木工家具、木工クラフトの事業所がある。

東川町で家具を扱う人たちは、必ず自分たちが手掛けた家具を「長く使ってほしい」と思っているし、どうやって限りのある森林資源を使っていくべきかという問いを持っている。何十年も前に生まれた木を、何十年も先まで使うために、今、家具をつくる。

そんな人たちの口からは、「何十年も先の自分たちが住んでいる場所が、どうなっていくのか」「自分たちが居なくなった後に、どんな場所であってほしいか」という、長い時間を見据えた意識を下敷きに、言葉が交わされることが多い。その時間に対する意識や感覚を「時間のものさし」と呼ぶとすると、彼ら・彼女らと言葉を重ねるたび、自分が時間のものさしを、「今日・明日」「1週間」「1か月」、長くても「1年」とかしか持っていないことに、ハッとさせられる。3年後ことすら、ぼんやりしているもんなあ。

「100年先も使える家具」という言葉はいろんなところで聞くけれど、それを、細部まで徹底して実践している家具事業者が、『北の住まい設計社』だ。扱う商品は、すべて防腐剤などが一切使われていない北海道産材。塗装やベットのマットレスなども含めて、ウレタンなどの化学製品は使用せず、可能な限り土に帰ることができる天然素材を使う。「100年使える」だけではなく、使った後の地球の負荷すら頭に入れて商品を作っている。

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地球環境に負荷をかけないものづくりを徹底する『北の住まい設計社』。

ほかにも、地球に負荷となる輸送のコストにも目を向けて、ノックダウン式(組み立て式)家具の「LIM」というシリーズも展開したりもしている。

「長く使い続ける」という以上に、自分たちが暮らす土地に「負荷をかけ”続けない”」という選択をしている。工房を見せてもらうこともしばしばあるのだけど、本当に手も費用も掛かっている。それでも、ものづくりをするうえで、果たさなければいけない地球に対しての責任を自負していて、それをコンセプトだけではなく、商品にきちんと落とし込んでいる。「何十年」、「何百年」という時間のものさしがなければできないことだ。

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『北の住まい設計社』の工房は、旧・小学校校舎をそのまま活用。

こういう姿を見たり、東川町の家具職人たちと会話をしたからといって、僕自身が「50年先、100年先を見よう」なんてことをすぐには思えないのも事実だ。頭では理解できるけど、「100年」という時間には、正直実感がない。それでも、何十年も先のことを考える人たちに触れ、未来に想いをはせることはできると思えるようにはなった。都市で働いていた1年ほど前までは、どんなに長く見つめても「数年先」だった気がする。

大切なのは、「ものさしが長いこと」ではない。手に持つ「ものさしを持ち替えられること」だ。時間の選択肢をもつこと。今日、明日、1か月、1年、10年、50年。時間のものさしが違えば、物事の捉え方は多様になる。そして、長いものさしで見た視点は、今日・明日の短いものさしでみる視点にも影響する。その振れ幅が、きっと日々を豊かにするのだ。それが、この町に来てから自分が得られた大きな気づきだった。

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森が豊かであり続けるために何が必要なのかを考える。

「エシカル」とか「サステナブル」とか、正直僕にはよくわからない。その言葉たちが僕の身体には馴染まなかったとしても、そうした言葉が指していることの重要性は、東川町の人たちとの対話を重ねる中で感じられるようになったと思う。自分が好きになれたこの土地を、自分がこの世にいなくなった後のことを想像して生きられる人間になれるといい。「実感」するまではもう少しかかりそうだけど、そんなことを考えながら暮らしている。

photographs & text by Daishi Hatada
畠田大詩/1988年京都市まれ。「写真」を軸にした出版・イベント・教室・展示等を運営する会社にて、企画や営業、雑誌・Webメディアの編集・執筆、イベント運営まで多岐に渡り経験。写真を活用した地域活性化プロジェクトの企画運営やディレクションなども担当した後、2020年4月から、地域活性化企業人として北海道東川町役場に勤務。東川スタイル課にて、ブランド推進の企画や情報発信に携わる。https://www.instagram.com/daishi1007/
竹中あゆみ/1986年大阪府生まれ。雑誌『PHaT PHOTO』『Have a nice PHOTO!』の編集・企画を経て、2016年より『ソトコト』編集部に在籍。香川県小豆島の『小豆島カメラ』など、写真で地域を発信するグループの立ち上げに携わる。東京を拠点に取材をとおしてさまざまな地域の今を発信しながら、ライフワークとして香川県小豆島や愛媛県忽那諸島に通い続けている。https://www.instagram.com/aymiz/
中村紀世志/1975年石川県生まれ。機械メーカーの営業として勤務しつつ、フォトグラファーとしての活動を続けたのちに、2014年、結婚を機に福岡へ移り住みカメラマンとして独立。雑誌やWebメディアの取材、企業や地域のブランディングに関わる撮影を行う一方で、大牟田市動物園を勝手に応援するフリーペーパー「KEMONOTE」の制作や、家族写真の撮影イベント「ズンドコ写真館」を手掛けるなど、写真を通して地域に何を残せるかを模索しながら活動中。https://www.kiyoshimachine.com

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