結婚とほぼ同時に移住し、常連先のペンションを第三者承継!relay対談企画の第3弾は「事業承継ストーリー#84」にご登場いただいた、「ペンションおもちゃばこ」の佐藤大祐(だいすけ)さんと妻の紋加(あやか)さん。先代のおもてなしに心惹かれ、経営未経験から事業承継を成し遂げたふたりに、事業を受け継ぐまでのストーリーや今後の目標について伺いました。
勇気を出してオーナーに直談判!今では親戚のような関係
大祐 ありがとうございます。基本的に先代の頃から変えた部分はないんですよ。お客さんで来ていたときから自分でも気に入っていたので。
齋藤 大祐さんがスノボ旅行で訪れるうちに前オーナーと仲良くなって、承継を直談判されたそうですね。
大祐 前オーナーも奥さんとふたりでここを経営していたのですが、いつも楽しそうに仕事をしていて。それまで仕事は辛いことを耐えながらやるものだと思っていたので、こういう働き方もあるんだなと新鮮に感じました。アットホームなおもてなしに惹かれ、自分でもやってみたいと思うようになりました。
齋藤 大祐さんが引き継ぎたいと言った時、前のオーナーさんも初めは冗談かと思ったのだとか!
大祐 はい。本当にやるとは思ってなかったんじゃないでしょうか。近隣のペンションでも今までなかったケースですし、70代とはいえ普通に営業していましたから。ただ、「もう歳だからそろそろやめるかも」とか「やめて旅をしたい」というような話をすることはありました。
齋藤 残りの人生を楽しむためにも、今の事業を誰かに引き継ぎたいといった雰囲気があったんですね。それでも現役でやっている人に、自分に継がせてほしいと願い出るのはなかなか勇気がいることだったんじゃないですか?
大祐 もっと若い方だったら言えなかったかもしれません。もうやめようかなという雰囲気があったから切り出せたのかも。
齋藤 どんな風に話したんですか?
大祐 「後継者はいるんですか?」とか「将来どうするんですか?」みたいに切り出したように記憶しています。前のオーナーさんのお子さんたちとも話しました。「応援するよ」と言ってくださいました。
齋藤 前のオーナーさんは近くにお住まいなんですよね。
大祐 実はお隣さんです(笑)今でも困った時に相談したりしていて、なんだか親戚みたいな関係です。
大祐 いえ、まったく(笑)。どちらかといえば、流されて生きてきたほうです。でも人生を変えたいというか、新しいことをしたいという思いはありました。ちょうど30歳になる時でしたし、ここでやらないともうこの先できないかなと。
齋藤 紋加さんは、大祐さんから宿を引き継ぎたいと聞いた時、率直にどう思いましたか?
紋加 そもそもペンションを経営するという選択肢が自分の中になかったので驚きました。転職とかならまだしも、個人経営やペンション経営というのは想像の範囲外でしたね。
齋藤 きっと想像できる人のほうが少ないですよ(笑)。今回決心できた理由は何でしょう?
紋加 話を聞いているうちに、悩んでる時間がもったいないと思うようになって。宙ぶらりんな状態が一番いやだったんですよね。夫は引き継ぎの1年前にすでに仕事も辞めていて、開業に向けた準備や手伝いをしていました。私も決めないと次に進めないなと。
齋藤 おふたりはもともと新聞社に勤務していたそうですね。地方で新聞社と言えばいい就職先だと思うので、大きな決断だったと思います。以前の暮らしへの未練はありませんでした?
大祐 僕はまったくなかったです。以前働いていた福島市まではペンションから車で3、40分程度と、距離的にも近いんです。ただ、仕事内容は前職とは違いますし、暮らしが変わった実感はあります。自宅が職場なので、普段の暮らしと仕事の線引きがなくなったのは大きな変化ですね。
紋加 両親は最初は反対していました。「そこまでしなくても…」って。何度も説明して、現地に連れてきて前のオーナーにも会ってもらって、ようやく納得してもらいました。今は応援してくれています。
前オーナーのバックアップで手続きもスムーズに
大祐 そうですね。調理器具や内装はもちろん、土地も買い取りました。
齋藤 手続きなどはどうしました?
紋加 地元の行政の方とか商工会議所に相談してアドバイスをもらいながら、実際の手続きは自分たちで行いました。
大祐 何から始めていいかわからなかったので、まずは前のオーナーと一緒に商工会議所に行きました。事業承継をしたいという話をすると、向こうもあまりこういうケースがないとかで探り探りではあったんですけど、手続きの順番を教えてくれてその通りに動いていました。
齋藤 融資を受けたりはしましたか?
紋加 政策金融公庫から借入をしています。ちょうど商工会議所に併設されていたので、同時進行で進めました。
齋藤 公庫は国の機関なので最初に始めるときにはすごくいいですよね。
紋加 前のオーナーが一緒に来てくれて、事業形態や客層なども細かく話してくださったので説得力があったのかなと思います。商工会の会員も長くやっていたので、宿の名前を知ってもらっていたのも大きかったですね。
齋藤 事業承継のメリットは“信用を引き継げること”だと思うんです。ゼロから作るとなったら借入も事業計画を作るのも大変ですが、事業承継だとこれまでの実績を踏襲できますからね。
大祐 そうですね。そのあたりはとても実感しています。
アイデアをかたちにする楽しさ
大祐 生活リズムに余裕ができて好きなことができるようになったことでしょうか。
紋加 「今度こんなメニュー取り入れてみよう」とか、「部屋のレイアウトを変えてみよう」とか、アイデアを実現しやすい環境になったことが楽しいです。
大祐 新聞記者時代は直接読者から感想を聞く機会はありませんでしたが、今は顔の見える関係を作れますからね。そこが面白いところです。
齋藤 逆に予想外だったことはありますか?
大祐 すでに築40年ほど経っている建物ですから、手入れはしていても経年劣化は進むんです。何かが壊れて直すと、別のところが壊れたりはしょっちゅうありますね。そんな時も前のオーナーを呼べば来てれくるので心強いです。専属の大工さんみたい(笑)。
紋加 私は前のオーナーさんの時代から来てくれている常連さんが来た時にちょっと緊張します。でもそういう方からも「やってくれて良かった」と言っていただきますし、新しく始めたサービスも喜んでくださっています。
齋藤 手作りの新聞はとてもクオリティが高いですよね!
大祐 これは特にお客さんが喜んでくれるところですね。写真は私が撮って、文章は妻か私かどどちらかが書ける時に書いています。
紋加 以前の仕事を生かしてやっていることですね。お客さんが記念に持って帰れるものを作りたくて始めました。
地域に新たな人を呼ぶ原動力になるために
紋加 地元のイベントやマルシェに参加したりしています。宿にお客さんとして来てくれた地元の方と知り合うことも増えました。
齋藤 地域との繋がりを作っていくのは大変ですか?
大祐 移住者なのですべてゼロからではありましたが、お店の名前が変わっていないので、店名を言うと「ああ、あそこね」と言ってくれる方もいます。新しく引き継いだというと興味を持ってくれる方もいますね。
齋藤 経営的な上がり下がりはありますか?
大祐 引き継いで1年目だけが通常営業で、次の年は暖冬でスキー場があまり稼働せず、さらに翌年はコロナ禍が始まりました。なかなか思い通りにはできていないのが現状です。
齋藤 耐える時ではありますが、ぜひいろんな施策を打ち出して、「ペンションおもちゃばこ」を生まれ変わらせていってほしいと思います。最後におふたりの目標は何ですか?
大祐 自分たちのような事業承継の事例をこのペンション村内でも増やしていきたいです。うち以外の宿も継ぎ手がいないところが多いので、親族以外が継ぐかたちでもできるよということを発信して、新しい人を呼ぶ原動力になれたらなと思っています。
齋藤 私は家族承継だけではなく、第三者承継が当たり前になる時期は間違いなく来ると思っています。そういう意味でふたりは先駆者。ノウハウを知りたい人はこれから増えるでしょう。どんどん活躍してほしいし、relayとしても支援していきたいと思います。今日はありがとうございました!
聞き手:株式会社ライトライト代表取締役|齋藤隆太
クラウド継業プラットフォーム「relay(リレイ)」