たとえ寝たきりでも、会える、働ける、繋がれる。分身ロボットが叶える「孤独の解消」とは。

たとえ寝たきりでも、会える、働ける、繋がれる。分身ロボットが叶える「孤独の解消」とは。

新型コロナウイルスの影響により、外出自粛を余儀なくされた2020年。自粛制限は徐々に緩和されつつあるが、実家への帰省や病院へのお見舞いを控え、家族や友人と未だ会えずにいる人も多いのではないだろうか。しかし、そこで少し考えたいのが、コロナ禍以前から身体的・精神的事情で、何年も病院や自宅から外出できない人々がいるということだ。コロナウイルスが収束しても外出できない「外出困難者」をサポートする手段は一体ないものか。そこで私は、分身ロボット「OriHime」の存在を思い出した。

外出困難者の孤独を解消する、分身ロボット「OriHime」とは


OriHimeとは、株式会社オリィ研究所で開発された分身ロボットだ。ロボット本体にはカメラ・マイク・スピーカーが搭載されており、操作者(以下パイロット)はインターネットから遠隔で、ロボットの手足を動かしたり自分の言葉を発したりできる。
OriHimeを必要とするのは、入院患者や障害を抱える人、単身赴任者など様々だが、彼らに共通しているのは「行きたいところに行けない」「会いたい人に会えない」という課題を抱えていることだ。OriHimeは、この「行きたいところに行けない」「会いたい人に会えない」を解決するために生み出されたツールである。
現在では、身体的に不自由な人がOriHimeを使って外で仕事をしたり、会社から遠方に住む人がOriHimeでテレワーク会議に参加したり、様々なニーズに合わせて活用されている。


DAWN AVATAR ROBOT CAFE内のパネル
OriHimeを活用したカフェ「DAWN AVATAR ROBOT CAFE」内のパネル。たとえ寝たきりであっても、カフェスタッフとして働ける可能性があることを提示する。

寝たきりでも働ける「DAWN AVATAR ROBOT CAFE」


2019年10月7日から10月23日、東京都大手町の3×3Lab futureで「DAWN AVATAR ROBOT CAFE」が開催された。「あらゆる人たちに、社会参加、仲間たちと働く自由を。」をテーマに掲げるこのイベントでは、障害や病気で外出困難な人達がロボットを活用してカフェの店員として働く。会場には小型の「OriHime」と大型の「OriHime-D」の2種類のロボットがあり、小型ロボットがお客様との接客をメインに担当し、大型ロボットが会場内を動き回りドリンクを運んでいた。
席に通されると、テーブル上に置かれたOriHimeが急に「はじめまして。お飲み物はいかがしますか」と話しかけてきて思わず驚く。オレンジジュースを注文すると、数分後にどこからともなくOriHime-Dがやってきて、器用にドリンクを掴みテーブルの上に置いてくれた。これらの操作もすべて、人間が遠隔で行っているらしい。ロボットがオーダーを受け、また別のロボットがドリンクを運んでくる。その近未来的な光景からは、どこか非現実的な印象を受けた。
私のテーブルを担当した10代の男性OriHimeパイロットは、数年前に交通事故に遭い、現在は首から下が動かず寝たきりだという。私は、「どうしてOriHimeのパイロットに応募したのか」、そして「今実際にカフェの店員として働いてみてどういった気持ちなのか」など話を聞いてみることにした。


分身ロボットOriHime-D
分身ロボット「OriHime-D」がドリンクを運ぶ様子。パイロットは自宅のベッドの上から遠隔でロボットを操作する。

外出困難者の抱える思いとは?

社会に居場所があるということ、誰かに貢献できるということ


なぜロボットカフェのパイロットに応募したのか、男性に理由を聞くと「家族以外の外の世界の人と会話がしたかった。ずっと家で寝たきりのままだと、コミュニケーションをとる人が限られてしまう。社会に取り残されているという孤独がつらかった」そして、「ロボットカフェで働いてみて、いろいろな人と会話ができて楽しい。久しぶりに家族以外の人と話をして緊張したが、ドリンクのオーダーをとったときに「ありがとう」と感謝されるとうれしい気持ちになる」とも話してくれた。
そこではじめて私は、外出困難者が抱える孤独は物理的なものだけではないことを知った。たとえ家族と一緒に住んでいたり、友人が会いに来てくれたりしても、本質的な孤独の解消に繋がるとは限らない。「働いてお金を得ること」や「誰かに感謝されること」を通して、社会に自分の居場所があることが実感できなければ、生きることに前向きになるのは難しいのかもしれない。
また、このロボットカフェで働く別のパイロットが「カフェで働いてみて、生きる実感がもてた」と明るく語っていたのが印象的だった。「生きる」とはただ呼吸をすることではなく、他者との関わりを通して「役に立つ実感を持つ」ことなのかもしれないと感じた。また、このロボットカフェで働いたパイロットのなかには、その後就職活動に成功し、別の職場でロボットを遠隔操作しながら働いている人もいるという。


DAWN AVATAR ROBOT CAFE開幕のお知らせ
DAWN AVATAR ROBOT CAFE開幕のお知らせ。このカフェで働いた後、実際に一般企業で就職したパイロットもいる。

テクノロジーが「障害者」と「健常者」の壁をなくす未来へ


コロナ禍において、テレワーク会議やオンライン授業など社会に参加するためのツールが増えつつある。しかしコロナ禍以前から「テレワークシステムがあれば働けるのに…」や、「オンライン授業があれば学校に出席できるのに…」という外出困難者は多くいたはずだ。そういった人々が社会に参加できる仕組み作りに必要なのが、OriHimeのような新しいテクノロジーなのだろう。
株式会社オリィ研究所の公式サイトには、「「できる」を増やすことによって、人間は未来に対してポジティブになれる。」と書かれている。テクノロジーの発展により、障害や距離の問題を克服し、誰もが自分らしく社会に参加できる日は近いのかもしれない。

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