ソーシャルでエシカルな関心をもつ人を惹きつける、街の中に広がる学びの場「ソーシャル系大学」。今回は「たまには科学を囲んでみよう」というテーマで若い科学者たちが立ち上げた『手作り科学館 Exedra』を取り上げる。科学館を運営する『柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)』では、大勢の子ども向けのサイエンスプログラムも実施している。千葉県柏市で展開される、地域の交流の活性化を目指すサイエンスコミュニケーションの最先端をレポートする。
科学で地域の人々がつながることを教えてくれる、類い稀な事例。
つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅周辺には、東京大学をはじめとする教育・研究機関が集積している。『KSEL』会長の羽村太雅さんがこの街にやってきたのも東京大学大学院で地球惑星科学を研究するためだった。研究のかたわら、柏の葉周辺のまちづくりに携わる人たちと出会い、専門とする科学をまちづくりに活かすことができないかと考えるようになった羽村さんは、アルバイト先だった国立天文台での天体観望会をヒントに、地域の人たちと望遠鏡を覗きながら宇宙や星の話をする楽しさを柏でもと思い立ち、2010年、仲間と『KSEL』を立ち上げた。彼らこそ、日本全国でも極めて珍しい『手作り科学館 Exedra』を創発するクリエーター集団である。
『手作り科学館 Exedra』は、柏駅から徒歩3分。地主の方のご厚意で空きアパートを1棟まるごと借り受けられることとなり、クラウドファンディングなどで資金を集め、DIYで改修行事を行い、2018年、私設科学館としてオープンした。
訪問した土曜日も近くに住む小学生女児2名がやってきて、複雑な立体パズルに取り組んでいた。拾ってきた貝殻を正確にスケッチして図鑑で同定し発表するコーナー、素朴な質問に第一線の研究者たちが全力で回答するコーナー、害獣として捕獲されたハクビシンを解剖したり煮込んだりする一からの標本作りなど、アパートいっぱいにいくつものプロジェクトが進行している。
副館長の宮本千尋さんも、東京大学大学院で地球惑星科学を専攻する大学院生。進学のために引っ越してきた東京で、何かおもしろいサイエンスカフェはないかとグーグルで探してやってきたという。「研究室の外に出て子どもから大人までさまざまな方と科学の話をするのが何より楽しい」と宮本さん。
『KSEL』が主催する理科実験教室「研究者に会いに行こう!」も評判で、学校で配布されたチラシに惹かれて小学生が通ってくる。この日のテーマは素粒子。この日は、素粒子原子核を専攻する研究者・青木優美さんが、素粒子の研究について解説するとともに、「霧箱」という装置を用いて素粒子を可視化する実験をリードした。エタノールを吸わせたスポンジを内側に張り付けると、箱の中にアルコールの蒸気が満たされる。箱の底をドライアイスで冷やし、箱の上に手を当てて根気よく温めると、温度差が発生した箱の中に、にわかに飛行機雲のような素粒子の飛跡が浮かび上がる。「見えた!」とぱっと顔を輝かせる子どもたち。付き添いの大人たちも夢中で覗く。このような理科実験教室をきっかけに、『手作り科学館 Exedra』のファンになり通ってくる大人も数多い。
『KSEL』がリードするサイエンスコミュニケーションは、科学で地域の人々がつながることを教えてくれる、類い稀な事例である。
手作り科学館 Exedra
千葉県柏市末広町9-6 柏嶋屋荘
HP:http://selexedra.stars.ne.jp