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連載 | リトルプレスから始まる旅 | 73 mürren vol.22

岩波少年文庫の思い出。


 今回紹介するリトルプレスは、「街と山のあいだ」をコンセプトに、身近な自然や山をテーマにした『mürren(ミューレン)』。


 第22号の特集は、テーマとする「自然と山」と離れたように見える「岩波少年文庫」。


 表紙は、枯れ草や落ちた枝の上に置かれた『ニールスのふしぎな旅』の上・下巻2冊。裏表紙は、イチョウの落ち葉の上に置かれた『公園のメアリー・ポピンズ』。


 たしかに、手のひらに収まるような小さいサイズ(ほぼ新書サイズ、最新シリーズは少し大きい判型)は、旅や山に持っていくのにちょうどよいかもしれない。


 絵本を卒業して、初めて手にとった本が、岩波少年文庫だった人も多いかもしれない。


なにげなく積まれた 岩波少年文庫が、 物語を運んでくれる。
なにげなく積まれた岩波少年文庫が、物語を運んでくれる。

 僕は何から読み始めたのだろうと考えてみると、宇宙やロボットが大好きな、どこにでもいる男の子だったので、SF風の物語をよく選んだ。その結果、好きな宇宙やロボットの登場することが、物語としておもしろいかどうかとは関係ないことに気がついた。そんな理由で何から読み始めたのか覚えていない。SFが好きで、おもしろい挿絵や大きなハードカバーが好きな小学生は、岩波少年文庫には出合わなかった。


 ただ、当時函入りのハードカバーで、挿絵の多い『ドリトル先生』シリーズは、そんな小学生にはとても楽しい本だった。その『ドリトル先生』は、今では岩波少年文庫で読むことができる。


 今回の『mürren』では、編集人の若菜晃子さんが、岩波少年文庫から10冊を選んで解説しており、ほかにも『ロバの本屋』のいのまたせいこさん、グラフィックデザイナーの中林麻衣子さん、『誠光社』の堀部篤史さん、編集者の井出幸亮さんらが、自分たちの子ども時代の思い出も含めて、お気に入りの岩波少年文庫を紹介している。


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 インタビューでは、作り手でもある中川李枝子さんや石井桃子さん、『岩波書店』の愛宕裕子さんの貴重な話も掲載され、1950年から現在までの装丁の歴史なども併せて紹介されている。


 大人の娯楽として児童文学はあまり認知されていないかもしれない。ただ、『mürren』を読むと、優れた児童文学は、大人にとっても優れた作品であることに気づかされる。


 僕が、エーリヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』と出合ったのは、本屋を始めてから。


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 高等中学(ギムナジウム)を舞台に少年たちを主人公にした物語。教師や親、不思議な人物などとして大人も多く登場する。


 登場する大人は、かつて同じように高等中学を過ごした少年であり、物語には大人だけが受け取ることのできるメッセージも隠されている。


 児童文学『飛ぶ教室』の本当の楽しみ方は、子どもとして初めて接し、節目ごとに読み返すことによって、より深い意味を理解すること。


 今回の『mürren』から気になる一冊を見つけて手にとってほしい。あなたに子どもがいれば、ことあるごとに話題にしたり、読み返して一緒に楽しめる本になる。


 岩波少年文庫は、自然や山と関わるように、本が人生において大切な体験になることを教えてくれる。


『mürren』編集人より一言


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 小誌は「街と山のあいだ」をコンセプトに、身近な山や自然をテーマにした、年2回発行の小冊子です。2007年6月創刊、今号で12年目、22号を迎えました。毎号ひとつのテーマを独自の視点で掘り下げ、誌面を展開しています。今後も細く長く、よりよいものを作り続けたいと思っています。


今月のおすすめリトルプレス


mürren vol.22


『mürren vol.22』 


 「街と山のあいだ」をコンセプトに、身近な自然や山をテーマにした小冊子。


写真:新居明子 デザイン:矢部綾子
編集:若菜晃子
2018年1月発行、180×128ミリ(64ページ)、540円(税込み)