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サスティナビリティ

特集 | 人が集まるプレイスメイキング術

用がなくても、日常的に 「そこに行こう」と思える場所を ──『広場ニスト』・山下裕子さん。

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コロナ禍を経て、改めて人の集まる場所として注目を集める「広場」という存在。今回は、『全国まちなか広場研究会』の理事であり、「広場ニスト」の肩書を持つ山下裕子さんに、これからの広場のつくり方などについて伺いました。

広場の活用はこれまでも各地で行われてきた。その代表的な事例の一つが、山下さんが運営を担当していた富山県富山市にある『グランドプラザ』だろう。山下さんは広場運営の経験を『にぎわいの場 富山グランドプラザ─稼働率100%の公共空間のつくり方』(学芸出版社刊)にもまとめている。そんな山下さんに、改めて聞いた。
目次

広場をはじめとした、 公共空間の存在意義。

「コロナ禍を言い訳にして、簡単に閉じてしまった場所って、結構多いですよね?でも、大都市ほど広場は必要だと思いますし、家の中にいることがハッピーな人は問題ないのですが、全員がそうではない状況で、居場所がなくなったときに出かけていける場所として広場や公園があると思うのです。だからこそ、広場をはじめとしたパブリックスペースの活用については、その活用を考える人たちに意志を強く持って取り組んでほしい。そして場を必要とする近所に住む人や働く人たちがそこに足を運びたいと思うプログラムづくりをも、広場の運営者側のミッションにすべきなのではないかと、感じています」

山下さんは続けて、広場とは、「たまたま、ばったり会った人同士のチューニングの場」であり、それが今、社会において求められるとも話してくれた。「日常のリズムが重なる人同士が、たまたま顔を合わせ、名前も所属も知らないけれど、会えばおしゃべりする、みたいな。別に話したいと思わなかったら距離をとって話さなくてもいい。ただおもしろいのは、話はしないけど、『ああ、あの人、今日も来ているんだな』と、認知をし合っている点。人間は社会的動物です。今、お互いをお互いで”なんとなく“気にかけ合うコミュニケーションが不足している現実の中で、眺め合うだけでも十分コミュニケーションになりうる、広場での関係性の大事さを改めて感じています」。

「何か」を定期的に 開催することが重要。

広場には具体的な機能はない。ゆえに、求められるのは運営であったり、関係性のつくり方だったりする。

「ただ、広場を運営しているみなさんはよくわかっていて、コロナ禍以降、溝さらいの掃除などを始める方々が、以前よりも増えてきている印象です。日程調整をせず、ただ集まることの大切さ。『毎月第一日曜日にあそこに行けば誰かいる』ということが自分の日常にあると、すごく助かるんじゃないかって。『グランドプラザ』で始めた『カジュアルワイン会』はそれを立証したもの。とにかく毎月やっていました。人も少ない2月だけ参加するような人もいて、寒いから”おしくらまんじゅう“をしながら飲んだり(笑)。とにかく定例開催にすること、集まって掃除すること、飲むことも含めて、内容はなんでもいい。ただ時間を共有することだけが大事なのではないかと思っています」。

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富山市の『グランドプラザ』で2010年から毎月第2木曜日に開催されているカジュアルワイン会は、今も継続中。

多様性のある広場を つくるために。

山下さんは、建築家であるルイス・カーンの一説「都市とは、少年がその街路を歩くだけで、大人になった時に何になりたいかを感じ取ることができる場所でなければならない」が好きだと話す。それは社会における多様性とも言い換えられると、山下さんは言う。「自分の周りに多様な生き方の人がいるというのは、セーフティネットになり得ますよね。それを広場の中でいかに感じられるようにするか。広場はある意味で社会の縮図。誰にとってもアクセスしやすい街中の広場をそういったさまにすることは、機能として必要条件にすべきだと感じています」。

多様性のある広場をつくるうえで大事なことを山下さんに伺ってみた。「まずは最低限のサイズ。コミュニケーションの有無にかかわらず、同じ空間に他者といられる空間のサイズは必要です。あとは『開く』こと。人間って閉じがちじゃないですか。なので、意思を持って閉じないようにする。イベントでも、同じメンバーがいるだけの状態になったら、次の手を打たないといけない。それはどの街でも同じ。道具の工夫としては、テーブルや椅子のレイアウトを変えるだけでも空気が変わりますし、『どなたでもどうぞ』とメッセージがあるだけでも違うかもしれません。『グランドプラザ』では張り紙を禁じ、『禁止することを禁止する』ことは徹底していました」。

場づくりをしていく側の所作や姿勢についても、山下さんは言及する。「街の真ん中の広場に関わる人(広場をつくる人、広場を運営する人、イベントなどを催し物を開く人)は、当たり前ですが、常に周囲から見られています。私自身『グランドプラザ』を卒業するとき、街のみなさまから、『山下さんたちスタッフが頑張っている背中を見て、僕たちはここの運営を任せようって思えたし、安心できた』という言葉をいただき、とてもうれしかったことを覚えています。でも、当然ですよね。具体的な使い方が決まっていない、約1400平方メートルの空間が街の真ん中にできたことに対して、周囲にいる人は『どうなるんだろう』って、ドキドキしていたんです。そして見てくださっているということは、逆に言葉で伝えなくとも、自分たちの行動を介して相手に伝えられるということです。それを広場に関わる人にはいつもお伝えしていますね」。

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皆生温泉では3軒の旅館やホテルが自身所有の敷地を広場として開放。毎月第一水曜日、「水一広場」と称し、輪番制で交流会を開催している。
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「水一広場」が行われる場所の一つ、『皆生シーサイドホテル』につくられた空間。植栽空間に、取り外し可能なテラスを設えている。
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『皆生シーサイドホテル』の港英明さん。
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皆生温泉で行っている屋台レンタルを使って「水一広場」でバーを開いていた前島秀さんとそのご家族。以前は参加者として「水一広場」に顔を出していたが、いつしか運営側に。
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山下さんが立ち上げに関わった熊本城下『花畑広場』での場づくり「広間る」は毎月第2水曜日に実施中。
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取材の日、「水一広場」から見えた美しい夕日。この夕日を見ることが、「水一広場」に集う理由にもなっている。
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やました・ゆうこ●1974年生まれ。2007年より『グランドプラザ』運営事務所勤務。2009年、『一般財団法人地域活性化センター』第21期全国地域リーダー養成塾修了。2010年より『株式会社まちづくりとやま』で、富山県富山市にある『グランドプラザ』担当。2014年からは「広場ニスト」として個人活動を開始。その後、日本各地の地域の「まちなか広場づくり」に地域の伴走者的な立ち位置で活動を続ける。『全国まちなか広場研究会』理事、NPO法人『GPネットワーク』理事。
photographs & text by Yuki Inui

記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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