コロナ禍を経て、改めて人の集まる場所として注目を集める「広場」という存在。今回は、『全国まちなか広場研究会』の理事であり、「広場ニスト」の肩書を持つ山下裕子さんに、これからの広場のつくり方などについて伺いました。
広場をはじめとした、 公共空間の存在意義。
山下さんは続けて、広場とは、「たまたま、ばったり会った人同士のチューニングの場」であり、それが今、社会において求められるとも話してくれた。「日常のリズムが重なる人同士が、たまたま顔を合わせ、名前も所属も知らないけれど、会えばおしゃべりする、みたいな。別に話したいと思わなかったら距離をとって話さなくてもいい。ただおもしろいのは、話はしないけど、『ああ、あの人、今日も来ているんだな』と、認知をし合っている点。人間は社会的動物です。今、お互いをお互いで”なんとなく“気にかけ合うコミュニケーションが不足している現実の中で、眺め合うだけでも十分コミュニケーションになりうる、広場での関係性の大事さを改めて感じています」。
「何か」を定期的に 開催することが重要。
「ただ、広場を運営しているみなさんはよくわかっていて、コロナ禍以降、溝さらいの掃除などを始める方々が、以前よりも増えてきている印象です。日程調整をせず、ただ集まることの大切さ。『毎月第一日曜日にあそこに行けば誰かいる』ということが自分の日常にあると、すごく助かるんじゃないかって。『グランドプラザ』で始めた『カジュアルワイン会』はそれを立証したもの。とにかく毎月やっていました。人も少ない2月だけ参加するような人もいて、寒いから”おしくらまんじゅう“をしながら飲んだり(笑)。とにかく定例開催にすること、集まって掃除すること、飲むことも含めて、内容はなんでもいい。ただ時間を共有することだけが大事なのではないかと思っています」。
多様性のある広場を つくるために。
多様性のある広場をつくるうえで大事なことを山下さんに伺ってみた。「まずは最低限のサイズ。コミュニケーションの有無にかかわらず、同じ空間に他者といられる空間のサイズは必要です。あとは『開く』こと。人間って閉じがちじゃないですか。なので、意思を持って閉じないようにする。イベントでも、同じメンバーがいるだけの状態になったら、次の手を打たないといけない。それはどの街でも同じ。道具の工夫としては、テーブルや椅子のレイアウトを変えるだけでも空気が変わりますし、『どなたでもどうぞ』とメッセージがあるだけでも違うかもしれません。『グランドプラザ』では張り紙を禁じ、『禁止することを禁止する』ことは徹底していました」。
場づくりをしていく側の所作や姿勢についても、山下さんは言及する。「街の真ん中の広場に関わる人(広場をつくる人、広場を運営する人、イベントなどを催し物を開く人)は、当たり前ですが、常に周囲から見られています。私自身『グランドプラザ』を卒業するとき、街のみなさまから、『山下さんたちスタッフが頑張っている背中を見て、僕たちはここの運営を任せようって思えたし、安心できた』という言葉をいただき、とてもうれしかったことを覚えています。でも、当然ですよね。具体的な使い方が決まっていない、約1400平方メートルの空間が街の真ん中にできたことに対して、周囲にいる人は『どうなるんだろう』って、ドキドキしていたんです。そして見てくださっているということは、逆に言葉で伝えなくとも、自分たちの行動を介して相手に伝えられるということです。それを広場に関わる人にはいつもお伝えしていますね」。
記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。