家事においては”厄介者”とされることが多い生ごみ。最近は家での食事回数も増え、さらには夏の到来により、生ごみ処理に苦戦している方も増えているのではないだろうか。でもその”厄介者”が、実は安全でおいしい野菜が食べられる社会における”重要なキーマン”だったとしたら?都会でも、マンション住まいでも、誰でもオシャレで手軽に始められるコンポスト事業を通じて、新しい循環をつくり出そうとしている企業の取り組みを紹介する。
日本の大切な知恵、「コンポスト」とは?
そもそも「コンポスト」という言葉をご存知だろうか?今回取材したローカルフードサイクリング株式会社では、コンポストを下記のように紹介している。
コンポストとは「堆肥(compost)」や「堆肥をつくる容器(composter)」のことです。家庭からでる生ごみや落ち葉、下水汚泥などの有機物を、微生物の働きを活用して発酵・分解させ、昔から伝承されてきた日本の大切な知恵のひとつです。
(LFCコンポストHPより)
コンポストという言葉は聞き慣れなくても、畑や庭の片隅に置いてある”緑色の大きなバケツのようなもの”なら見たことがある人もいるかもしれない。実はそれこそがコンポストで、前述のような「設置型コンポスト」やダンボール箱を使った「ダンボールコンポスト」など、さまざまな種類がある。
どのコンポストも見た目は違っても、役割は同じだ。コンポスターと呼ばれる容器に生ごみを投入すると時間の経過とともに分解され、堆肥化する。そして堆肥化された土は家庭菜園でも活用できるし、捨てるにしても生ごみはすでに分解・減量化されているので、ごみ処理にかかる費用はかなり節約できる。まさにコンポストは、日本の大切な知恵なのである。
大切な家族への想いから生まれたコンポスト事業
今回お話を伺ったローカルフードサイクリング株式会社・たいら由以子代表は、20年以上にわたってコンポストの研究と普及に力を注いでこられたが、そのきっかけは大切な家族への想いからだった。
たいら氏 「父が病気になった時、現代医療に納得できないことが続いたことから、残りの2ヶ月間は食養生に切り替えようと決断しました。でもこの頃は有機野菜が最も手に入りづらい時代で、なんとか手に入ったとしても値段が高い割に新鮮さが失われているものばかり。それでも食べさせないと父は死んでしまうという焦りと、世の中どうなっているんだという思いを当時は抱えていました。しかしその後、食事を変えたことでどんどん元気になる父を見て、驚きと同時に自分の子どもに対する不安も同じぐらい大きくなり、それが今の活動の原点となりました。」
社会に対する怒りを感じながらも、「安全な野菜が手に入りづらい社会になったのは、それを手に取ってこなかった自分が結局は悪い」という考えに行き着いたという、たいら氏。そこで私たちの暮らしを支える資源や環境問題から見直し、根本的な解決を目指したいと考えた。そしてある時”堆肥づくり名人”のお母様が昔からやっていたコンポストにヒントを得て、NPO法人を立ち上げたのが今の活動に繋がっているという。
最大の目的は、新しい感覚や体験を広げること
そして2020年1月には「食循環の実感と価値を届け継続を支援する」という想いのもと、20年以上の研究成果を最大限に活かして開発された[LFCコンポストセット]を販売開始。
オシャレな専用バックは虫の侵入を防ぐファスナー付きで、ペットボトルや廃プラスチックからできたリサイクル素材でつくられている。その中に水分調整が可能な専用の紙袋と、生ごみの分解を早め、悪臭の発生を防ぐために独自配合された専用の基材(土)をセットすれば、簡単かつオシャレにコンポスト生活が始められる。見た目も機能も考え抜かれたこの商品は、販売開始から予想を超える数の注文が入り、SNSでも広がりを見せている。
しかし会社の最大の目的は、商品を販売することではなく「体験を広げること」なのだという。
たいら氏 「とにかくまずは、土を改善することと私たちの日々の暮らしを繋げることが大事だと思っています。だから最初はLFCコンポストセットを使うことで『意外と簡単』『生ごみが減った』という新しい感覚を体験してほしい。そしてできた堆肥を通して農業や家庭菜園に興味を持つ人が増え、その中から『どうせなら無農薬野菜がいい』という人が出てくる。そんな風に無農薬野菜に対する関心が広まることで地域の農家も活性化し、地産地消が増え、結果として土もどんどん改善されていく。こういったサイクルを半径2km圏内の小さな循環、つまり物事を自分ゴトで捉えることができる範囲で循環させることから始めたいと思っています。」
その体験を広げるために、人材育成にも力を入れ、LINEを使ったサポート体制も整えた。また1~3ヶ月間で栄養価の高い堆肥づくりができる[LFCコンポストセット]だけでなく、初心者でもたった3週間でコンポストが体験できる[LFCガーデニングセット]も用意。こちらの商品は堆肥づくり体験とともに、同封された季節の種と専用バック(折り返すとプランターに早変わりする)を使えば、そのまま家庭菜園も始められるという体験キットだ。
スコップもなかったコンポスト初心者の体験記
今回私は、生ごみが分解されて堆肥化する過程を体験してみたかったので[LFCコンポストセット]を注文した。ここから1~3ヶ月間、じっくり土と向き合っていく予定だ。
とは言え、難しいことはほとんどなかった。届いた箱の中に入っていた基材(専用の土)、専用の紙袋、そしてフェルトバック(ファスナー付き)の3点を取り出し、説明書の通りにセットすれば準備は完了だ。
ちなみに我が家は全くのコンポスト初心者で家にスコップすらなかったので、コンポストを置く台座とともに100円ショップで調達した。しかしそれ以外は生ごみを毎晩まとめて投入し、土をかぶせ、虫が入らないように専用バックのファスナーを閉めたら終わり。とても簡単だ。
始めて1ヶ月が経とうとしているが、投入する生ごみのサイズが大きすぎたのか、分解している様子はまだはっきりとはわからない。しかし「これもコンポストに入れられる!」というワクワク感と、生ごみを投入したコンポストをかき混ぜる楽しさはすでに実感しているし、何より圧倒的に減った生ごみの量は家族でも気付くほどの変化だった。
これからコンポストがどのように変化するのかも待ち遠しいし、できた堆肥でベランダ菜園を始め、何を育てようかとリサーチしながら待つ時間も楽しみの一つになっている。”厄介者”だった生ごみが楽しみに変わるなんて、本当に驚きだ。
ちなみに今後発生するかもしれない虫についても、不安はない。何かあればLINEサポートで聞けばいいだろうという安心感はもちろん。お話を伺った代表のたいら氏が「アブくん」「ショウジョウくん」のように虫に名前をつけて呼んでいた姿を拝見し、余計に安心した。これまでの研究の中で虫がどんな役割をしているのか、その特性を知っている方がサポートしてくれている安心感がある。私自身はあまり虫は得意ではないが、そんな私も虫を名前で呼ぶ日が来るのか、それもまた楽しみにしている。
LFCコンポストが目指す、循環する未来
仕組み、人材育成、徹底的な研究の上で開発されたLFCコンポスト。すでに完成されているように見える取り組みだが、今後の展望についても聞いてみた。
たいら氏 「今後は堆肥の回収システムを作っていくので、一緒にLFCコンポストの仕組みを作りたい人を募集しています。特にマルシェを主催している方。マルシェは誰でも参加できるイベントだし、野菜も販売しています。そういう場で『コンポストで堆肥はつくったけど回収してほしい』という人から堆肥を回収すれば、その堆肥を農家さんに渡すこともできるし、その農家さんがつくった野菜をマルシェで販売する日も来るかもしれない。楽しく循環する様子が目に見えるのが、マルシェだなって思うんです。そんな風に楽しく循環が広がればいいなと思っています。」
楽しく、オシャレに、簡単に。難しい社会問題としてではなく、現代社会や人々の暮らしにも適応した形で循環を生み出そうとしているLFCコンポストを通じて、自分も循環の一部になってみようと思う人が増えることを私も心から願っている。
▼取材協力
LFCコンポスト株式会社