「実践人口」を増やすための合言葉が「やってこ!」である。「やってこ!」が世代を超えたつながりを生み、ローカルをおもしろくする。新しい働き方も失敗から次の「やってこ!」の学びを得る。
僕が経営をしている株式会社『Huuuu』は、ライター、編集者のフリーランスを集めた「ギルド形式」の編集プロダクションです。東京、長野、京都でそれぞれチームをつくり、合計約15名が所属しています。
オンライン上でのやりとりをベースに「ジモコロ」「BAMP」「Gyoppy!」といったWEBメディアを運営。どの媒体も全国47都道府県を対象としているため、まさに実践的な発想で企画・取材・記事執筆・撮影までこなす必要がある生業です。正直、しんどい(笑)。
なぜ、ギルドの形式のチームづくりをしているのか。
大前提として、僕自身が会社をつくろうと思ったときに「都内で通勤したくない」という強い思いがありました。ギュウギュウ詰めの満員電車。各路線接続しすぎ問題による遅延の連続。人々はストレスの逃げ口としてスマートフォンの画面を凝視するプチ電脳世界に辟易していたのです。その時間を睡眠に充てられたら幸せじゃないですか? 寝不足は現代の敵!
そこで考えました。社員を雇うとオフィスが必要になる。とりあえずは一人でやりきろう。とはいえ、仲間は必要だ……。元々、ヒップホップカルチャーが大好きだったこともあり、適度な距離感で仕事を遂行できる仲間を募ることにしました。
僕が“昭和気質”の「親方」に憧れていることもあり、飲み会を企画して全員に奢ったり、細かいお金はできるだけ出してあげたり、おもしろい大人たちとの出会いを積極的にまわしたりなど、偶然と必然の中間みたいな価値をこつこつ溜めているところです。
試行錯誤の連続に身を委ねる。
一方で、正社員の雇用形態の利点を感じることも少なくありません。ひとつひとつの作業に対して費用を設定するコミュニケーションコストが発生するため、「毎月の給料でまるっと仕事をお願いするほうが何かと捗るのでは……」と悩む瞬間も正直あります。対面コミュニケーションの価値は大きいとわかりつつも、僕自身が二拠点生活+全国取材で移動し続けているせいで会う機会も少ない。その分を挽回すべく、旅行企画を立てたり、たまにコアメンバーで集まれる環境を用意したり、試行錯誤の連続です。このやり方が正解とはとても思えません。
ただ、やるしかない。従来のよくできた仕組みはいつでも導入できます。自分自身が気持ちよく、仲間たちもその感覚を共有し、共に新しい働き方を模索する。うまくいくかどうかわからない、「思い悩み揺れるコミュニケーション」を楽しむほうが人間的ではないでしょうか。なぜなら、人間は四季に応じた予測不可能な自然の前で思い悩み、そして揺れてきた。乗り越えるための工夫が知恵となり、その知恵を積み重ねた共有知識が現代社会を支えていると僕は思っています。
社会変化の激しい時代だからこそ、主体的に思い悩んで、心を揺らしていきたい。
「人は『変わらない』ことを大事にしすぎているんじゃないでしょうか。何かを経験すれば『人生とはこういうものだ』と確信を持とうとする。揺らがない、ブレない。でも、それがアカンのです。頑丈そうに見えて“免震構造”がない。現実は、つねに新しい局面を迎えていきます。『いま』を見て、感じて、合わせていく。そのためにはいったん揺らがないといけません。『揺らいでいい』という自覚を持つことが『無常という力』です」。
この言葉は臨済宗の僧侶・玄侑宗久さんの言葉です。とある取材記事で目にしたこの言葉が今も心に焼きついています。仮説を立てて取材する。これが編集者の仕事だとしたら、仮説を立てて新しい働き方にチャレンジすることも、誰もやっていないコンセプトのお店を運営することも、すべてつながっているのではないでしょうか。うまくいっても、失敗しても、心は揺れます。人生の節目にある大きな揺れを受け止めるためにも、日常すべてに「実践」の2文字を抱えて生きていく。ギルド形式のチームづくりも3年目。まだまだやっていくぞ!