だってアガるじゃん?

連載 | やってこ!実践人口論 | 9 だってアガるじゃん?

「実践人口」を増やすための合言葉が「やってこ!」である。「やってこ!」が世代を超えたつながりを生み、ローカルをおもしろくする。「やってこ!」は本人と周りの人をアゲる。

 最も身近な場所に超がつくほどの実践主義者がいることに気づいた。隣のページで『発酵文化人類学』を連載している発酵デザイナー・小倉ヒラクくんだ。彼と最初に出会ったのは、とある東京のよくわからず参加したイベントだった。そこから2年。ソーシャルメディア「greenz.jp」のイベントで再会し、そこで唐突に「柿次郎さん、一緒に旅しない?」と誘われたことを覚えている。


 え、いきなり旅の誘い? しかも、男二人の旅行? 少し戸惑ったものの、「この誘いは乗っかったほうが絶対おもしろいことになる」と思い至り、一切予定を教えてくれない山梨・長野ミステリーツアーが実施された。彼が運転する車でワイン農家を訪ねたり、八ヶ岳麓のホテルでYoutubeを聴きながら飲んだり、長野の渋温泉でカオスなタイ料理屋を巡ったりなど、行き当たりばったりなとても楽しい時間を過ごした。ここから彼との、年に数回全国各地で遊ぶ友人関係が始まったと言える。


 旅をして人と出会い、その土地のお酒や料理を楽しみながら対話し、そこで出会ったつながりや体験を次の仕事につなげる。前述のタイ料理屋は僕が編集長を務めるWEBメディア「ジモコロ」で記事にもしていて、長野県民に好評だ。文字にするとシンプルだが、僕自身も、そしてヒラクくんも、この繰り返しによって「実践の方向性」を探っている。


 ローカルで出会うべくして出会う人たちは、土地や時間軸をある種飛び越えた関係性を築いていける。こと発酵デザイナーを名乗る彼の役割ならなおさらだろう。「発酵の領域をデザインする人」という漠然としたイメージから、本誌連載の発展形と言える書籍『発酵文化人類学』のロングセラー(3万部突破!)を経て、彼の超実践的な姿勢は友人として目を見張るものがある。何がそこまで駆り立てるのだろう? そこには小倉ヒラクの本懐ともいえる「だってアガるじゃん?」の精神がある。


アンニュイな表情のヒラクくんは、心の奥底にギャルを飼っている。口癖の「だってアガるじゃん?」はその影響か……?
アンニュイな表情のヒラクくんは、心の奥底にギャルを飼っている。口癖の「だってアガるじゃん?」はその影響か……?

ヒラクは道を切り拓く。


 名は体を表す。ヒラク=拓の名前を与えられた彼の生き方は、自らの人生を切り拓くだけでなく、仲間や知人の人生をも切り拓いてしまう。よい意味で軽薄に、いともたやすく、活動名を考えて与える。山梨に移り住んだ新進気鋭の熱燗師「熱燗DJつけたろう」も彼が命名したそうだ。キャッチーでユニーク。名前が与える影響力はすさまじい。名づけた直後に話を聞いていたが、今では超売れっ子だ。そして忙しいにもかかわらず、ほかにも、悩める女子たちの恋愛相談にしょっちゅう乗っているし、孤独に陥りがちな経営者の行く末にも啓示を与えてくれる。


日本全国47都道府県の「発酵」を再定義する。


 彼のネクストステップとして現在チャレンジしているのが、日本全国47都道府県ツアーを再び敢行し、それぞれの土地に眠っている土着的な「発酵文化」を掘り下げることだ。その成果を渋谷ヒカリエの『d47』で展示。しかも、旅のルポ本的な新著『日本発酵紀行』を書き上げて、英語対応の音声ガイドも用意するって言うじゃないか。というかこのコラムが公開される5月上旬にはすべてが完成し、その展示は世の中にお披露目されているタイミング! 心身ともにボロボロになった一昨年の全国出版ツアーに続いて、また全国行脚を自ら企画するなんて……正直、気がおかしいよ! 死んじゃうよ、ヒラクくん!?


 でも、彼はやる。すでにやり終わっている。有言実行の男だ。もちろん表には出さない苦悩もあるだろうが、実践のフィールドを自ら拡張し、手が届くかどうかわからないギリギリの難易度を攻め続けている。その繰り返しによって、頼もしい仲間も年々増えていくのだろう。今回のプロジェクトをチームとして支えている人たちは、全員一流の実践主義者ばかりだ。仕事の負荷をアゲてアゲて、自らの宣言どおりに目標を達成する。その結果が「だって、アガるじゃん?」に行き着くのだろう。


 隣の誌面から応援のエールを送らずとも、勝手にやっているだろうが、イチ友人として「今後も共にやってこ!」と伝えたいと思う。きっとそのほうがアガるから。

編集部ピックアップEDITER’S PICK UP