企業誘致を圧倒的なもてなしで支えていく。
IT企業のサテライトオフィス誘致に次々と成功、雇用も生み出し続けている日南市。その成功を対応のスピードと誘致後のフォローで支える公務員を紹介します!
今回紹介させていただく公務員は、宮崎県日南市の商工・マーケティング課で働く、田中靖彦さん。日南市は、地方創生の取り組みで、全国的にも非常に注目を集めている自治体です。2016年4月から約2年半で、14 社のIT企業が進出してきたことに加えて、商店街再生の先進事例として全国的に有名な油津商店街もあり、年間で約300件の視察があるほど。﨑田恭平市長や、民間から抜擢したマーケティング専門官などの活躍はさまざまなメディアで取り上げられていますが、現場で活躍する公務員の存在は、あまり知られていません。日南市に進出した企業の方々が口をそろえて言うのは、「田中さんがいたから進出を決めた」ということ。ここまで頼られているのはなぜか。華々しく報道される裏側で、田中さんを中心とした日南市役所の職員が、どう動いているのか。その姿を通じて、地方創生を進めていくうえで何が重要か、そして、地元の公務員こそが持つ強みについて、紹介できればと思います。
圧倒的なスピードを生む、日南市の現場の対応力。
日南市は人口約5万2000人の町で、近海カツオ一本釣り漁獲量日本一を誇る漁業や、鵜戸神宮や飫肥城下町などの観光産業で栄えていました。しかし、全国の地方自治体と同様、年々人口が減少していて、市外への流出が顕著に。特に20代を中心とする若い世代の流出に歯止めが利かない状況になっていました。
この対策として、それまで公務員だけで考え、実施してきたやり方に加えて、民間人材を登用し、行政にマーケティング戦略を取り入れるなど、双方の強みを生かした事業展開を図ってきました。2015年からは、事務職の求人不足解消のため、それまで日南市になかったIT企業の誘致を始めることに。すぐに東京で誘致活動を始めましたが、ライバル自治体も多い状況。東京から遠く離れた九州南部の知名度もない小さな町を候補に入れてもらうには、行政側の本気度に加えて、ほかにはない強みを伝える必要がありました。そこで、日南市が最大の強みとすることにしたのが、「スピード感」。そして、そこで大活躍したのが、商工・マーケティング課に所属していた田中さんでした。
行政は通常、物事を決める際にさまざまな手続きが必要なため、決定するまでに時間がかかりがちです。企業誘致においては、そこを迅速に進めることが大事ですが、IT企業に対してはより速いスピードが求められます。日南市は、IT企業が求めるものは、選択肢の多さより、選択する速さであることを実感。SNSなどのメッセージグループを駆使し、情報共有をより迅速化することで、これまでにないスピードで対応しました。田中さんは、地元の日南市役所に勤務して23年目。実際にどう動けば行政や地域が動くか理解しているのは、まさに地元で生まれ育った公務員、つまり田中さんの役割、そして強みでした。田中さんは、民間から来た人たちの動きや取り組みを予想し、事前に関係する部署などへ情報の共有や根回しをしておき、理解を得ておくことで、スピードある対応を実現していたのです。
また、ベンチャー企業の人たちは、夜遅くに相談のメッセージを送ってくることも多かったと言います。SNSでつながり、24時間、気づいた時にすぐ対応。そうした徹底したもてなしが、行政・公務員の一般的なイメージとはかけ離れていて、多くのベンチャー企業の心を動かしていきました。
企業を誘致した、その後の対応が鍵。就職した若者へのフォローも。
そんな取り組みが奏功して、人口5万人余りの日南市では、IT企業だけで、5年間で300名以上の雇用が生まれる見通しです。現在すでに100名ほどが実際に雇用され、市内で新しい働き方をしている人が増えています。しかし、誘致した企業が定着し、雇用を増やしてもらうことが、誘致よりも困難かつ重要なこと。そのためには、企業全体へのフォローが大事になります。企業へのフォローに関しては、採用支援の情報共有や他産業とのマッチングなどを、スピード感を持ったまま行っていると言います。これが、誘致企業から引き続き信頼される要因になっています。
さらに田中さんは、採用された社員のフォローまでも行います。IT企業に採用された人たちは、地元の企業から転職したり、新たに就職したり、市外から移住してきたりとさまざまで、悩みの種類もそれぞれ。本社からは目の届きにくい、社員の仕事の悩みと暮らしぶりの悩みの相談にも乗っています。このような、いわば"ライフ・メンター"もすることで、個人の悩みを解消しています。そんな動きが、企業にとっても地元の人材を採用しやすくなっている要因と言えそうです。
また、地元の人材を見つけるうえでも、田中さんは活躍しています。地元の公務員は、昔からいろんな地元の人とのつながりがあるため、地下にもぐっている人材まで探索しやすいのです。また、IT企業での就職はあまり事例がなかったので、不安に思う住民も多い一方で、採用説明会に行政が来ていれば、それだけで安心できます。息子や孫が東京で働いており、帰ってきてほしいと思っている両親や祖父母のもとに情報を伝え、息子・孫に直接コンタクトしてもらったりもしています。それは、まさに"地域の人の相関図"を知り尽くした地元生まれの公務員でなければ成しえないことです。
田中さんのように、地元公務員の強みを知り、動く人が増えていけば、もっと世の中はよくなる。そうした可能性を強く感じた取材でした。ぜひ、そんな公務員たちにエールを!
首長は見た
スピード感と、新しいことに挑む精神、そしてプライドを持ち続ける職員に!
日南市 﨑田恭平市長
田中さんをはじめ、商工・マーケティング課の職員の方々は、市の総合戦略の最も重要な課題である、働く場の創出を担ってもらっています。その中でも、若者に吸収力の高いIT企業を誘致できたことは、職員のがんばりと危機感の共有ができていたためだと思います。現在は、企業を誘致することに加えて、元々の地場企業の支援にも力を入れており、すべての産業の活性化に取り組んでいただいています。 これからも、スピード感ある動きと、新しいことに挑戦する精神、そしてプライドを持ち続ける職員が増えていくよう、意識の共有を図っていきたいと思います。