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「KAMIKURU」─ 紙の循環から始める共創プロジェクト。

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環境意識の高い福岡県北九州市で行われている、資源循環プロジェクト。回収した古紙を新たな紙にして再び使用するという取り組みに、地域の企業・学校・団体が参画している。

目次

再生紙を生むサイクルを 小さくして、地域を巻き込む。

福岡県北九州市は、先取的なエリアだ。日本の産業近代化に大きく貢献した『旧・八幡製鐵所』が1901年に操業開始し、1960年代の産業隆興に伴って生じた公害問題に対して市民が立ち上がり、行政と企業がいち早く環境改善に取り組んできた歴史がある。その環境への思いや行動は現代にも受け継がれ、OECD(経済協力開発機構)の「SDGs推進モデル都市」にアジアで唯一選ばれている。

そんな北九州市で2020年10月より『エプソン』が取り組み始めたのが、「KAMIKURU」の愛称で親しまれている『紙の循環から始める地域共創プロジェクト』。地域の自治体・企業・学校で使用済みの古紙を回収して、新たな紙に再生して再び使用する取り組みだ。紙の再生に際して、同地区の『九州ヒューマンメディア創造センター』1階に置かれた乾式オフィス製紙機「PaperLab」が活躍している。

これは、『エプソン』が開発した古紙から新たな紙を再生する機器で、紙に衝撃を与えて線維化し、結合して成形するドライファイバーテクノロジーを搭載している。機器内の湿度を保つために少量の水を使用するが、それ以外の水は不必要。使用済みの紙を投入してから新たな紙ができるまでにかかる時間は、わずか約3分で、1時間で約720枚(*)の紙を生み出すことができる。

*90g/㎡ A4サイズの場合。

「『エプソン』はプリンターを届ける企業として環境に対してどう社会的責任を持つか、紙を限りある資源としてどう扱うかを考えて、水を極力使わない乾式技術での再生紙化に取り組みました」と『エプソン販売』の徳永裕美さんは説明する。デジタル化が進み、タブレット端末などの普及を背景にペーパーレスが加速する今、それでもやはり紙が必要になる場面は出てくる。『PaperLab』は、オフィスなどに置いて企業内で製紙を行うことができ、必要な時に必要な量だけ再生して使う。これにより新たな紙の購入を減らし、再生紙を作って再び使うという資源を循環させる取り組みに誰もが参加できる、そんな社会を可能にしているのだ。

この「KAMIKURU」の活動では、北九州市役所をはじめ同地域の企業や学校から発生した古紙の回収と製紙、アップサイクル品の製作を障害福祉サービス事業所を運営する『わくわーく』が担い、製紙を依頼する企業や学校も少しずつ増えてきている状況にある。「これまでに26の企業・団体の参画があり、それぞれの特長や状況に合わせて参画いただき『KAMIKURu』は成り立っています。多様な関わり方がある、地域に根ざした取り組みになると思います」と徳永さん。古紙を中心に地域が一つになっていく。

「KAMIKURU」循環図

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限りある資源を循環させる「KAMIKURU」は、環境負荷の低減だけではなく、多様な雇用機会の創出や環境教育機会の提供なども生み出す。

co-creation_1 KAMIKURU & NONPROFIT ORGANIZATION

障害のある人が、新たな経験を積んで自信につながる。

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『わくわーく』理事長の小橋祐子さん。「KAMIKURU」参画は雇用の創出につながるという。
『KAMIKURU』で古紙回収からアップサイクル品の製作までを手がける、NPO法人『わくわーく』。その理事長の小橋祐子さんは、『KAMIKURU』に参画した理由をこう振り返る。「以前勤めていた精神障害がある人が働く事業所で、回収した使用済みの牛乳パックで紙をすいて名刺やしおりを作る活動に10年以上取り組みました。「KAMIKURU」の活動内容を聞いてすぐに頭の中で自分たちが携わるイメージが湧き、新たな仕事を作っていける希望が見えたので、手を挙げました」。
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作業場のある『九州ヒューマンメディア創造センター』。利用者がここに通うのも楽しみになっている。
『わくわーく』は、企業や学校で使い終えた古紙の「回収」、再生可能な紙の「仕分け」、ペーパーラボでの「製紙」、再生紙を加工するアップサイクルまでの一連の作業を担当する。紙の回収後、「九州ヒューマンメディア創造センター」内にある部屋で仕分け作業を行い、紙が折れていないか、ステープラーの針、修正テープが残っていないかを1枚ずつ確認する。その後、同センター1階にある「PaperLab」に点検済みの紙をセットして紙の色や厚みを設定し、再生紙ができるのを待つ。そしてその出来上がった紙を使い、企業や学校からの依頼に応じて名刺を印刷したり、紙袋を作ったりとアップサイクル品の製作までを手がけている。
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『わくわーく』のスタッフの渡邊史織さん。
「『KAMIKURU』に携わり、作業内容を覚えるにつれて、ここに通う障害のある方の自信もついてきました。古紙の仕分けで判断に迷う時に一緒にいるメンバーと相談し合うことも見られるようになって、共に働く意識が出てきたように思います」と作業のサポートを行う『わくわーく』の渡邊史織さん。また、小橋さん「『KAMIKURU』の活動の見学者からの質問を受けて、ここに通うみなさんが答えることも。これまで機会がなかっただけで、彼らはそんな力を持っているということに改めて気づかされました」と話す。

『KAMIKURU』を通じて、関わる企業や団体がこれまでにないスピードで増えてきた。いろいろな人が認め合い、心が穏やかになる社会を目指す『わくわーく』は、障害者雇用に関心がある企業の相談に乗りながら、自分たちの仕事の幅を広げていくつもりだ。

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回収した古紙を1枚ずつ点検。
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「PaperLab」ではステープラーの針などで留めている紙は使用できないため、その部分をハサミでカットする。
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水をほとんど使わずに再生紙を作る「PaperLab」。
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機器に点検済みの古紙をセット。
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再生紙の色、厚みをパネル画面で設定する。
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機器をスタートさせてから約3分(*)で再生紙が出来あがる。*90g/㎡ A4サイズの場合。
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さまざまな用途に応じて色味や厚さを変更できる。
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ブルーの再生紙ができ上がったところ。
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「KAMIKURU」でアップサイクルされた名刺。製紙の際、名刺に適した厚みにすることが可能。

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百貨店に期待される環境活動の第一歩にしたい。

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北九州市小倉北区の市街地を流れる紫川沿いにある『井筒屋』本店。
福岡県北九州市に1936年から店舗を構える百貨店『井筒屋』。環境に配慮した企業の在り方として、百貨店でもお中元・お歳暮の簡易包装やレジ袋の有料化などを実施しているが、ロイヤリティ(気品)の証しも求められるこの業界で積極的な環境活動を推進していくのは容易ではない。しかしながら、この環境下でできることは何かを模索した結果、同社は廃棄物や汚染など負の外部性が発生しない製品・サービスの設計を行うサーキュラーエコノミー(循環型経済)の道を目指すことにした。

そんな中で出合ったのが「KAMIKURU」だった。2020年9月から参画し、各部署から発生する古紙を紙袋にアップサイクルしている。これを担当するのは同社CSR・ESG担当マネージャーの中尾裕さんだ。

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「KAMIKURU」参画を推進して環境意識の変革に挑む同社の中尾裕さん。
「『KAMIKURU』参画にあたり社内を説得するのが大変でした。可燃ゴミで捨てていた古紙を分別してリサイクルすることはすでに行っていたため、新たに『KAMIKURU』を始める意味はあるのかと問われました。リサイクルとアップサイクルはどう違うのかを説明して、理解を求めました」と中尾さんはスタート時の苦労を振り返った。

「KAMIKURU」への参画後、中尾さんは月に一度自ら台車を押して約35ある本店部署を回り、古紙を回収している。取り組みから約11か月で古紙約10万枚が集まり、それが『わくわーく』の活動によって紙袋約2000枚とA4サイズの再生紙およそ2万枚に生まれ変わった。その紙袋は、本店6階にある北九州地域の特産品を集めた『きたきゅうコロンブス』で使われている。お店のロゴをあしらい、落ち着いた色のデザインだ。「お客様とのコミュニケーションになればと思い、紙袋を作りました。持ち手なしの小さな袋のほか、手提げ袋も無料のものと繰り返し使える有料のラミネート製を用意。この有償のものが一つのきっかけとなって、お客様にも環境について考えていただける次のステージに進むことができたらと思います」と中尾さん。百貨店から環境を変えるアクションが育まれている。

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『井筒屋』のバックオフィスに張り出されたサスティナブルアクションのポスター。
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設置された古紙回収ボックス。かわいいイラストと手書き文字での注意書きが。
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九州ヒューマンメディア創造センター』の作業室に集められた『井筒屋』からの古紙。
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本店6階『きたきゅうコロンブス』の売り場。
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アップサイクルされた紙袋。
「KAMIKURU」についてもっと知りたい方はこちら。
https://kamikuru.jp
photographs by Mao Yamamoto   text by Mari Kubota

記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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