漁船で獲れた魚をすべて買い取る「一船買い」、獲れた魚を使い切る「さかな100%プロジェクト」、未成魚を育てる「魚育プロジェクト」など、水産資源と寿司ネタの持続可能性に挑む『くら寿司』の大濱喬王さんが、仕事のなかでたびたび目を通し、学びがあると感じる本を紹介してくれました。
私たちは日本各地の漁港を訪ね、漁師さんから漁業や海、魚のことを教わり「漁業創生」の取り組みを展開しています。たとえば、「一船買い」は、定置網で獲った魚を当社がすべて買い取って寿司ネタにしますが、網には馴染みのない魚も。そうした低利用魚や未利用魚もおいしく食べられるよう、調理や食べ方を工夫して提供しています。未成魚も網にかかりますが、それを生け簀に集め、寿司ネタにできるサイズにまで育ててから出荷する「魚育プロジェクト」も行っています。また、魚は骨やアラなど約4割が廃棄されますが、それを魚粉にし、養殖魚のエサの一部として活用しています。
獲れた魚を無駄なく使い切ることで持続可能な漁業をサポートするプロジェクトは、大手回転寿司チェーンでは初めて。いわゆる「ゼロイチ」の挑戦ですから、大きな壁にぶち当たり、失敗することもあります。そんなときは嘉兵衛の仕事ぶりを読み返し、勇気をもらっています。
『江戸の食卓に学ぶ』は江戸時代の食生活を学べる一冊で、私が学んだのは塩使いです。江戸時代は醤油が高価だったため、庶民は塩や味噌、カツオや昆布のダシを使って調理していました。当社も低利用魚や未利用魚をおいしく食べるためにさまざまな工夫を凝らしています。たとえば、ニザダイという磯の香りが強すぎる魚は、揚げようが煮ようがニンニクを使おうが、お腹にためこんである海藻の臭いがまったく取れませんでした。ところが、あるテレビ番組をヒントに、エサにキャベツを与えてみたら嘘のように臭いがなくなり、さらに甘みも出て、見違えるほどおいしくなりました。今、全国の店舗に出荷できるように体制を整えているところです。
低利用魚や未利用魚をおいしく食べられるように工夫することも、本来アミューズメント性の高い食である寿司ならではの仕事。祭りに興じながら、川原で花火を見上げながら寿司を頬張った、江戸庶民の食を楽しむ姿勢に通じると思います。
記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。