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東京で農家を営む新潟の家族と働く。調布のおむすびカフェ「micro-cafe」

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 東京・調布市にある、おむすび cafe & dining「micro-cafe」。ここは、多くの家が建ち並ぶ住宅街のなかで、新潟の空気がゆったりと流れる場所。カフェの飲食メニューや店内に並ぶ物産品のひとつひとつに“新潟”を感じられる空間は、近隣住民だけでなく、遠方に住む県内出身者やゆかりある人びとで賑わっている。

目次

地元で愛される食材が並ぶ、micro-cafe。

 JR中央・総武線「三鷹駅」と京王線「つつじヶ丘駅」のあいだ。閑静な住宅街の一角に、「micro-cafe」はある。

 毎日、自家精米して炊き上げられる新潟県産コシヒカリのおむすびをメインに、新潟の食にこだわったメニューが並ぶカフェレストラン。わかりやすい“新潟名物”というよりも、地元の人びとに愛され続ける食材や調味料を使った定食や丼のメニューが並ぶ。

メニュー
種類が豊富な食事メニュー。お肉もお魚も選べる。

 この日に注文したのは、「新潟満載御膳」と名付けられた定食セット。おむすび2つに、特製醤油ダレに漬け込んだ鮭の焼き漬けや、越後もち豚を使った角煮などのお惣菜4種類と、豚汁などの3種類から選べるスープ、そしてデザートの笹団子がついたボリュームたっぷりの定食メニューだ。おむすびの具材は、20種類以上のなかから好きなものを選ぶことができる。今回は鮭ハラミと佐渡産岩もずくのりを選択し、スープは冬限定の粕汁を選んだ。

素朴で優しい、家庭の味。

 お店のメインとなるおむすびは、やわらかすぎず、固すぎず、絶妙な力加減で握られている。全体を大きな海苔にしっかりと包まれ、最後まで崩れることなく食べやすい。1個が大きなおむすびのなかには具材もたっぷりで、おむすびだけでも満足できてしまう。

新潟満載御膳
「新潟満載御膳」。バランス良く、品数が多いのもうれしい。

 御膳のなかでおむすびと一緒に添えられたお惣菜や粕汁は、どれも丁寧で優しい味わい。特に粕汁は、ふわっと香る酒粕の香りと甘みが冷えた体に沁みて、寒ければ寒いほどより一層おいしさを感じられるだろう。外食していることを忘れるような、どれも家庭の味を思い出す懐かしさや温もりを感じる味わいだ。

 店内で食事をしている間、テイクアウトのおむすびを買いに来るお客さんも絶えない。なかには、おつかいを頼まれやってきた子どもたちの姿もあった。そんな子どもたちを温かく迎える店内の様子からは、近隣の人たちから長年愛されてきたお店だということを実感する。店内に漂う和やかな空気と素朴で温かな手づくりの味わいは、どんな人も包み込む優しさに満ちていた。

店内
木の板の向こう側、カフェスペースの隣には、新潟のアンテナショップコーナーもある。

 そんな「micro-cafe」のオーナーを務めるのは、新潟・妙高市出身の古川優孝さん。ここ調布で店舗を構えるようになってから今年で10年目になる。もともとはオフィス街を巡る、おむすびの移動販売車からスタート。その始まりは「東京にいながら実家とつながりを持ちたい」という思いからだった。


実家との関わりを増やすために選んだ道とは

 「もともと東京に出たかった」と話す古川さん。新潟を出た初めのころは、将来的にも地元へ帰るつもりはなかった。しかし、大学卒業から数年間、東京でサラリーマンとして働くなかで、新潟で米農家を営む実家のことが少しずつ気になりだしていた。

「両親も年齢を重ねてきて、これでいいのかなっていう思いもあったりして。当時は、帰ったときくらいしか実家と関わることがなかった。東京にいてももっと実家とつながれる方法があるんじゃないか、と考え出したのが始まりでしたね。それで、移動販売車で実家のお米を使って何かできれば、東京にいてもつながりが持てると思ったんです」

稲穂

 そのとき、実家のお米のおいしさをダイレクトに伝えるため選んだのが、おむすびだった。都心のオフィス街で、おむすびと野菜たっぷりの具だくさんスープを、レトロなワーゲンバスに乗せて販売。今では街でよく見かける移動販売も、古川さんが始めた2004年当時はまだ珍しく、販売許可を得るのにも苦労したのだそう。

店内のすべてに“新潟”を詰め込んだ理由。

 それからしばらくは移動販売をメインに営業していたなかで、調布にお店をオープンしたのは2011年のこと。駅から離れた住宅街のなかに、おむすび cafe & dining「micro-cafe」は誕生した。

外観
入り口の横には、手書きのメニューや看板が並べられている。

 看板メニューのおむすびはもちろん、店内に並ぶ物産品や飲食メニューは、新潟への確かなこだわりが感じられるものばかりが揃う。「新潟の食や情報の発信基地」というコンセプトを掲げるとおり、店内のすみずみにまで“新潟”がぎゅっと詰まった場所だ。

 しかし、今でこそ新潟の要素が強い「micro-cafe」だが、オープン当初はここまで強く“新潟”を打ち出していたわけではなかったのだとか。それが現在のような新潟を発信する場所になっていったのは、なぜだったのだろう。

「ここは正直あまり良い立地ではないし、最初は経営も厳しかったんです。そのなかでどうすべきか考えたときに、“新潟”という個性を強く打ち出したほうがわかりやすいのかなと。もっとニッチで、飛び抜けた方向に行くほうがおもしろいかなと思って。それで最初はうちの実家のお米を使うだけだったのが、少しずつ新潟の色を濃くしていったんです」

笹団子
「新潟満載御膳」についてくる笹団子。新潟名物の笹団子は、店内のアンテナショップコーナーでも販売している。

地元で広がる人とのつながり。

 そうして、しだいにあらゆるメニューに新潟の食材や調味料が使われるようになり、店内にはアンテナショップコーナーも作られた。そこで取り扱う商品も、古川さんの地元である妙高市だけにとどまらず、県内各地の物産品が集まるようになっていったという。

「最初は実家のまわりの農家さんや地元の企業さんにつながって、そこからまた、人とのつながりのつながりでどんどん広がっていったというか。僕自身もここまで考えていたわけではなかったんですが、気づいたら本当にいろんなつながりができて。今ではお店で取り扱う物産品も、県内全域から集まるようになりました」

アンテナショップコーナー
店内のアンテナショップコーナー。地元ならではの商品が並ぶ。

 「micro-cafe」に並ぶのは、新潟で愛される地元企業の商品たち。特に、関東ではなかなか手に入らない商品を中心に選び、仕入れるようにしている。そうした商品選びがお店の個性になると同時に、「良いものを作り続ける地元企業を発信する場になれば」という思いもある。それは古川さん自身、「micro-cafe」を通じて地元でのつながりが広がったことが大きいと話してくれた。

「地元の企業の人たちと話していると、やっぱり自分たちの商品を首都圏に広めていきたいとおっしゃっていて。僕もお店をやるようになって新潟の良いものにたくさん出会いましたし、なにか少しでも力になれたら、という思いは強くなりました。特に伝統的な調味料や食材は、地元では使い方が決まってしまっていて、きちんと魅力が伝わらないことも多いと感じます。僕たちがお店で実際に使いながら、新しい使い方やアレンジ方法を提案できたらいいなと思っています」

かんずり
妙高市で作られる「かんずり」。新潟では伝統的な定番の調味料として親しまれている。

 古川さんのところには、商品を仕入れている地元企業から、自社で製造する調味料や食材の新しい使い方を相談されることも多いという。昔ながらの調味料も新たな使い方を提案することで、その魅力を最大限まで引き出すことができるはず。そうした考えのもと、「micro-cafe」のメニューでは、今までになかった新しい使い方にも積極的に挑戦している。「ものはすごく良いものが揃っているので、あとはどういうふうにPRするか。せっかく東京でやっているので、少しでもなにかできたらと常に考えています」と古川さんは語る。


遠方からでも足を運びたい、愛されるお店へ。

 新潟の魅力が詰まった「micro-cafe」には、遠方から足を運ぶ人も多い。その多くは新潟にゆかりのある人だというが、なかには地元・新潟から噂を聞きつけてわざわざ来てくれた人もいるとか。さらには、お店をきっかけに広がった地元のつながりを通して、市役所の方が挨拶に来てくれたこともあった。

 初めは集客に苦戦しただけに、近隣の常連客はもちろん、遠方から来る多くのお客さんについて、「みなさんよくこんなところまで来てくださるなあと思いますし、本当にありがたいですね」と古川さんが感慨深そうに話してくれたのも印象的だった。

東京と新潟をつなぐ場所へ。

わらぐつ
雪国ではおなじみのわらぐつと、編みとうがらし。古川さんのご家族が手づくりしたものが妙高から届いている。

 住宅街のなかに店を構えて10年。幼いころから家族に連れられ「micro-cafe」にやって来ていた子どもたちは大学生になり、今ではアルバイトスタッフとして働いている人もいる。

 そんな店の姿から感じられるのは、新潟にゆかりがあるかどうかは関係なく、お店そのものが長い時間をかけて着実にこのまちで愛されてきたということ。そうしていつの間にか、多くの人と“新潟”をつなぐ場所になってきた。

「うちのお店に来て新潟を感じてもらって、今は難しいかもしれないですが、たとえばコロナが収まってから実際に新潟へ行ってもらえたりしたら嬉しいですよね。でも僕が思っていること以上に、このお店に込めた思いをお客さん自身が感じ取ってくださっているというか。あえて言葉にしなくても、来てくれるお客さんにはちゃんと伝わっているように感じていて。それって、すごく嬉しいことだなと思っています」

micro-cafe

 もともとは古川さん自身が新潟の実家とつながるために始めた、おむすびの移動販売。最初はあくまで個人的な思いでスタートさせた「micro-cafe」は、店のかたちを変えながら、今では東京と新潟を結ぶ拠点になっている。たとえ新潟にゆかりがなくても、この場所で提供されるホッとするような心温まる食事と空間が、いつの間にか新潟との距離を縮めてくれるのかもしれない。

温かいおむすびで、心を休めて。

 長らく新潟へ帰省できていないという人はもちろん、なかなか心が休まらない日々のなかでうまくリフレッシュできないという人も多いのでは。心が晴れない日は、温かいごはんを食べよう。手づくりのおむすびには、人の温かさが宿っているのを感じる。「micro-cafe」の優しい味わいは、きっと疲れた心を休めてくれるはずだ。

おむすび

おむすびcafe & dining micro-cafe

  • アクセス:〒182-0012 東京都調布市深大寺東町2-10-5
  • 電話:042-444-3039
  • 営業時間:火曜~日曜:10:00~20:00(LO 19:30)
  • 定休日:月曜日 (月曜日が祝日の場合は翌日休み)
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