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サスティナビリティ

連載 | 森の生活からみる未来

「凶暴な天使? 外来種との闘い 前編」

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 我が家の敷地は、大きく2つのエリアに分けられる。一つは、菜園とハーブ園、小さな果樹園がある、有機栽培の「フードガーデン・エリア」。もう一つは、自然の森がある「フォレスト・エリア」だ。

 今回は、このフォレスト・エリアで起きた“ある事件”について。

 「自然の森」と書いたが、それは100パーセント正しいわけではない。いろんな場所を移動し、どんなに気をつけていてもさまざまな種子を運び込んでしまう人間、つまりぼくが暮らす家が隣接しているため、時折、外来種が入り込んでしまうのである。

 ちなみに、まったく手付かずの森のことを、一般的には「原生林」と呼ぶ。それは、人の手が加わっていないことに加え、「本来そこにいるべきネイティブ(原種)」の植物だけで構成されていることも、その条件の一つとなる。そういった貴重な原生林が、ぼくが暮らす湖の約90パーセントを取り囲んでいる。だが、どうやっても、ぼくら人が暮らす土地に近い森は、なかなかそうはいかない。

 もちろん、完全に人の手でデザインされ、人間の都合でさまざまな食用の植物が植えられたフードガーデン・エリアに比べると、我が家のフォレスト・エリアは、「森」と呼べる美しい形態ではある。

 だがしかし……。知らぬ間に、そこに“悪魔的な外来種”が育ってしまっていたのだ。

 その名もずばり、「ジャスミン」。

 ここで、「え?」と思われた方も多いはず。そう、可憐な花と優しい香り、おいしいお茶としても、ぼくら人類を癒してきた、あの美しきジャスミンのことである。

 だが残念ながら、ここでは立派な外来種。そして、この地域では「駆除すべき悪質な外来種」として登録されてしまっているのだ。

 なぜ「悪質」なのか。

 ここの気候や土壌、植生との相性が“よすぎる”ため、異常に繁殖してしまうのである。恐ろしいほどの勢いで森を侵食し、最終的にはニュージーランド固有の植物の一部を殺してしまうというのだ。

異常に繁殖してしまった、悲しきジャスミンの葉。
異常に繁殖してしまった、悲しきジャスミンの葉。

 どの大陸からも遠い位置にあるこの国には(隣国・オーストラリアからも、実は約2000キロも離れている)、世界でも稀に見る、完全オリジナルで稀少な植生が存在する。だが、気が遠くなるほど長い年月をかけて純粋培養されてきたその植生は、美しい半面、とても脆弱であるという側面をもっている。

 さらに、温暖な気候と肥沃な土壌、充分な雨量と豊富な太陽光という、植物にとって理想的な条件が揃っていることも、不幸を後押しすることになった。外部から持ち込まれた植物たちの多くは、本来彼らがいるべき故郷よりも、早く、大きく、強靭に育ってしまうのだ。

 「多く」と書いたが、すべての外来種がそうというわけではない。そして、小さな島国・ニュージーランドとはいえ、南九州のような北部から、北海道のような南部まで、多様な気候があるため、エリアによって外来種の育ち方は違ってくる。

 ぼくが暮らす森では、市役所から、10ほどの植物が「見つけたら即駆除すべし」と通達が下りている。

 その中でも、特に「凶暴種」と位置づけられている中に、ジャスミンがある。それ以外だと、クレマチスやアザミ、タンポポや柳などが入る。そして、とても残念なことに、桜(一部の種類)も、繁殖力の高さゆえ、そのリストに入れられてしまっている。

 念のために説明しておくと、その桜は、ここ湖畔の森では駆除対象だが、市街地ではそうなっていない。保護区でもある原生林地域ゆえの、厳しいルールなのだ。森の生活とは、文字どおり「街の生活とは違う」ということになる。

 次回では、その“凶暴な天使”との格闘について書いてみたい。

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