レイクカルチャー❹

連載 | 森の生活からみる未来 | 68 レイクカルチャー❹ 湖とともに生きるデザイナー

 この湖でもっとも優しい男と称されるデイビッド。ぼくのここでの生活は、この人抜きには語れないと言ってもいいだろう。


 家がお隣というだけでなく、デザイナーということで、クリエイティブへの造詣が深い、フライフィッシング愛好家、Apple信者など、ぼくとの共通点が多数。


 この連載初期に詳しく書いたことのある、ニュージーランド先住民マオリ族のカレンを奥さんに持つこともあり、マオリ族の生命観や自然観を深く理解している。


 ご存じのとおり、世界中の先住民の価値観は、白人とは対極にある。そして、不思議と古来の日本人のそれに近い。マオリ族も同様だが、ぼくの感覚だと、他の先住民よりも、おもしろいほど日本人に似ているのだ。このことは、また詳しく書いてみたいと思う。


 デイビッドは、アイルランド人を先祖に持つ、血筋も見た目も完全な白人。だが、もともとシャイで、都市部での人間社会で苦労するタイプだったことに加え(このあたりもぼくとの共通点)、奥さん経由でマオリ哲学をインストールしてきたこともあってか、「まったく白人らしくない」のである。


 ものすごく気配りをしてくれているが、それを相手に悟らせない。こちらが言葉にできなくても、雰囲気で察してくれる。場や会話の空気を読んで、ちゃんと配慮したうえで、発言や行動をしてくれる。


 ぼくを含めた日本人でさえ、最近はここまでできないのでは……と思ってしまうほどの高いレベル。


 そして、彼はほかのニュージーランド人同様かそれ以上に、あらゆることを自分でできてしまう。庭仕事、菜園の運営、ボートや釣り関連のこと、家の内外のメンテナンスなど、書き切れないほどある。男としては、心から尊敬してしまう。


 日本からここに引っ越してきた直後から、彼らは、家族のように接してくれて、ことあるごとに助けてくれた。あらゆる場面と局面で、数え切れないほどに。


 デイビッドとカレンがいなかったら、東京とはまったく違う森の生活を、ここまで順調に営むことができなかっただろう。


デイビッドの湖上タクシー。お隣さんだが、やはり一番会うのは湖でだ。湖の真ん中でぼくのボートが故障した時、このボートで引っ張ってくれたこともある。
デイビッドの湖上タクシー。お隣さんだが、やはり一番会うのは湖でだ。湖の真ん中でぼくのボートが故障した時、このボートで引っ張ってくれたこともある。

 そんな彼のワークスタイルは、ぼくと同じでマルチキャリア。昔から自然が好きだった彼は、長い間やっていた都市部でのデザイナーの仕事と収入と安定を捨てて、この湖に移ってくる(似ている!)。


 そして、湖畔オーガニックロッジ、湖上タクシー、湖畔キャンプ場、湖畔グランピングサイトといった、複数の観光事業を手がけるように。


 「どう、釣れてる? 忙しすぎて釣りに行けてないんじゃいの?」


 これは、ウィンクし合いながら彼と交わす挨拶のパターン。


 ぼくも、ほぼ彼と同じ理由で湖とともに生きる暮らしを選んだが、二人ともここでノンビリ暮らす、という道を選んでいない。お互い、常に仕事でやりたいことがあり、結局いつも忙しくしている。


 「でも、こんな素晴らしい大自然の中にずっといながら働けるって、幸せだよね」


 ぼくらの挨拶は、この言葉で締めくくられる。


 ここまで書いてふと思い出したことがある。ぼくが今の家を買おうかどうか迷いながら、この湖に通っていたころ、彼が知る季節ごとの秘密の釣りポイントをすべて案内してくれたのだ。それが決定打となり、家の購入を決断し、今に至る。


 彼がいなかったら、ぼくはここにいなかったかもしれないのだ。