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移住前の不安はゼロ?東京出身夫妻が愛媛に移住しダイバーになった理由とは

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「移住への不安は・・無かったです」
いざ地方移住を考え始めると、あれやこれやと不安がつきもの・・という固定観念を覆すのは東京から愛媛県愛南町に移住して6年目を迎える高橋翔さん、香さん夫妻です。

「行ったことが無いから」という理由で旅行した四国。道中訪れた愛南町で偶然ダイビングを体験し、その美しい海に魅せられ、毎年訪れるうちに気がつけば観光船を運行し、ダイビングやシーウォークのサービスを提供するまでに至った高橋さん夫妻。

今回お二人に自らの移住を振り返ってもらい、また地方移住に向いている人はどんな人かを探るべく、話を聞きました。

目次

きっかけは四国旅行。愛南町の海に魅せられて。

愛媛県の最南端に位置し高知県に隣接する愛媛県南宇和郡愛南町は、足摺宇和海国立公園に面しています。その沖合の海底にはサンゴが広がり、日本の魚の4分の1以上の種類が集まると言われるほど、美しい海が愛南町の一大観光資源となっています。
そんな愛南町に東京から移住し、観光船を運行してダイビングやシーウォークなどのマリンレジャーサービスを提供している高橋翔さん香さん夫妻。移住から早6年目を迎えます。
赤いシャツが高橋翔さん

赤いシャツが高橋翔さん

赤いシャツが高橋翔さん
高橋翔さん(以下、翔さん)「元々山登りが好きで。群馬県の妙義山なんかはよく登りました。キャンプもたくさんしましたね。具体性は無いのですが、いつか自然を相手に何かしたい、と思っていました」
高橋翔さんは東京生まれ東京育ちの39歳。高校卒業後もずっと東京で暮らしてきました。やがて同じく東京出身で高校の同級生である香さんと結婚し、引き続き都内で生活を続けます。
高橋香さん(以下、香さん)「夫はスタジオミュージシャンで、私も美大に進学したもののバイト三昧で。でもいつか二人で何か仕事して暮らしたいなと思っていました。山とか自然の豊かなところでそれができればいいね、という話はしていました」
愛南町に移住するきっかけはバイクでの四国旅行でした。
妙義山登山

妙義山登山

妙義山登山
初の四国旅行はタンデムバイクで

初の四国旅行はタンデムバイクで

初の四国旅行はタンデムバイクで
翔さん「四国旅行は3週間のキャンプ旅。バイクにタンデム(二人乗り)して。かなり無理しました(笑)行き先を四国にした理由は、それまでに行ったことが無かったからです」
香さん「旅行ではいつもそうなんですけど、コースをかっちり決めず、地図を見て、行き先を決めて・・。テントを積んで二人乗りして。パンクしそうでしたね(笑)」
直前には佐渡島を周ったり、年に二度ほどは全国各地を旅してきた二人。旅先を選ぶ基準はあるのでしょうか。
翔さん「滝とか鍾乳洞とか、山登りが好きなので山。あとは港。美味しいものを食べるのも旅の目的なので、漁港があるかもポイントですね」
3週間の旅路は四国をまさに縦横無尽に駆け巡るものでした。本州から橋を渡って徳島県の鳴門に入り、香川県の高松や、徳島・吉野川上流の大歩危小歩危、高知の龍河洞、竜串海岸、愛媛に入り石鎚山、四国カルスト・・四国の絶景を巡り、ついに旅も終盤の頃、四国の南西の果て、愛南町にたどり着きます。
翔さん「船底がガラスになっているボートに乗って青い海を船上から楽しんでいたんですが、ガイドさんが明日よかったらダイビング体験をしてみないかと」
日本各地を巡り、そして今回は四国を十分に満喫してきた二人を前に、ガイドさんが愛南の海の魅力をもっと味わって欲しいと熱心にアピールする姿が目に浮かびます。
そしてそんな二人をしても、これまでに無いより大きな感動と興奮を与えるに十分に美しいのが、愛南町の海でした。
ダイビング体験中の高橋夫妻

ダイビング体験中の高橋夫妻

ダイビング体験中の高橋夫妻
香さん「ダイビング体験の後、四国の反対側、室戸に向かうんですけど、室戸に一泊する時点で夫はダイビングのライセンスを取る、と宣言してましたね」
翔さん「あの海に潜るために来年また行こう!というモチベーションですね。東京でライセンスを取るという発想は無くて(笑)愛南の海はとにかく綺麗でめちゃめちゃ楽しかったです」
ほどなく帰京した高橋さん夫妻。しかしこの頃はまだ、愛南町に移住するなどという考えは全くありませんでした。

ダイビングを通じて始まった愛南町との関係

翌年、二人は再度愛南町を訪れ、ダイビングの初級とその一つ上のライセンスを無事に取得します。
翔さん「二つのライセンスを取るのに1週間くらいかかったんですけど、その間に年配の友人ができました。ライセンスを取り終えて、しばらくその方と遊ぶうちに、来年も来なよ、ついでに仕事も手伝ってよ、という話になりました」
香さん「その人は色んなところにボートで連れてってあげるよ、って。最初は誰かなこの人って感じでしたけど(笑)」
この友人とは、愛媛県松山市内のダイビングショップの経営者でした。この方を通じて二人と地域との交流が生まれ、結果スムーズに地域に馴染んでいくことができました。
翔さん「ダイビングの師匠とか、そういうのでは無いんですけどね。ライセンスを取った時に隣にいて、色々遊びに連れて行ってくれて。年の離れた友人ですがその存在は大きいです」
さらに翌年。前年取得したライセンスより上級のコースを取得しつつ、約束通り1ヶ月間現地に住み込みながらシーウォークの手伝いをしたり、地域の仕事や頼まれ事をこなします。
シーウォーク前の高橋さん

シーウォーク前の高橋さん

シーウォーク前の高橋さん
翔さん「ダイビングのライセンスで全国の海を潜ろう、とかそういうモチベーションは無くて。ただただ楽しくて潜りに来ていました。地域の集落にお世話になっていて、盆踊りを一緒に踊ったりもしました。ビールもいっぱいもらったり」
香さん「このタイミングで地元の人たちが、仕事もあるし愛南町に来て住みなよって、誘ってくれたんですよ。ちょうど観光船の指定管理事業をしている会社が次の契約期間も事業を継続することが決まっていて、来期から二人社員を入れたいと」

愛南の海に魅せられた二人の人生に転機が訪れました。

旅行から2年後に訪れた転機

香さん「私たちもダイビングをしにこれからも愛南町を訪れたいけれど、こちらに仕事でも無い限り続かないのではないか、って思っていて。誘われたんだし、引っ越して暮らしてみようかと」
いったん東京に帰って考えますと返事はしたものの、この時すでに二人は愛南町への移住を決めていたと言います。
その後東京の友人らに報告すると「二人らしいね」などと、背中を押す声がほとんどだったとか。
香さん「移住のデメリットは無いんじゃないかってくらいに思いました。馴染みのラーメン屋に行けないことくらい。でもそこのラーメンをネットで買えると知って、それで我慢しようと(笑)」
翔さん「東京に未練は無かったですね。愛南へ移住することのへの不安も無かったです。元々キャンプとか好きだし、環境の変化に強いというか。愛南には、例えば家から職場までに信号がひとつも無い、8時に起きて、遅刻だ!と焦っても、8時5分には出社してるとか(笑)そんな生活のしやすさがありましたからね。東京で暮らしていた時は駅まで長い距離歩いて、ギューギュー詰めの満員電車に乗って・・あれはしんどかったですよね」
暇を見つければ旅を繰り返し、キャンプをしていた高橋さん夫妻。東京で暮らすストレスから逃れるため、無意識に自然を欲していたのかもしれません。
翔さん「よくよく思うのは、東京は生活する場所では無いなと。お金を稼ぐ場所というか。東京の友達に怒られちゃうかもしれないけど(笑)」
こうして高橋さん夫妻は縁もゆかりもない愛媛県愛南町に移り住むこととなりました。
初めての四国、初めての愛南町で乗った西海観光船。数年後...

初めての四国、初めての愛南町で乗った西海観光船。数年後船の指定管理事業者になることをまだ知らない妻の高橋香さん

初めての四国、初めての愛南町で乗った西海観光船。数年後船の指定管理事業者になることをまだ知らない妻の高橋香さん

東京→愛媛・愛南町へ移住、その後

初めて愛南町を訪れてから3年。海に惹かれ、ダイビングを通じて毎年地域と関係を持ち続け、ついに移住。
地域との交流を経て、導かれるように地元企業の求人に辿り着きました。
観光船の管理運営を行う企業に就職し5年が経ち、今期からは自ら興した会社で社員と共にその事業を引き継いでいます。地域に根ざし、町の公的事業に携わるのは地域との信頼関係が無くてはなりません。高橋さん夫妻はどのように信頼を築いてきたのでしょうか。
香さん「最初の1年なんかは、どうせ(いつか東京に)帰るんでしょ、というニュアンスで接してくる人が多くて」
翔さん「2年目くらいから次第にメディアに取り上げられるようになって。東京からの移住者という取材の切り口だったり、観光船の船長が妻なのでそれを取材したり、あるいはシーズン前にシーウォーカー自体を紹介してくれて。そうすると、それを見た周りが見たぞ、頑張っとるな、と認めてくれた気がしますね。僕らが観光の・・言わば外のお客さん向けのサービスをしているということが、地域の為だと思ってくれて良かったと思います。そういう(観光客向けのサービスの盛んな)町に来たというのはラッキーなことで、それで周りの皆さんに話が通じやすかったんだと思います。多忙な時期には近所の方が自治会の当番業務なども代わってくれたりとか」
移住を受け入れる地元住民側。当初はシャイな性格が故に移住者たちがやっていることを遠巻きに様子を見ている。そのうちメディアに取り上げられるなど移住者の活動がわかると徐々に信用してくれる・・。高橋さん夫妻の周りでそんな「地方あるある」な現象が起きたことを想像せずにはいられません。
翔さん「コミュニケーションを取るのに、テクニックが必要だなって感じる時もありますね、話し方とか、政治的な背景を理解するとか」
翔さんはただダイビングやシーウォーカーを観光客に提供するだけではありませんでした。海中の映像を撮影し、漁船の補修など地域に必要な仕事も請け負います。
翔さん「移住して5年間撮りためた海中の映像は取材に来たテレビ局なんかにも重宝されますね」
ただ地域に暮らすのでは無く、自分の得意な分野で地域に貢献し、また移住者の視点で地域の魅力を外に伝えています。

移住前後に変わる愛南の景色

旅人から住人へ。高橋さん夫妻の目に映る愛南はこの5年でどう変わったのでしょうか。
翔さん「最初の頃の新鮮味という意味では、それは無くなりましたね。でも悪い意味では無くて、愛南の日常が体に馴染んだという気がします」
香さん「例えばお客さんに愛南の良さを紹介する時、当初は観光の仕事としてやっている感じがありましたけど、それが自然に・・観光客側が喜びそうなことを合わせて言うのでは無くて、地元民側の目線になったというか。例えば・・フナムシ可愛いですよね、とか(笑)より自分のこととして愛南の良さを紹介できるようになったというか」
移住に際しての不安は無かったと断言する高橋さん夫妻。
二人の移住は、愛南町という町に、ダイビングを通じて知り合った人たちに、そして仕事に恵まれたことは間違いありませんが、そもそも二人の価値観や、これまで生き方が地方移住に相応しかったと思わざるを得ません。
一体それはどのようなものでしょうか。誰もが高橋さん夫妻のようになれるのでしょうか。
その答えがわかるのでは、と期待を込め、インタビューの最後に地方移住に不安を抱えている人たちにアドバイスを求めました。
香さん「移住の前に1週間くらいキャンプをしてみるのがいいんじゃないかな、と思います。物に対する固執が減るんですよ。物が無いのが当たり前のキャンプをがっつりすると、あれが無いこれが無い、と思うことが少なくなるかなと。化粧品が無くても気にしない。髪型もあまり気にしない、食事もあるもので作って食べる・・そうすると何かが足りないというストレスが無くなる・・なんとかなるな、っていう風に変わると思います。あと虫がいても大丈夫、とか(笑)そう変わりますよ」
翔さん「自分が自然と共に生きることを受け入れてあげることが重要、ですかね。私は海を現場に仕事をしていますけど、自然の脅威、強さを感じてて。そういう環境にも負けないようにとにかく強く生きること。周りの環境を受け入れて生きていくこと、そうすればどんなことでも面白いと思えるんですよね」
四国旅中のキャンプ風景

四国旅中のキャンプ風景

四国旅中のキャンプ風景
高橋さん夫妻は、東京から地方に移住しました。東京暮らしからは大きく環境が変化しましたが、都会のストレスを逃れるための旅行やキャンプで培った強さや価値観、そして3年がかりの町との関係性は、愛南町で暮らすのに必要十分で、相応しいものでした。
地方移住を考え始めるとあれやこれやと不安がつきものですが、移住の先輩たちにはそういった不安が一切無かった方もいます。自分自身が地方移住に向いているのかどうか、地方移住に抱く不安は解消可能なものなのか、今回紹介した高橋さん夫妻の移住ストーリーはそれらの参考になるかもしれません。

文:皆尾裕 写真・取材協力:高橋翔、高橋香、合同会社SeaWest、愛南マリンサービスLLP

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