「あなたの地元ってどんなところ?」こんな風に聞かれた時、あなたはどう答えるだろうか。中には「私の地元なんて何もない」と答える人もいるかもしれない。今回ご紹介する「瀬戸内かわいい部」は、ある女性がSNSで呼び掛けたことをきっかけに始まったコミュニティだ。地元の魅力を「かわいい」という視点で切り取り、発信を続けている彼女たちは、瀬戸内かわいい部をきっかけに地元の見え方が一気に変わったと話す。そんな彼女たちはなぜ発信を始め、なぜ「かわいい」を選び、何が見えているのだろうか。
瀬戸内かわいい部の発信する「かわいさ」とは
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瀬戸内かわいい部、略して“せとかわ”は、部長のやすかさんを含む運営メンバー4人を中心としたコミュニティだ。2018年の発足以来、SNSやLINE@で瀬戸内のかわいいモノ・コトを発信したり、不定期で交流イベントも開催してきた。現在TwitterとInstagramのフォロワーはのべ1000人を超え、関わるメンバーも岡山、香川、関東、関西など、さまざまな拠点から集まり、活動している。
では、そもそも瀬戸内かわいい部は「かわいい」をどう捉えているのだろうか?
当初は、瀬戸内エリアのかわいい女子を紹介していると勘違いされたこともあったそうだが、彼女たちの発信する「かわいい」とは「いとおしさ・あたたかさ・ていねいさ」に近いのだと言う。
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運営メンバーのみなみさんは「日常で見落とされがちなモノ・コトを丁寧にすくい取り、それをことばや写真を使って誰かに届けたいと感じるもの。それこそが、瀬戸内かわいい部の『かわいい』だと思っています。」と話す。
ただおしゃれでかわいいものではなく、そこに至るまでのストーリーや作り手の想いを感じるものに、彼女たちはかわいさを感じているのだ。
どんなところにも「かわいい」は落ちている
2019年には地元岡山のブランドと協力し、細かい傷などのために捨てられてしまうデニムを活用した、ピクニックシートの製作プロジェクトを進めていた。(通称『せとかわデニムプロジェクト』は現在一時休止中。2020年末から第2期スタート予定。)
実はそのプロジェクト中にも、ある二人のメンバーによって「かわいい」が掘り起こされていた。
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広島にある工場を見学をしていた二人は、デニムを織る際に出る捨て糸を見つけ、それらに活用法がなく、廃棄されてしまうことを知った。すると彼女たちはその捨て糸を工場から譲ってもらい、おしゃれな飾りとして瀬戸内かわいい部のイベントで活用したのだ。
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やすかさん: 工場の人からすると、それはただのゴミでしかないし、価値もゼロだと思っていらっしゃったようです。でも手芸が得意なメンバーからすると、それは宝の山に見えていて。最初は工場の方も「本当に持って帰るの!?」とびっくりしていましたが、そこに「かわいい」を見出せる彼女たちの視点は本当にすごいなと思いました。
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地元の見え方が180度変わった瞬間
わずか数年で活動が広がりつつある「瀬戸内かわいい部」。部長のやすかさんに、そのきっかけを聞いてみた。
やすかさん: きっかけは2018年の西日本豪雨でした。当時、地元の岡山県倉敷美観地区では、災害の影響で観光客が激減していたんです。そこで私は復興支援のために地域のPR動画を作り、当時所属していたコミュニティに動画を公開しました。すると、仲間たちが「自分たちの発信力も活用して、被災地の経済をまわす力なれたら」と、岡山を訪れてくれたんです。
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やすかさん: その時にすごく大きな気付きだったのが、自分では当たり前だと思っていることでも、それを価値だと感じてくれる人がこんなにもいるんだということでした。
カフェでゆったりと過ごせること、おいしいジュースや食べ物があること、空気や水が澄んでいること。岡山のそういうところを仲間たちは褒めてくれたんですが、当初は「お世辞で言ってくれているのかな」と思っていました。
でもじっくり話を聞いているうちに、それぞれが全国さまざまな場所を巡り、旅をした経験があって、その上で「岡山っていいよね!過ごしやすいね!」と言ってくれていたんです。それを知った時に、地元に対する見え方が180度変わり、もしかしたら私は住みやすい所に住んでいたのかもしれないと思えました。
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外からの視点のおかげで地元の魅力を再発見できたという、やすかさん。自分が好きなことなら楽しく活動ができるかもしれないと思い、当時は少なかった「瀬戸内をかわいいで切り取る」という視点で、発信をはじめることに。
興味を持つ人がいなかったら一人でぼちぼち活動しようと思っていたそうだが、予想とは裏腹に、Twitterでつぶやいてから数日で参加希望者からの反応が届き、あっという間に「瀬戸内かわいい部」はスタートした。
そして家族も巻き込みながら活動をしていたやすかさんは、ある時ご両親から「岡山って何もないと思ってたけど、意外と瀬戸内のデニムっていいね」と言ってくれた時の話をしてくれた。
やすかさん: 人の価値観って、こんなに簡単に変えられるものなんだとその時に思ったんです。そして、地元に魅力があると思えるきっかけづくりっていうのは、誰かが始めたら案外広がっていくものなのかもしれない、とも感じました。
移住しないままで地元の仕事をもらえるようになったメンバーも
“せとかわ”に参加したからこそ得られたもの
やすかさんと同じく、他の運営メンバーも地元に対する見え方に変化を感じていた。
まみこさん: 私は中学時代から都会に憧れ、高校卒業後も迷わず上京しましたが、昨年地元に戻ってきました。今回“せとかわ”に参加したことで、昔の自分は、まちの良さをただ探そうとしていなかっただけなんだ、ということに気付かされたんです。瀬戸内のかわいいモノ・コトを発信するために、地域の良さを見つけようという意識が芽生え、学生時代とは違う意識ができあがった感じです。
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見えているものはさほど変わっていないはず。それなのに、どんな視点で見ているかによって、感じる価値も魅力も違ってくるのだろう。
また地域の見え方だけでなく、それぞれの価値観や仕事にも変化があったメンバーもいた。
ヘレンさん: 私はもともと写真が好きでしたが、“せとかわ”に関わったことで、写真を撮ることがもっと好きになりました。また、メンバーの拠点が全国各地にあるということもあって、災害などのニュースを見ると「〇〇さんの地域だ、大丈夫かな?」と、それぞれの地域を自分の地元のように心配したり、うれしくなるっていう感覚を初めて味わいました。
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みなみさん: 私は“せとかわ”のおかげで、何者でもなかった自分に役割や名前を与えてもらった感覚です。岡山には学生時代に18年も住んでいましたが、大学進学後はしばらく帰っていなかったし、地元に残っている友達も少なくて。だから岡山の人からすると、「あなた誰?」っていう感じでした。
仕事でも岡山に関わりたいと思っていましたが、当時は「最初は移住してもらわないと・・・」というお話だったんです。でも“せとかわ”に参加し、「瀬戸内をかわいいで発信しています」と話したら、“瀬戸内かわいい部のみなみさん”と認識してもらえるようになったんです。
関わりたかったイベントの仕事や商品企画などのお仕事もいただけるようになり、“せとかわ”が自分の活動を広げる、すごく大きなステップになってくれました。
大切なのは「あるかもしれない」という視点
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「自分たちの手を離れて、羽ばたきはじめている」と感じることさえあるという、瀬戸内かわいい部の活動。今後は、瀬戸内国際芸術祭に何らかの形で関わることや、瀬戸内カラーの万年筆インク開発などの夢を、ひそかに、でもワクワクしながら抱いている。
その一方で、「かわいい」が地域に与える影響も冷静に分析していた。
やすかさん: 「かわいい」って、すごくとっつきやすい要素だなと思っているんです。「地域活性化」という響きだと、真面目にちゃんとやらなきゃいけない、という気持ちが出てきてしまうと思うんです。でも「かわいい」だったら、みんながもっと楽しみながらワクワクした気持ちで関われるのかな、という想いはあります。
そして瀬戸内でも関東でもどんな場所でも、「魅力があるかもしれない」という視点で生活することで見つけられるものって、全然違ってくると思うんです。
瀬戸内かわいい部の場合は「かわいい」という切り口で、エリアは瀬戸内です。でも「見つかるかもしれない」っていう視点を持った人が、それぞれ切り口、エリアで日々を味わいながら、探しながら、おもしろがりながら暮らすことができたら、日本全国でおもしろいモノ・コトが増えるんじゃないかなとも思うんです。
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この取材を通して、はじめから地元の魅力を知っていることは、あまり重要ではないのかもしれないと私は感じた。
大切なのは「興味を持つこと」や「何かあるかもしれない」という“メガネ”を掛け始めること。今からでも、どんな場所にいても、きっと誰でも手に入る”メガネ”のはずだ。
さぁ、あなたはどんな“メガネ”を掛けて、暮らしますか?
▼取材協力
瀬戸内かわいい部
せとかわ公式note(彼女たちのこれまでが詰まっているブログ)