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多様性

生きる証しとして踊る彼らが放つ濃い存在感。ダンシングホームレス

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 映画に登場する人たち、一人ひとりが放つ濃い存在感に、目が釘付けになる。踊りが上手いとか、下手だとか、そういう基準を持ち出すことがられるのは、彼らの動きがあらゆる制約から自身を解き放とうとしていること、その波動が見る側にも伝わるからだろう。路上生活経験者によるダンス集団「新人Hソケリッサ!」のメンバーは、それぞれ事情を抱え、身一つとなった人たちだ。彼らにとって、踊りは社会との接点であり、生きる証しでもある。

ダンシングホームレス

 「新人Hソケリッサ!」を主宰するアオキ裕キさんは、名前を挙げれば多くが知るミュージシャンのPVなどを手がけた振付師として活動していた人だ。だが、ダンス留学先のニューヨークで、同時多発テロに遭遇したことなどを機に、自身の踊りの方向性を模索し始めた彼は、帰国後、路上生活者の身体に目を向ける。雨風、酷暑・極寒など、気象や外界の事象に晒され、いつ、何が起きても不思議ではない戸外で寝起きしている路上生活者は、文字どおり、身ひとつでこの世界に存在している。望むと望まざるとにかかわらず、生きることと向き合う彼らに、踊りという身体表現との親和性を直感したアオキさんが、路上生活者一人ひとりに声をかけ、メンバーを募ることから、「新人Hソケリッサ!」は始まっている。

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 路上で踊る姿、公共施設を借りての練習風景、関西への遠征、そして日々の暮らしぶり……カメラは淡々とメンバーを映してゆく。野垂れ死ぬ覚悟で3週間、水だけ飲んでいたら、このままじゃヤバいと身体がシグナルを発したと話す西さん。20代に長くイギリスに滞在したものの、強制送還で帰国。雨が降らない限り、毎朝、ラジオ体操に参加し、野菜不足を補うため、ジュースに青汁パウダーを入れて飲むその姿に几帳面さが滲む小磯さん。15歳で家を出て以来、独力で生きてきた平川さん。メンバーのことばや面構えは、それを見聞きした者に忘れ難いものを残す。

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 練習も本番の公演も、参加するしないは本人の自由。「それは社会のルールと違いますね」という三浦監督に、「社会のルールがいいですか」と、アオキさんは問い返す。誰もが同じ方向を見なければいけないような社会、メンバーに踊れるなら働けという人しかいないような社会は息苦しい。口には出せなくても、そう感じている人にとって、これもまた考えさせられるやりとりだ。

ダンシングホームレス

 映画のラスト、新宿の高層ビルの谷間で、彼らは“日々荒野”を踊る。その姿は、アート表現の延長線上で、社会に対してさまざまな問いを投げかけている。

目次

ダンシングホームレス

 3月7日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてロードショー、全国順次公開
 © Tokyo Video Center 

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