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多様性

連載 | ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ

笑える背中。

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僕にはまいちんという親友がいる。まいちんと僕は大学時代のサークルで出会った。当時の彼女はアイドルグループ『Perfume』をこじらせたようなテクノポップ的服装をしていて、オシャレだったけれど、見ているだけでなんかちょっとうるさい人だった(でかい星形のピアスとかしてた)。若い頃のファッションにはやたらと気張りが出る。まいちんは地方から出てきた人だったし、余計に緊張もあったのだろうか。今は星から遠ざかり、代わりに月から拾ってきたような、小さくてくすんだ金のアクセサリーをしている。服はいつでも走り出せそうなものが多い。これからどうすんの? と聞くと、「とりあえず地元には帰んないよ」と返ってくる。よく笑い、ハツラツとした人である。

僕らは学生時代、一言で言うとムードメーカーだった。僕はグイグイと引っぱって盛り上げるタイプだったけれど、まいちんは優しい人で、皆が感じていることに半歩先に気付いては、ぽろっと言い出してくれるような人だった。「そうそうそう!」と皆が頷いてしまうような「本音」の扱いがうまい人っている。まいちんはそういう人で、そういう人は仕事ができる。彼女は今WEBディレクターとしてエンジニアやデザイナー、クライアントを束ね、大きな会社のサイトをたくさんつくっている。とても似合うなと思う。まいちんはいつの時代も、自分に似合うものをよく知っている人だ。

でもまいちんは、その読めすぎる空気にされて、学生時代静かに苦しんでいたのだと思う。僕もそうで、当時の僕らは自分に似合う役割を必死にこなしていた。僕らはずっと「おもしろい人」で、バレーサークルなのにバレーが下手だったのも相まって、みんなを笑わせ、楽しませてばかりいた。

この年になって少しは「得意でも、嫌いだからやらないほうがいいこと」に気づけるようになったが、若者には何しろ自信がない。皆が喜ぶならそれで僕らはよかったのだろう。僕の場合はゲイだし、それを皆に言えずにいたし、「おもしろくて熱い人」、それしかないと思っていた。「彼女いらないの?」と聞かれれば「そんなタイプじゃなくない?」と返していた。

これはまいちんに言っていないのだけれど、そんな僕がゲイであることをオープンにして生きようと決めたのは、彼女のダイエットがきっかけである。当時僕らは一緒の家に住んでいたのだけど、ある朝彼女の部屋から軽快な音楽が聞こえてくるから覗きに行ったら彼女が踊っていた。「めっちゃ踊るやん」。まいちんはこっちに目もくれず「これから毎日やることにしてん」と言った。躍動感ある背中、吐息まじりの張りある声、テーブルの上で堂々と立つ流行りのエクササイズDVDボックス。僕はそれを前に「まいちん、決めたんだな」と思った。長年一緒にいたから僕は彼女のささいで大きな変化を見逃さなかった。まいちんはこれから綺麗になって、女になって、恋をするのだ。素敵な洋服も着る。周りの目なんて気にしないでいい人になる。おもしろいだけの人生をやめるのだ。僕は「いいね」と言って部屋を出て、自分もそろそろだな、と思った。

あの日から5年以上たった今、彼女はとてもきれいな女性になった。そして僕はカミングアウトして、『やる気あり美』を始めて、最近は筋トレとかしている。切にモテたいのである。求められる役割を生きるだけなんて、もういい。求められていることしか仕事にならないし、求められないと恋は成立しないし、求められなくては自信も生まれない。それは全部真実だ。だけど、僕らに必要なのは生きがいだから、まいちんのダサいTシャツを着て踊る、笑える背中を思い出して今日も頑張ろうと思う。まいちんにさっき「あのDVDどうしたの?」と連絡したら「メルカリで売ったわ」と言われた。彼女はどんどん先にいく。僕も追いつかねばだ。

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