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多様性

連載 | 標本バカ

生け捕りと捕殺

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「捕殺ワナは残酷である。生け捕りワナは人道的である」。そういうものかな、と思った。

フィールド調査に出る機会がなくなってきた。標本材料はこの世にほぼ無限に存在しており、どこかで誰かが得た動物の亡骸は常にある。そしてその一部が僕のところに届けられる。これで十分博物館の標本は充実する。

モグラやネズミの捕獲許可も、2018年度はこの時期まで取得していなかったが、ある生物相調査の関係で申請することになった。博物館の調査では捕獲した動物は標本として保管される。現時点でこの場所にその生き物が生きていたという、動かぬ証拠だ。それが目的なので捕殺ワナを使用して、捕獲したネズミやモグラ類はすべて標本として、形態学的調査を行った後博物館に保管する旨を申請書に書いた。

ここで待ったがかかった。捕獲に使用するワナは生け捕り用のものがふさわしく、捕獲した個体は適切な致死処理(いわゆる安楽死)を行うように、とのことである。少々驚いたがこういうことだろう。「捕殺ワナは残酷である。生け捕りワナは人道的である」。そういうものかな、と思った。「生け捕り」という言葉は聞こえがよいが、実は残酷である。生け捕りには箱や籠型の閉じ込め型のワナを使用するが、運悪く入ったネズミは閉鎖環境の中で一夜を過ごすこととなる。長時間のフライトで狭い座席に押し込められた経験がある人なら、そのストレスを多少は推し量ることもできるかもしれない。会話の相手も、キャビンアテンダントも、食事もなしである。ファーストクラスのワナが開発されれば別だろうが。

捕殺ワナは餌に飛びついたら、それまでの一生が走馬灯のようにということもなく死に至る。標本にする、すなわち殺すことが前提にあるのだから、できるだけ肉体的・精神的苦痛を伴わないようにするのが、本来の人道的な処置だ。日本哺乳類学会が公表している標本の取り扱いに関するガイドラインにも、捕殺ワナは推奨される捕獲器具と明記されている。こう説明したところ、捕獲許可を認めてくれた。

「安楽死」という言葉がよくない。安らかで楽な死に方なんてあるのだろうか。『大英自然史博物館』の哺乳類研究者、オールドフィールド・トーマスは限りない哺乳類を収集して、2000以上の新種記載を行ったスーパーマンだ。だが彼は妻が亡くなった翌年、失意のうちに自殺した。彼は「安楽死協会」の会員だったというが、彼が選んだ自殺の方法は拳銃で自らを撃ち抜くものだった。それも博物館の研究室で。自身の愛すべき標本に囲まれて、最も苦しまない方法で命を絶った彼の行為は、まさしく安楽死だったかもしれない。

ワナにもいろいろあるが、最悪なのはネズミの捕獲にも使用される粘着テープの一応生け捕りワナで、餌に引き寄せられたが最後、身動きが取れずに腹を空かせて死に至る。これを使って捕獲したネズミの死体をもらうことがあるのだが、粘着物をはがすのは困難で、出来上がった標本も美しくない。

僕が使用するパンチュートラップは、「パン」とはじけて「チュー」と瞬時に捕殺する。捕獲効率もよく、小哺乳類を調査するには最適の道具である。捕獲したものはドブネズミだろうが何だろうがきれいに標本にしてやろう。

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