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多様性

連載 | リトルプレスから始まる旅

MATSUOKA!

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 今回紹介するのは、写真家・南阿沙美さんの『MATSUOKA!』。

 「物語とか、想いとかを重ねて、何が写っているのかわからない写真はもうやめて、ただ写真で全部ぶっ飛ばすような、ヒーローの写真が撮りたい」と思って撮り始めた。

 ヒーローといえば男性を思い起こすけど、今回の被写体は女性。

 黒いビキニの女性が乗っている赤いオープンカーのイラストが描かれたベージュのTシャツに、青色のジャージー素材の短パン。黄色い首タオルとピンクのスニーカー。

走る、ヒーロー。
走る、ヒーロー。

 その彼女が、草むらに分け入ったり、未来的な建物を舞台にジャンプ。波間で斜めに跳び、森を駆け抜け、物陰に潜む。そして決めポーズ。走り姿はカッコよくて、表情も凛々しく、そこに笑顔はない。

やっぱりヒーローはカッコいいなあ。

 ところが、これらの写真から違和感をずっと持ち続けることになる。

 本を読むことは違和感を感じることだと思う僕は、このザワザワとする感触が落ち着かず、それゆえ、楽しくなってくる。

 なぜ、この体形の女性が被写体なのだろう。

 ヒーローだけど、敵も、敵の影さえ見えない。何と戦っているのだろう。シーズンのスキー場でもTシャツ、短パンなのはなぜ? 走る姿が妙に決まっているのも不思議。そもそもどうしてこんなに自信ありげなのだろう。漂う真剣さは確かにヒーローそのもののカッコよさがあるように見える。

走る姿が妙に決まっている

 感じる違和感は、ヒーローというものから連想するもの、ジェンダーや、アート、写真という表現、それらに対する、こうであるはずだ、こうでなくてはいけないという先入観から生まれているように思う。

 僕にとって『MATSUOKA!』はとても魅力的に見えるが、価値を見出せない人もいるかもしれない。その逆の場合もきっとある。

 好きか、嫌いかということも重要であることはわかっていても、それ以上に、心を動かしてくれる表現を大事にしたい。

 南阿沙美さんの次作は、『島根のOL』。

 被写体がヒーローからOLに変わって、どんな違和感を感じさせてくれるのか、楽しみだ。

全部ぶっ飛ばすようなヒーロー

『MATSUOKA!』発行人から一言

 サイズはリトルではなく「老若男女に届ける」という大きな野望のもと制作した一冊ですが、今回、リトルプレスとしてご紹介いただくことをお許し(?)ください。写真展「MATSUOKA!」が9月18日まで鳥取県・湯梨浜町の『汽水空港』で開催中。9月23日〜10月12日は静岡県三島市の『ラーメンやんぐ』で開催します。ぜひご来場を。

『MATSUOKA!』
全部ぶっ飛ばすようなヒーローの写真集。

著者:南 阿沙美  デザイン:佐々木 俊  編集:高橋直貴  発行:Pipe Publishing
2019年5月発行、175×256ミリ(152ページ)、3024円

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