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多様性

連載 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか

無人社会

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 無人社会。人間不在の社会はSFで描かれる世紀末のよう。あるはずのない絵空事。ただし、人間にとっては、なのだが。

 2018年1月、アマゾン・ドット・コムが米シアトルに無人のコンビニ『Amazon GO(アマゾン・ゴー)』を開業し、無人店舗がスタンダードになる未来への号砲が鳴らされた。人工知能搭載の無人レジが設置された店舗。出入りや決済にはスマートフォンやICカードを利用。店内にあるカメラは誰が何を何個買ったかを認識し、盗難防止にも抜かりがない。人工知能が店内のお客の動きを分析し、商品陳列等のマーケティングを自動で行う。無人店舗を運営するためのテクノロジーは次々と更新を重ねる。

 日本の上位コンビニ3社の約5万店舗を無人化した場合、年間で1兆円以上もの人件費が削減されるというシミュレーションは、無人化が店舗経営の伝家の宝刀になることを示唆する。お客にとってもレジ待ちのストレスがなくなるので、店舗が無人化する流れは止まらない。

 日本の生産年齢(15〜64歳)は減少の一途をたどり、出生中位推計の結果によれば、2029年・2040年・2056年にはそれぞれ7000万人・6000万人・5000万人を割り、2065年には4529万人となる(『国立社会保障・人口問題研究所』発表の予測)。

 無人レジと無人店舗の普及によって、既存の仕事は多数消滅する。しかし、生産年齢人口が激減する国においては、人工知能やロボットが仕事を担わないと不足する人間労働力をカバーできない。仕事を奪われることへの警戒がおこがましいくらい、補ってもらわなければ成り立たない環境になる。

 無人化は店舗にとどまらない。銀行や病院の窓口、自動運転による各種交通機関、空港の出入国、物流や工事現場。空を見上げれば飛び交う無人航空機ドローン。多くの領域で無人化は加速し、人間による人間のための仕事へ人間の再配置が試みられる。合理を極めるならば、あらゆるものを自動で稼働させ無人化へと突き進む。人工知能やロボットが提供、人間が利用する側へと過剰にシフトし、人間が減少、もしくは消滅してすべてがテクノロジー内で完結する様を妄想してみる。複雑な気持ちにはなりつつ、無人社会はイメージできなくもない。

 もっとも、人間が好んでそんな選択をするとは思えない。人間ファーストの観点に立てば、人間の都合でバランスのよい落としどころをつくるはずだ。だが、地球ファーストに回ってみたならば、無人社会は必ずしもネガティブともいえない。「我が星の環境を汚す主体がいなくなり、自然に優しく過ごしてくれる人工知能やロボットと共存したほうが望ましい」というのが地球の本音かもしれないからだ。人間にとっては非情な本音だが、耳が痛かったりもする。

 無人レジと有人レジが併存している店舗で、利便性が高いはずの前者より後者のほうに長い列ができるという皮肉な現象がある。なぜ有人レジに並ぶのかを問われると、「同じお金を払うなら人にやってもらったほうが得だから」と回答する人が多数いたという。

 こんな非合理的な感覚は、人間が便利さの中に収まりきらないことを物語る。仮に人間ファーストが正解ではなかったとしても、人間は人間の気配に生を感じ、生きる活力とする。人間の気配なき社会、無人社会は、人間の生気を際立たせる社会でもある。

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