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世界80億人の食料を確保しつつ、 未来にわたって生存可能な地球環境を保持していくために ― 「G7宮崎農業大臣会合」で描かれた「持続可能な食料システム」とは?

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先進7か国の首脳が世界経済や地域情勢、地球規模での様々な課題について意見を交換するG7サミットが5月19日から23日まで広島で開催されます。また、それに先がけて気候・エネルギー・外交・農業・教育など各分野ごとの関係閣僚会合が日本各地で行われています。なかでも注目を集めたのが日本有数の農業県・宮崎で開催された「G7宮崎農業大臣会合」です。本会合では、食料安全保障に関する話し合いが行われました。全人類が直面する「食」に関する問題に対してG7の担当大臣や専門家たちはどのような議論を交わし、どのような未来を描いたのでしょうか。ここでは4月22日と23日に開催された本会合についてレポートします。

目次

世界的な関心事となっている食料安全保障について、2日間にわたって意見交換が行われる

各国の代表者が顔をそろえたG7宮崎農業大臣会合では、まず冒頭に野村哲郎農林水産大臣から「長期的に食料を確保し、農業や食料システムを継続できることが重要であり、世界をリードするG7会合で真剣に議論しなければならない」と力強い意志をこめた挨拶がありました。

感染症の蔓延やウクライナ危機を経て現在、世界では8億人を超える人たちが飢餓に苦しんでいる現状があります。また、先進国においても物価の高騰や食品供給の停滞が身近に感じられるようになりました。こうしたなか、時代に即した食料システムをどう構築し、食料危機を克服していくか。野村大臣が「歴史のターニングポイント」と語った国際会議が開幕しました。

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農業ってカッコいい!——農業のイメージを刷新し、身近に感じてもらうために。 情報発信やイノベーション創出などのアイデアを地元・宮崎の高校生たちが提言

本会合の冒頭で登場したのは、地元・宮崎の高校生たち。G7宮崎農業大臣会合へ向けて、県下14の高校、20名の学生が協力して、各国代表への提言を準備してきました。若者らしいアイデアや情熱を盛り込んだプレゼンテーションビデオが紹介され、3つの提言が伝えられました。
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ひとつは、食料を取り巻く様々な格差をなくす「ゼロイノベーション」です。気候変動が世界の食料安全保障を脅かし、先進国と途上国との間に格差を生んでいる現実があります。途上国に共同研究や農業支援などを提供する一方で、途上国の地域に根差した伝統的で実践的な農業からの学びも多いはずです。

ふたつ目は、生産者と消費者をつなぎ、若者に農業に対する前向きな関心を持ってもらう働きかけをおこなうこと。デジタルツールやSNSを活用して、生産現場の姿、農業の魅力を若者たちに届ける「クールアグリキャンペーン」の提案です。世界の未来を担っていく“農業はカッコいいんだ!”ということを発信していきたいと訴えました。

最後のひとつは、食に感謝することが当たり前になるための農業体験です。飢餓に苦しんでいる途上国の人たちがいること、一方で多くの農産物や食品が流通の過程で破棄される食品ロスという問題があることなど、農業や食を身近に感じるきっかけづくりを行いたいというものです。

これら高校生からの提案は、出席した各国代表らに大きな感銘を与えたようでした。また、高校生からの質問として投げかけられた農業の効率化・経済化と環境の両立といった課題に対して、各国の代表から示唆に富んだ様々な回答が送られました。

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強靭で持続可能な食料システム構築のための「具体的な施策」について各国代表が議論

高校生の提言に続いて、野村農林水産大臣のイニシアチブのもと、共有している課題「強靭で持続可能な食料システム」の構築に必要な具体的施策について、提案や議論が行われました。

「みどりの食料システム戦略」の一環として取り組む遠隔地循環型の取り組み

議長国である日本は、「みどりの食料システム戦略」の一環で実施している具体的な取り組みとして、畜産農家から出る家畜の排せつ物を利用したたい肥の活用事例を紹介しました。たい肥をペレット化することで、利用範囲を飛躍的に広げることが可能となりました。逆に、たい肥を利用している遠く離れた東北地域の稲作農家から出る収穫後の稲わらを、1000キロ離れた九州に運び、和牛の飼料にしています。こうした遠隔地のおける耕畜連携によって化学肥料を削減するとともに、スマートイノベーションを組み合わせることで、生産資材の高騰に対処している事例を紹介しました。

食料危機や環境保全に対する共通認識と国際協力の必要性

参加各国の自国での取り組みが紹介されたなか、共通認識として再確認されたのは、ウクライナ情勢が欧州、アフリカ、中東等をはじめ世界の穀物供給に大きなダメージと混乱を与えているということ。そのためにも、G7各国が協力して目の前の危機に対応するとともに、長期的な視点での農業の生産性向上と収益の担保を実現し、同時に環境への負荷軽減、生物多様性の確保を進めていかねばならないことが確認されました。また、これら相関している課題に直接的に関与できるのが「持続可能な農業」であるということが全会一致で確認されました。その実現へ向けて、国際的なパートナーシップの強化や民間企業の参画促進、関連事業への国家投資が必要であると、各国リーダーが意見を述べました。
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世界の農業政策における「歴史的ターニングポイント」に。「閣僚声明」の採択、農業大臣会合として初の、声明実現へ向けた行動指針「宮崎アクション」

2日間の本会合における議論を経て、G7宮崎農業大臣会合は閉幕しました。コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻といった背景のもと、食料安全保障に対する国際的な危機感が高まるなか開催された今回の農業大臣会合を経て「閣僚声明」が採択されました。

声明では、ロシアのウクライナ侵攻を非難するとともに、将来にわたって安定して食料を供給するためにも、既存の国内農業資源を持続的に活⽤し、貿易を円滑化しつつ、地元・地域・世界 の⾷料システムを強化する道を追求し、サプライチェーンを多様化することなど、生産性、環境性、経済性がそれぞれ補完し合う「持続可能な食料システム」へ向けて協調して取り組むことが、声明に盛り込まれました。

また、農業大臣会合としては初めて、声明を実現するための具体的な行動計画である「宮崎アクション」が採択され、幅広いイノベーションの導入や温室効果ガス削減に向けた取り組み強化等が確認されました。

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閉幕にあたっての共同記者会見で、野村農林水産大臣は、「農業の生産性向上と持続可能性の両立という課題に向けて、G7各国が足並みをそろえてメッセージを打ち出すことができた。まさに歴史的なターニングポイント、将来へ向けての第一歩となった。今回採択された閣僚声明や行動指針をG7以外の国にも紹介して、各国の理解と協力を得ていきたい」と力強く述べました。本会合での成果は、G7広島サミットでの議論にも反映させていくとのことでした。
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宮崎の名産品である完熟マンゴー園を視察する各国の代表者たち。
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県立宮崎農業高校を訪問したときの様子。実際に農機具などを見て、現地の農業に触れていました。
来年のG7各会合は、イタリアで開催が予定されています。昨年のドイツ、そして今回の宮崎で確認された「持続可能な食料システム」に向けた国際的な合意と行動計画「宮崎アクション」が、どのように世界の食料事業を改善していくのか、注目していきたいと思います。

ソトコトオンラインでは、G7農業大臣会合の開催に合わせて、開催地の宮崎県で、さまざまな先進的な農業・畜産業を展開している生産者さんへのインタビュー記事を公開しています。こちらもぜひ合わせてご覧ください。

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