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特集 | かっこいい農業 これからの日本らしい農業のあり方 !

科目名は「農業科」。喜多方市の小学生たちが授業で学んでいます。

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福島県喜多方市の小学校では、国語や算数、体育などの科目と同様に「農業科」の授業が年間通じて市内の全17小学校で行われています。これまで2万人以上が学んだという、農業の授業を覗いてきました。

目次

農業から得られるさまざまな気づき、学びを信じて。

2006年に文部科学省の特例校制度の認定を受けスタートした喜多方市の「農業科」。途中から「総合的な学習の時間」の中に組み込まれたが、今も地元の多くの学校では「農業科」の名称で授業は行われている。

農業科の内容は、文字どおり「農業をすること」。稲作と畑作を基本に、年間を通じて35時間程度が充てられる。総合的な学習の時間は小学3年生以上ではあるが、喜多方市では1年生のときから、学校行事や生活科などの時間を通じて農業に触れるという。

なぜ、喜多方市は農業だったのだろう。喜多方市教育委員会課長補佐指導主事の齋藤勝芳さんに話を聞いた。「喜多方市は農業が基幹産業なので、農業を生かした教育ができないか、ということで推進したと聞いています。とはいえ、農業の従事者を増やすために農業科があるわけではありません。結果的に農業に興味関心を持つ子が増え、将来農業従事者になってもらえたらうれしく思いますが、あくまでも農業科を通して豊かな心、社会性、主体性、という3つを育むことを狙いとしています」。

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喜多方市教育委員会課長補佐指導主事の齋藤勝芳さん。
農業から学ぶことは多い。食べものがどう育まれているのか、自然に感謝すること、協力することの意味、命とは。感性の豊かな時期に、農と接することの意義は大きい。「過程を自分が経験するからこそ、農業や、作物が育つためにはたいへんな苦労があることがわかります。大勢の人の助けも必要ですし、自然の脅威も理解できるでしょう。将来、農業には従事していなくても、なにか人生の岐路、物事を判断するときに必ず農業科で学んだことが生かされると信じています」。

自然の中、農業を体験する子どもたちは、とにかく楽しそう!

実際に農業科の様子を見学させていただいた。10月初旬の喜多方市立関柴小学校の稲刈りのタイミング。田んぼには、5・6年生が1年をかけ、籾まきから始め、田植えなどを経て大きくなった稲穂が広がっていた。鎌を使い稲の根元から刈り取っていく子どもたち。農業支援員と呼ばれる、授業をサポートする地域の農家さんの指導のもと、刈り取った稲をまとめ、脱穀するために機械に運んでいく。「稲の収穫は好き! やった感があるから」「つくるのは大豆がおもしろい。醤油、味噌など、バリエーションがあるから!」と、子どもたちは実に楽しそう。
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農業科の授業風景。この日は喜多方市立関柴小学校の5・6年生が合同で稲刈り。後日収穫祭を開催し、収穫したお米を農業支援員さんたちとともに味わうという。
関柴小学校教論であり農業科を担当する若菜淳一さんに話を聞いた。「子どもには体験、経験が必要。ここは農村の学校だけど農業と関係ない仕事をしている家も多くて、周りに田んぼがあっても農業のことを知らない子どもは意外と多い。農業にはたくさんの仕事があるってことを知ってほしいし、それをわかってもらえれば食材への感謝の気持ちも出ると思いますね」。6年ほど前から農業支援員として関わる山中覚雄さんは、「私は50年以上前の卒業生。支援員さんたちはみんなそう。こういう時間が、風景が子どもたちの記憶の一部になったらいいなと思っています。自分も農家の息子。でも、あんまり興味がなくて一度は地元を離れて就職をした。そんな時、ある美術館へ行ったらミレーの『種をまく人』が展示してあって、それを見たら小さいころの親父とダブッて、『ああ、帰んなくちゃって』。今日のことが、どこか頭の片隅にでも残ってくれたらいいですね」。
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農業支援員として関わる山中覚雄さん。「素足で泥だらけになって田植えする感覚。そういう感覚、経験を覚えていてくれたらうれしい」。

農業、そして子どもの可能性を信じて。喜多方市の農業科のこれから。

実際の成果についてはどうだろう。「教育委員会が年に一度、農業科の作文コンクールを開催。書かれている言葉から効果を見ている状況です。たとえば『落花生は地下に実る』って作文で書いた子が2年前に大賞を取りました。落花生って地上にできると思う子どもが多いのですが、実際は地中。栽培している学校では、ピーナッツとして食べられるようになる工程なども学びに取り入れていて、それをちゃんと理解してくれていると感じました。里芋の葉の撥水するような構造に疑問を持ち、乳製品のふたなどに採用された技術の根幹にあると知り、ほかの産業との関わりに気づいた子どもも。また、野菜を最後まで自分で育て収穫したという体験から、『単なる野菜ではなく、命をいただくという観点に変わった』と書いてくる子どももいました」と齋藤さん。農に触れることで、普段の学校での学び以外の気づきを得られるのだろう。
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関柴小学校の敷地内にある畑。サツマイモ、大豆、綿花などを育てている。
農業科の取り組みが始まって15年。今後の展望についても伺った。「学校給食の中の地元産の食べものの割合を増やしていく取り組みを進めています。農業がこの地域の基幹産業であることを伝えつつ、同時に子どもたちに安心・安全なものを食べさせたいという気持ち。この2つの思いがつながった施策です。それともう一つ。農業科の中で、利潤を生み出すための考えや学びを取り入れていきたいという展望があります。自分たちが育てたものを収穫する喜び、食べる喜びはもちろん、それを販売し新たな価値に変わるという気づき。今は農業で利潤を生み出す視点、サイクルを教える時代なんじゃないかなって」。
photographs & text by Yuki Inui
記事は雑誌ソトコト2022年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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