翌年の仕込みのタネ

連載 | やってこ!実践人口論 | 29 翌年の仕込みのタネ

2021.12.23

「実践人口」を増やすための合言葉が「やってこ!」である。「やってこ!」が世代を超えたつながりを生み、ローカルをおもしろくする。不安と好奇心半分でタネを蒔いてこ!

 経営者の仕事は、企画&営業を実践の場で繰り返すことに集約される。もちろん数字のことだって考えるし、銀行に通って指が痛くなるまで判子を押すことも珍しくない。残念ながら、私が旗を振っている『Huuuu』は新規の仕事依頼が極端に少なく、友人・知人からの紹介がほとんどだ。その理由として「編集のわからなさ」+「人生のわからないを増やす、を企業理念に掲げるわからなさ」が良くも悪くも作用しているのだろう。だって、わからないものはわからないのだから。わかったフリをして、お金を貰うほうが簡単なのはわかる。

 こんなスタンスのため、クライアント候補の人たちに会社の性質をわかってもらうまでには、時間と距離の詰め方が必要となる。なので自ら身体を現場に運んで、人間同士のコミュニケーションが欠かせないわけだが、これまで信条的に実践してきた「仕事のタネ蒔き」にこそ、会社がそれなりに成長しているワケがあると思っている。小さな規模で胸を張れる数字ではないものの、5期目の決算を終えて「スーパーホワイトですね!」と、税理士さんから太鼓判をもらったばかりだ。

2022年のカギは、移住4年目の「長野県」が握っている。

 1つ目のカギは、初のオフィス設立だ。野良犬のように自宅や知り合いのオフィス、コワーキングスペースを渡り歩いてきた我々だが、遂に“城”を構えることになった。場所は、長野市・善光寺の表参道から少し横道に逸れたビル。リノベーションを軸とした施設『R-DEPOT』で、長野市で古民家改修を長年仕掛けてきた『MYROOM』の倉石さんが手がける。まちづくり文脈のため、クリエイターだけでなく、行政職員や銀行員、不動産屋、建築士、大工さん、学生など、多種多様な人たちが出入りする想定。そこにローカルの編集を専門としている我々が、ドンッとオフィスを設立する。
 東京のスタッフが定期的に通って、社内コミュニケーションの性質を引き上げたいし、移住希望の知り合いをどんどん巻き込んでいきたい。また、小さなコワーキングスペース的な機能も擁する。閉じたオフィスではなく、人と空気が循環する空間を目指して、コンセプトは『窓/MADO』とした。タネ蒔きとして約500万円の費用は安くない。編集を軸としたハードとソフトの提供は、必ず価値を生むからこそ、いっちょやってみんぞ!

 そして2つ目のカギは、「サーキュラーエコノミー」の編集。SDGsとともに脚光を浴びつつあるサーキュラーエコノミーの概念。「暮らし×経済×自然」を前提とした循環型の取り組みは、ボトムアップ的なおもしろさを内包していて性に合う。今後、長野市で運営している店舗『シンカイ』で、全国のサーキュラーエコノミー関連のいい商品をキュレーションしていきたいと思っている。

 これまで全国で取材してきた取り組みを含め、長野県の単位でも「元々やってるんだよね」の視点が実に多い。移動の制限が行われていた江戸時代はもちろん、集落単位で目の前の自然でやりくりしていた中山間地域の歴史に触れたらわかる。「やるしかねぇからやっていた」。例えば、佐久鯉で有名な佐久地域。浅間山から流れる川の流域で鯉の養殖をしていて、キレイな水と早瀬のパワーが鍛え上げる。そして田んぼに鯉を放ち、稲穂につく虫を食べさせていたのだとか。これぞサーキュラー! 必要に駆られた現実と工夫を汲み取りつつ、長野県を舞台にサーキュラーエコノミーの概念を咀嚼し、実践の中で学びながら、自分なりに編集していきたい。めちゃめちゃおもしろいから。この蒔いたタネが芽吹くには数年かかるかもしれないが、先にリアル店舗を持っていることの優位性もまた仕込みの延長だったんだなとしみじみ感じている。無理してやっていてよかった。

 そのほかにも、長野県内の有名な企業や場所にまつわる商業施設プロジェクトにも関わっている。チームディレクションからコンセプト立案、施設のコピーやネーミング、PRの視点を踏まえた情報発信まで。出版レーベルも立ち上げるし、プロダクト開発の話も進んでいる。いわゆる編集プロダクションの役割を超え、非合理な実践を5年間積み重ねてきたからこそ、「なんだってやる!」の結晶が少しずつ形になっている気がしてならない。2022年は40歳の節目を迎えるが、思考を止めずに動き続けたい。「第二次やってこムーブ」はすでに始まっている。

text by Huuuu

徳谷柿次郎(とくたに・かきじろう)●1982年生まれ。大阪出身の編集者。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社『Huuuu』の代表取締役。長野と東京の二拠点生活を経て、長野に移住。どこでも地元メディア「ジモコロ」の編集長として、全国47都道府県を飛び回る。地域特有の課題を情報発信の力でサポートしている。趣味はヒップホップ、温泉 、カレー、コーヒー、民俗学など。

記事は雑誌ソトコト2022年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。