「やってこ!」は続くよ、どこまでも

連載 | やってこ!実践人口論 | 最終回 「やってこ!」は続くよ、どこまでも

2022.04.23

約3年間にわたって「実践」を合言葉に書き進めてきた本連載。なぜ、「実践」にこだわるのか? 秘めたる思いの根底には、過去に悩んで独りよがりなコンプレックスの鎖に縛られていた経験があるからだ。停滞からの反動。26歳での上京、35歳の独立起業、そして40歳を迎える今年は豪雪地帯に土地と家を買った。ひとつひとつが決断と実践の連なりから成り立っている。

生まれ育った大阪市も、上京した東京も都会だったが、全国のローカル行脚を始めてから人生の行動指針がくっきりと定まってきたように思う。編集者という仕事は、好きな土地で好きな人に会える。1時間強の取材は、その人がその土地で生きてきた証しを辿るようなものだ。彼ら、彼女らの価値観が大きなうねりとなって、自分自身の心を揺さぶるような衝撃がいつもあった。

ローカル企業に学ぶ実績の足跡

特需ともいえる高度経済成長とバブルを経験した世代が残した事業は、いま全国で同世代の実践者たちが知恵をひねり出しながら新しい価値へとつなげている。長野県松本市に本社を構える『藤原印刷』も同様だ。1955年(昭和30年)創業。いつか会社を継がなければいけない……。そんな呪いを肩に乗せながらも、藤原隆充さん・章次さんの兄弟が、必死に取り組む姿を目の当たりにするたびグッとくる。彼らは言い訳をしない。どうやれば印刷会社の価値をつくれるのかをとことん考え抜いて実践している。私は家業や家族といったものに対して引け目を感じるぐらい希薄な生い立ちだが、全国の地場で信頼と実績を積み上げるスタイルは、取材の中で何度も感動してきたし、こう在りたいとも思わされてきた。家族ってええやん……。

そんな「do or die」な精神性は、人間が大きな役割と責任を背負ったときに生まれるパワーを信じているからこそ輝く。不安が植物の成長を促すように、人間もまた不安が尽きない生き物なのだろう。役割と責任をポジティブに捉えるならば、手を挙げなければつかみ取ることができない。民主主義が生んだ行動と選択の自由には、もちろん見えない壁もあるけれど、手を挙げれば挙げるほどに極上の経験値を積むことができる。ものすごい仕組みだ。世の中には行動に移したくとも移せない人がいるのは、過去の自分の体験から十二分に理解しているが、だからこそ会社やコミュニティ、社会システムの中で安心して挑戦できる環境が必要なのだと改めて伝えていきたい。

利他的な実践は人を育てる

長野県に移り住んで今年で丸5年。一年の半分以上を知らない土地の夜に抱かれてきたが、コツコツと積み上げた「実践の種蒔き」はもう芽吹き始めている。上田市で生まれ育った20歳の長崎航平くんに、うちで運営しているお店『シンカイ』を託した。飯山市で新たな環境を求めていた29歳の桒原英里子ちゃんに、最近立ち上げたコミュニティスペース『MADO』のオーガナイズを任せた。出会ったときは引きこもりの中学生だった当時14歳の京野桜大くんは、私との出会いをひとつのきっかけにしてクリエイターとして活躍している。つい先日、ウェブメディア『ジモコロ』のインスタマガジン『Re:youth』編集長になってもらったのは、次の時代を見据えた実践のバトンでもある。

たった3年、されど3年。現在17歳になった彼は実践の大海原に飛び込み続けた結果、大きな仕事(会社の売り上げを救うレベル!)を引っさげて戻ってきたのだから驚く。こんな出世魚いる? この時ばかりは「やってこ!×2」と声高に叫びながら、己の魂を削ってきて本当によかったなと思える。30代の3年間と10代の3年間は、認識している時間感覚がまったく違うといっていいだろう。長野の『シンカイ』で人の縁で出会い、東京のクリエイティブ業界で揉まれた彼は経済の激流を遡上することができたのだ。こんなうれしいことってないよね。利他的な実践は誰かの人生に影響を与え続ける。だから、みんな行動しよう。隣人を愛そう。おれはずっとやるよ。

会社をつくって5年経ったら仲間が増えた。

とくたに・かきじろう●1982年生まれ。大阪出身の編集者。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社『Huuuu』の代表取締役。長野と東京の二拠点生活を経て、長野に移住。どこでも地元メディア「ジモコロ」の編集長として、全国47都道府県を飛び回る。地域特有の課題を情報発信の力でサポートしている。趣味はヒップホップ、温泉 、カレー、コーヒー、民俗学など。

text by Huuuu

記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。