もしあなたが、茅葺き屋根の古民家を相続したらどうする? 取り壊して新たな家を建てるか、古民家のよさを生かしてリノベーションするか。屋根の茅を降ろして今どきの屋根にするか、茅葺き屋根を維持するか。考えてみると、茅葺き屋根の維持や費用について、分らないことがたくさん出てきそうだ。千葉県南房総エリアで、冬の期間だけ茅葺き職人のワラジを履く3人がいる。茅葺き屋根を維持しながら葺き替えを依頼する人と、依頼されて葺き替える人に、茅葺きの作業や金額、この仕事を始めたきっかけについて話を聞いてみた。
そもそも、茅葺き屋根の長屋門を維持し続ける理由とは? 「百姓屋敷じろえむ」の場合
「昔は自分で茅を刈りに行ったのよ。背負子(しょいこ)をしょって、30分かけて山を登って、刈った茅をケーブルで降ろして、軽トラに積んで。茅刈鎌で刈っていたのが草刈り機に変わっていって。茅を束ねるときは、丈が長いから茅とダンスしてるみたいになって束ねてたよ」

そう話すのは、茅葺きの長屋門を維持し続けている百姓屋敷じろえむの稲葉彰子さん。20年前に長屋門の南面全面を葺き替え、その後も何度か「差し茅」という方法でメンテナンスを行っている。今回は南面右側の差し茅を1週間で終え、左側の作業を行っているところだ。
親方を務めるのは、岡巌(おかいわお)さん。南房総エリアで茅葺きを行っていた70~80代の職人が8人ほどいたとき、2年ごとにこの長屋門の手入れをしに来ていたという。20年前、茅を運んだり掃除したりする手元として働いたのが、この仕事を始めたきっかけだった。 2010年、この長屋門で作業を行ったときに初めて、職人として仕事をしたという。あれから12年、当時の親方や職人たちはみんな引退してしまい、岡さんが親方を務めるようになった。

長屋門での作業を見上げる施主の稲葉芳一さんに、なぜ茅葺きを維持し続けているのかを聞いてみると、
「残していると観光資源になる」
という答えが返ってきた。たしかに、百姓屋敷じろえむといえばこの茅葺き屋根の長屋門が印象的だ。
茅葺き屋根のメンテナンス費用はどれくらい?
4間×13間(52坪)ほどある長屋門の屋根。今回の作業にいったいいくらかかったのか、ざっくりとした費用を稲葉さんに聞いてみた。

茅代:25万円(500束ほどを施主が用意)
手間賃:60万円(職人が用意した資材費含む)
これが今回の差し茅にかかっただいたいの金額だが、この金額を払えばどこの葺き替えでもできる訳ではない。なぜなら、茅は南房総エリアで刈り取りを行っている会社から購入しているので、運搬費があまりかからない。使用している足場は稲葉さんが所有しているものなので、これにもお金はかかっていない。竹を使うときも、稲葉さんの敷地の竹を使っている。
なので、都内で同じ作業をするとしたら、資材の運搬や職人たちの滞在費、足場代など、金額はもっと膨れ上がるだろう。そして、メンテナンスのタイミングでかかる費用も違ってくる。稲葉さんは毎日茅葺き屋根の状態を確認しているという。
稲葉さん「今やっとけばいくらもかかんないなとか、これは早くやんないととか、見極めてる。茅の質によっても持ちが違うし、茅にはグレーゾーンがいっぱいあるんだよ。台風で傷みが酷かったから、今回はがっちりやってもらった。これで10年はさわんない」
次のページでは、「新築で茅葺き屋根の家は建てられるのか?」を紹介する