デザイナー・関田浩平さんはInstagramで「月刊カレンダー」を公開しています。ぱっと見は普通のデザインですが、随所に関田さんの技術とこだわりが。そして実はこれ、全国の『セブン-イレブン』で出力できるという画期的な仕掛けも。“紙もの”を届ける新しいデザインのカタチがここにあります。
懐かしいカレンダーが持つ 新しい可能性。
関田さんはカレンダーを毎月Instagramで公開する。さらに興味深いのは、全国の『セブン-イレブン』店内にあるマルチコピー機から「プリント」↓「ネットプリント」を選択し、Instagramの投稿文に書かれたプリント予約番号を入力すれば出力できるという仕様になっていることだろう。サイズはA3、料金は100円だ。
配信型の「月刊カレンダー」に 取り組み始めた背景。
ネットプリントのメリットの一つに品質がある。どこでプリントしてもほぼ同じ仕上がり。デザイナーとしてクオリティを担保できるのはうれしい。コストをかけずに同じものを各地の人に手渡せるのも大きな魅力であり、新たな発行形態ともとれる。
もともと、ネットプリントに可能性を感じていた関田さん。「定期的に見たくなるようなものを……」と思案する中でカレンダーを思いついたという。「ちょうどひと月ずつで、受け手側も毎月100円だったら『いいかな』と思ってもらえるかなって」。
ちなみに関田さんが勤めていたのは、グラフィックデザイナー・山野英之氏が代表を務めるデザイン事務所『TAKAIYAMA inc.』。法人化前の2007年から12年間勤め上げたという関田さん。カレンダーの細部に見て取れる実力は、ここで培われたものだ。
他方、さまざまなデザインを手がけてきた関田さんが、なぜ今”普通“のカレンダーだったのか。
「エッジの利いたデザインも好きなんですが、僕はより機能に特化したものをつくりたかった。カレンダーって、美しいから貼ることもあるかもしれませんが、求められているのは基本的には機能。今日が何日かわかるとか、誰が生まれた日であるかを知るとか、”それ“によって人に作用するモノが好きなんです。要素もなるべく減らさず、どんどん足していくようにしています。情報量が多いものをいかにわかりやすく、単純に見せるか。デザインを練習するいい場になるとも思っています。随所にカルチャー的な情報を入れているのは単純に自分が好きだから。そこに個性が出てしまって恥ずかしくもあるのですが(笑)」
ローカルデザインは 地元愛から始まる。
そして関田さんの取り組みは、ローカルとの相性がいいようにも思う。実際、関田さんのカレンダーにも地域の隠れた情報が載っていて(こそっと)、お店や商店街単位などで、活用できる場面を容易に想像できる。「あまり知られていないような、個人的に好きな地域の情報をほんの一行だけ載せているんです。この一行を言いたいがためにつくっているのかも(笑)。実はこのカレンダーづくりは、東京都墨田区に暮らし始めてからのこと。周りには『墨田をよくしたい』という地域を愛する人が多いように思います。自分もそんな人たちに触れ、地元意識が湧き、カレンダーをつくった部分があるかもしれません。そしてこのカレンダーは、本当はどこかの銭湯やパン屋さんなど、地域のお店のメディアとしてつくれたら理想だなとも思っているんです。銭湯なら、休業日や日替わりの薬湯の情報なんかを入れたり、パン屋さんなら、バゲットは何曜日に販売するとか、伝えたいことをわかりやすく盛り込んだら、メディアとして機能するんじゃないかなって。印刷もしてみたいけど、大量に刷るとなるとどうしてもお金がかかるし廃棄も出てしまう。その点ネットプリントは金銭的にも安価で無駄もない。修正があっても更新できるよさもありますし」。
つくり手が暮らす場所は、作品に大きく影響する。それがおもしろさであり個性だ。関田さんのカレンダーの細部には、高い技術と地元愛が詰まっていた。
記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。