茶どころ宇治で作られる中世からの音色が新しい感覚を拓く。

茶どころ宇治で作られる中世からの音色が新しい感覚を拓く。

夏が盛りを迎える頃になるとお寺や神社から賑やかな音が聞こえてくるようになります。心地よい清涼感をもたらす風鈴やお祭りの音。江島和臣氏らによるインスタレーション作品「CYCLEE」はターンテーブルの上に並んだ「おりん」たちがぐるぐると回りながら可憐な音を奏で、これが実に涼しい。この「おりん」は「佐波理」と呼ばれる銅と錫による中世の合金技法を用い、京都府宇治市内にある『南條工房』でつくられています。この「音が涼しい」という感覚はどこからやってくるのでしょうか。


おりんの歴史は古く、チベットやインドでも同様のものを見ることができます。金属の登場は国家や宗教の発生とつながっていて、それまで自然界になかった「金属の音」が響くようになった時、人類はその感覚を、見えない世界や神仏の世界から響いてくる音と感じたであろうことは想像に難くありません。うだるような夏の自然音の中に、ふと見えない空間から差し込む逃げ場のような感覚が呼び起こされる。おそらくこのことがおりんや風鈴の「音が涼しい」と感じることと関係していると思うのです。


宇治という土地は不思議なところで、京都市内にも残っていない中世の古い痕跡をあちこちで目にします。応仁の乱発端の張本人である守護の畠山氏を追放し、住民たちの代表「三十六人衆」が平等院に集い「惣国」的な自治をいた「山城国一揆」の起きた地でもあり、応仁の乱という大混乱も関係して中世以前の古い痕跡は京都市内より宇治などの南側に残っているのです。


近代国家への信頼が揺らぐ危機の時代に、中世の痕跡を残す古い土地が生み出すものが若い世代に新しい感覚を拓こうとしているのは、何かとても暗示的なものを感じます。


そんな室町時代からの茶どころでもある宇治。今年の御抹茶は品質がものすごくよいのだそう。しかし狭い空間に飲食を共にする茶事はどうあっても分が悪く、茶会が自由にできなくなってしまった。そんな中オンライン茶の湯が模索されたり、そもそも茶の湯とは何なのか、という根本に戻って考える思いもよらない流れも生まれています。新進気鋭の茶人・中山福太朗さんはあらゆるものがリモート化されてしまった体験からオンライン企画を次々と打ち出し、「会う」ことの代替品ではない、オンラインでしかできない体験の最大化を狙い実験を重ねています。そこへゆくと、音の世界でも茶の湯が可能なのかもしれません。


中山福太朗さん
中山福太朗さんは、8月29日に法然院で開催される『電子音楽の夕べ』にて、オンライン茶席の新たな実験を行う予定。

インドの占星術では銅は金星、錫は木星、鉛は土星を表すと考えられていました。涼しげなおりんが鳴り響くことで、宇宙の調和が鳴り響く。そんなふうに考えてみると、お寺から聞こえるさまざまな金属の音も、また違って聞こえるのではないでしょうか。

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