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連載 | 田中佑典の現在、アジア微住中

東南アジアかの扉を叩く。ー後編ー

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目次

プラナカンから、アジアの未来を考える。

 シンガポール微住、初日。現地駐在の日本人の友人に、「カトン」という街に連れていかれる。彼から「この近くに観光客に人気のインスタ・スポット的な建物あるよ」と言われるが、その時は軽く聞き流し、ちょうど昼時ということで、おすすめのローカルフード「ラクサ」を食べにいく。

 ラクサは香辛料の効いたココナッツカレーのスープに、エビなど具材がたっぷりの東南アジアを代表する麺料理。ここカトンはラクサの激戦区とのことで、「元祖カトンラクサ」を名乗る『328カトンラクサ』を選んだ。

 彼は英語で注文をしてくれて、ラクサが運ばれてくると箸がなかったので、今度は僕が中国語で「すみません、お箸をください」と伝える。すごくナチュラルに店員さんの言語が切り替わる感じにちょっと興奮する。ラクサは箸を使わず、レンゲでズルズルすすれということだ。日本に帰って「ラクサ・ロス」になるほどここのラクサはおいしかった。

カトン地区にはラクサの2大有名店があり、もう1店は『マリンパレードラクサ』。どちらも美味。
カトン地区にはラクサの2大有名店があり、もう1店は『マリンパレードラクサ』。どちらも美味。

 食後、彼と別れて街を歩く。散歩がてらさっき彼が教えてくれたインスタ・スポットを見にいくことに。クーンセンロードという通りに着くと、鮮やかな色使いに華やかで美しい模様の建物がずらっと並んでいる。見た瞬間、一目惚れだった。

 それがプラナカン建築だった。自分でも言葉にできなかったが、そこにまぎれもない“アジア”を感じた。

有名なクーンセンロードから外れた小道でも立派なプラナカン建築の家を発見!
有名なクーンセンロードから外れた小道でも立派なプラナカン建築の家を発見!

求めてきた”アジア感”の正体。

 僕が求めている“アジア感”とは何なんだろうか。そして一目惚れしてしまった「プラナカン」とはどういう民族なのか。ネットで調べると、"謎の民”、“海峡華人”とそそられる言葉が次々と……。

 次の日から国立図書館に行き、プラナカンについて、関連の書籍を読み漁るようになった。プラナカンとは、欧米列強による統治下にあった(現在のマレーシアを中心とする)東南アジアの各地域に、15世紀後半から数世紀にわたって移住してきた中華系移民の末裔を指す言葉。マレーの言葉で「その土地に生まれた子」を意味する。プラナカンの男性のことは「ババ」、女性は「ニョニャ」と呼ぶ。現在はマレーシア、シンガポール、タイ、インドネシアなど、もともと海峡植民地だった場所に点在している。

 中華系移民といえば華僑が思い浮かぶが、出身地の文化を移民した地で守る華僑とは違い、プラナカンはハイブリッド化して現地に溶け込んでいく特徴がある。さらにプラナカンはプライドと美意識が高く、独自のハイブリッド文化を生み出した。僕がカトンで見た建物や衣服、雑貨をはじめ、「ババ・ニョニャ料理」と呼ばれるプラナカン独自の料理もある。なんと「ラクサ」もその一つだった。

 さらに驚いたことに「ババマレー語」という言語もつくった。図書館でババマレー語の辞書を見つけだした。「ありがとう」は「kamsia」で、福建語(閩南語)という今の台湾語のベースにもなっている言葉にかなり近く、解読できたババマレー語はごくわずかだったが、全く新しい言語というよりは、さまざまな言語を上手に組み合わせたハイブリッド語なのだろう。

 また、ある本ではプラナカンのことを「more Chinese than the Chinese」と紹介していた。たしかに僕がプラナカン建築や食器を見たとき、これまで見てきた中華を超えた“ネオ中華”を感じた。

図書館内は地元民の巨大自習室のようだ。
図書館内は地元民の巨大自習室のようだ。

アジアの“ズレ”を編集する。

 プラナカンの人たちが生み出す文化。しかしその正体は、中国式、ヨーロッパ式、インド式を足したり引いたりしたもので、一から生み出した“オリジナル”ではない。

このシンガポール微住を終えて一つ、確信づいたものがある。アジアは“ズレ”の文化だ。

 アジアはさまざまな民族、文化、風土、言語などすべてが少しずつズレを生じながら重なり合い、それがグラデーションのように濃淡のある一枚の絵になっている。

プラナカンの窯元には茶器、皿、箸置きなど、おみやげにもぴったりなアイテムがズラリ。
プラナカンの窯元には茶器、皿、箸置きなど、おみやげにもぴったりなアイテムがズラリ。

 この絵の中でプラナカンの人たちは自身が持つ美意識やセンスを用いて、“しなやか”にアジアを「編集」していった。僕もこのアジア微住の活動を通じて、プラナカンの人たちのようにハイブリッドな考えや生き方を体現したいんだと思う。

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