広い意味でのデザインという観点で、魅力と個性に優れた個店を表彰する「『地域のお店』デザイン表彰」。静岡県が2016年度から取り組み、2020年度は5店舗が大賞、優秀賞、特別賞の各賞に輝いた。今回は、「店舗デザイン」、「コミュニケーションデザイン」、「ソーシャルデザイン」の審査基準に、新しい生活様式の実践を意味する「ニューノーマルデザイン」の項目も加わり、審査が行われた。
大賞に選ばれたのは、2016年にニットデザイナーの村松啓市さんが島田市で開業した『AND WOOL』。茶畑に囲まれた店舗兼工房は、元々建築資材置き場だった建物をリノベーションして、ゆったりと過ごせる洗練された空間に蘇らせた。珍しい毛糸を実際に手に取ってみたい人や、手編み機を使ってカシミアのストールを作る体験をしたい人などが県内外から集まってくる。
村松さんは、イタリアに留学した経験があり、帰国後も東京で活動を続けてきた。そして、2011年に故郷の静岡県に拠点を移すことに。「海外と比べて日本では、カルチャーとしてもビジネスとしてもニットの価値があまり認められておらず、技術を育てて広げていくことから始める必要性があると思いました」と村松さん。今は手編み機で製品を作る技術を多くの人に習得してもらうべく無償で教えているため、広く場所を使えて維持費を抑えられるという理由からも、この場所に店舗兼工房を構えることにしたという。
地域の人たちとも連携し、イベントを数か月に1度のペースで開催。「農家の方が生産者を集めてファーマーズマーケットを行ったり、仲間の作家がポップアップ・ショップを開く際に、お菓子やコーヒーを販売する人が出店してくれたり、と周囲の協力に助けられています」と話す。
また、就労支援施設の協力を得て、障害のある方に編みの技術を伝えて、健常者と同じように、編み手として仕事を依頼する取り組みも行っている。関わる人が皆、今回の大賞受賞を喜んでくれているという。
「手編みのニットには多面的な良さがあります。工業製品にはない立体感がありますし、ニット製品の場合、一人では完結しないので、コミュニティの中でほかの人との関係性が醸成されていく面も。日本中から私たちのニット製作に関わりたいという依頼もたくさんいただいているので、この活動を続けてニットの価値を高めていきたいと思っています」。地域の人との関係性を豊かに紡ぎながら、日本中の人々ともつながるこの取り組み。新しいニットの価値が、静岡県から世界へと発信されていく。
この『AND WOOL』をはじめ「『地域のお店』デザイン表彰」で受賞したお店は、魅力のあるところばかり。刺激や発見を求めて、足を運んでみては。
指出EYE
シンプルであたたかいデザインの店舗。職人さんが製品を作る様子を見ることができ、製品に対して愛着や信頼が生まれる仕組みになっていると感じました。障害のある方の就労支援・所得向上や、地元農家と連携した青空市の開催など、幅広い地域貢献も素晴らしいです。
静岡県「地域のお店」デザイン表彰
地域や社会への貢献、個店の持つべき機能の発揮等、広い意味でのデザインという観点から魅力と個性に優れた静岡県の個店を表彰。今年度で5年目。
https://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-570/hyoshokekka2017.html